第14話:誰の目にも触れさせたくないほど、愛しています
教国が自滅し、大陸に静寂が訪れた。
だが、ガラルド帝国の城内だけは、別の意味で緊迫した空気が流れていた。
「……陛下、まだ行くのですか?」
「当たり前だ。これほど目立ってしまった以上、悪い虫が寄ってくる前に、君を誰も知らない場所に連れていく必要がある」
アルカード様はそう言うと、私をひょいとお姫様抱っこで持ち上げた。
行き先は、精霊たちでさえ簡単には入り込めない、帝国の秘境にある「星降る離宮」。
「ここでは、誰もお前を『聖女』とは呼ばない。……ただの、私の妻だ」
離宮に着くやいなや、アルカード様の寵愛はさらに熱を帯びた。
朝から晩まで、彼は私を離さない。最高級の果実を口に運んでくれ、私が歩こうとすれば「足が疲れる」と言って抱きしめられる。
「陛下、私、これでは甘やかされすぎてダメになってしまいます……」
「いいんだ。母国で冷遇されていた分、私が一生をかけて、君を甘やかし尽くすと決めている」
彼が私の首筋に顔を埋める。その温かさに、かつて孤独だった私の心は、完全に溶けていくようだった。
◇◇◇
その頃。
エルナを捨てた母国・ロセリア王国の国境付近。
「……おい、止まれ! 貴様、不法入国の罪で捕縛する!」
泥まみれの服を着て、痩せ細った男が兵士たちに組み伏せられていた。
かつての王太子、カイルである。
彼は追放された後、帝国の豊かさを忘れられず、物乞い同然の姿で再び国境を越えようとしていた。
「離せ……! 私は、エルナに会わなければならないんだ! 彼女は私の婚約者だ、あんな恐ろしい皇帝から助け出さなきゃならないんだ!」
カイルの瞳は濁り、現実が見えていなかった。
一方、公爵令嬢として贅沢を極めていたリリアは、今は王都の片隅にある孤児院で、泥にまみれて働かされていた。魔力を失った彼女には、それしか生きる道がなかったのだ。
「……お姉様、どうして……。どうしてお姉様だけが、あんなに綺麗な服を着て、あんなに素敵な人に愛されているのよ……っ!」
かつて自分がエルナに向けていた嘲笑が、そのまま何倍もの重さになって自分に返ってくる。
彼女たちの絶望を知る由もなく、エルナは星空の下、アルカード様と愛の誓いを新たにしていた。
「エルナ、私との間に、新しい命が欲しいと言ったら……困るか?」
アルカード様の熱い眼差しに、私は顔を赤くしながらも、そっと頷いた。




