第10話:さようなら、私を愛さなかった人たち
禁忌の呪いが霧散してから数日。
母国・ロセリア王国は、自業自得という言葉では足りないほどの破滅を迎えていた。
呪いの逆流によって、王城の一部は崩壊。
首謀者であるリリアは、その美しい容姿を失っただけでなく、魔力回路が完全に焼き切れ、もはや精霊の姿を見ることも叶わなくなっていた。
「……お姉様、助けて……。私を治してよぉ……」
独房の中で泣き叫ぶリリアの言葉が、エルナに届くことはない。
◇◇◇
そして、帝国の国境。
アルカード様の慈悲(という名の最後通牒)により、追放処分となった父・アシュバッハ公爵と、王太子の座を剥奪されたカイルが、護送車の中から帝国の景色を眺めていた。
「(……これが、死の国だと?)」
カイルの目に映るのは、自分たちの国よりも遥かに豊かな、黄金色に輝く麦畑。
そして、空を優雅に舞う精霊たちと、笑顔で暮らす民衆の姿。
すべては、エルナがこの国に持ち込んだ「幸福」の結果だった。
ちょうどその時、帝国の街中に巨大な魔力投影が浮かび上がった。
帝国全土に中継される、皇帝アルカードと新皇妃エルナの、結婚式のパレードだ。
「……っ!!」
カイルは息を呑んだ。
そこに映っていたのは、今まで見たどんな女性よりも、そしてかつて隣にいたどの瞬間よりも美しく輝く、エルナの姿だった。
アルカード様に愛おしげに見つめられ、幸せそうに微笑む彼女。
その頭上には、祝福を贈る精霊王の冠が輝いている。
「ああ……エルナ……。俺が、俺が悪かった……戻ってきてくれ……っ!」
カイルが馬車の格子を掴んで叫ぶが、その声は民衆の歓声にかき消される。
隣に座る父・アシュバッハ公爵も、もはや言葉を失い、ただただ震えながら、自分が捨てた「宝物」が他人の手で輝く様を眺めることしかできなかった。
◇◇◇
パレードの馬車の中、私はアルカード様の手に自分の手を重ねた。
「エルナ。……もう、あちらを見る必要はない」
アルカード様が、私の視線を優しく自分の方へと向けさせる。
彼の瞳には、帝国の大地よりも広く、深い愛だけが宿っていた。
「はい、陛下。……私は、ここであなたと共に生きていきます」
私がそう告げた瞬間、帝国の空に、精霊たちが放つ祝福の花火が打ち上がった。
私を虐げた人たちの断末魔など、もう聞こえない。
ここからが、私の本当の人生の始まりなのだから。




