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La DébrisCaprice  作者: 浅葱ナ
第一章【再帰的定義】
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第4話「ぶっ放せ、秘めたる思い!」

 場所は変わって、エスプリの所有する別邸。

 ここは数年前、彼女が王に熱心に頼み込んで作らせた屋敷だ。王城から出て、城下街。貴族の暮らす貴族街の中でも格別な土地に広く作ってもらったパーフェクトフリースペース。

 ここでなら多少危なくても大丈夫だろう。


 好奇心の強いエスプリは図書室で知った知識…主に化学のそれを試してみようと、度々庭で爆発事故や毒を発生させてしまっていた。

 邸内には図書室からこっそり持ち出した厳選された本が保管されている。


「よしメルキュール、やってみましょう!」


「どの魔術にいたしましょうか?炎、水、雷、氷、風、地の6つありますが…」


「1番安全そうな風で…と言いたいところですが、わたくしとしましては火が見たいですわね…」


 雷でも良いが、火の方がまだ取り返しがつきそうだし。


「はぁ、分かりました。取得しますね…おや?取得出来ません」


「マジですの?何か条件とかあるのでしょうか?」


「〈取得権限を有していません〉とだけ表記されていますね。……はっ、もしかして、先程の『支配』関連では…?」


 権限、という単語から上下関係を思い浮かべ、先程の『支配』に繋げる。少し早計かもしれないが、それ以外に要因が考えられない。


「とは言ってもどうすれば…?…あ、わたくしの名前の隣にちっちゃい三角マークが新しく出てきましたわ。もしかしたらここに…あった!」


 三角マークを押すと、エスプリの名前の下に『メルキュール・ルロワ』と表示された。メルキュールの本名だ。


 メルキュールを選択すると、更に別の四角形が視界に現れる。


「コレでメルキュールの何かしらをどうにかするのかしら…?あ、わたくしの方にもう1つ変なマークがありますわね」


 そのマークは円形の周りに小さな四角をいくつかくっつけたよ様な形状。いわゆる歯車である。


「わ、なんかいっぱい出てきましたわ。…後にしましょう。まずは魔術が先ですわ!」


 メルキュールに手順を聞き、『炎魔術』を取得させる。


「取得出来ましたね。先の選択肢は…ふむ、これで発動?出来るのでしょうか」


 『炎魔術』のツリー解放と共に、初期スキルである『点火』が解放された。

 魔術との初邂逅はもうすぐそこである。


「はやくはやく!」


「少しお待ちを。何か的が必要なようです」


 メルキュールが邸内にあった火の灯っていない燭台を持ってくる。これで準備万端だ。


「それでは、試してみます。安全のため、離れておいてくださいね」


 4、5歩後ろへと下がる。メルキュールは手を燭台の方へと翳し、エスプリが離れたのを確認してから唱えた。




「『点火』」


 燭台に火が灯る。多少火力は強かったが、徐々に普通の燭台と同じ火の大きさにまで落ち着いた。


「…それだけ、ですの…?」


「いや、十分凄いかと。だって物理的に何もしてないんですよ?火起こしの手間とかが省けてとても楽になること間違いありませんし…ああ、失礼。エスプリ様には分からぬ感覚でしたね…」


 エスプリは少し頬を膨らませ、腕を組んで目を閉じる。そして意を決したかのように目を見開き、素早くスキルツリーを操作し始める。


「ちょっ、エスプリ様!」


「もう遅いですわよ!派手なのを見ないと気が済みませんわ!」


 『炎魔術』のスキルツリーを解放し、『点火』を取得。それだけに留まらず、次のスキルである『火球』まで取得した。


「『火球』!」


 エスプリが手を翳しながらそう唱えると、エスプリの掌の前に拳程の大きさの火の玉が現れ…結構な速さで飛んでいった。具体的には大きめの石ころを軽く投げたくらいの速さで。


 前方に向けて放たれた火球は運良く、他の貴族の住む屋敷に当たることなく空の彼方へと消えていった。




「すげーーー!!!ですわ!一体どういう仕組みなんですの!!」


「エスプリ様…」


「……えっと、その…」


「怒ってますからね」




⬛︎⬛︎⬛︎




 怒られた。それもかなり。メルキュールは怒ると怖いのだ。


「うーん…やっぱ気になりますわね」


「…それについては同意します。そもそもこの四角から仕組みが謎ですし、急に炎が出てくるのはもう色々と世界の法則から外れている気さえします」


「結論としましては…別に危険ではないって事でよろしい?」


「…使い方次第でしょうね。これでは放火事件が起きたとしても証拠は残らないでしょうし、犯罪の増加が見込まれます」


「でも、この事を知っているのは議員や大臣含めた上層部だけでは…あぁ、議員と同様に、偶然見つける可能性もありますわね」




 突然世界に起きた異常…その影響は彼女らには計り知れない。


「もうちょっとコレで遊ん…検証、検証したいですが…皆が混乱しているであろう今こそお父様を説得する絶好機でしてよ!邸内の本も再確認しておかなくっちゃ…」


 確認は済んだ。今はこんなことよりも大きな問題へと意識を戻さなければならない。邸内にどんな本を置いていただろうか。そう思ったが…エスプリの意識はまた別のところに持って行かれてしまった。




 突如、空が割れた。まるでガラスが砕けるが如く、空の罅割れは長く、大きく拡がっていく。空の断片は割れた日光を反射して光り輝き、まだ蒼く明るい天空に星が張り付けられたかのようだった。


「んなっ…⁈」


「エスプリ様、邸内に入っていてください。外にいる衛兵達に別邸の護衛を強化させます。天が割れるなど、これまでの状況と比べても特に異常…くれぐれも、身の安全を確保しておいてください」


「メルキュールは、どうしますの?」


「私は、王城まで戻ります。暫くすれば詳細な情報が分かるでしょうし、すぐに戻りますよ」


 空を見上げると、いつの間にか罅割れは消えていた。しかし、エスプリには何かが…罅割れの向こう側に見えた気がした。

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