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白世界  作者: 白龍閣下
白世界
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第八話 虹色のペンと彼奴らの血で悪夢を綴ろう

 久しぶりの更新です、はい……。

 携帯が鳴っている。サブディスプレイには『内藤嘉光』の四文字。……こんなの私は登録した覚えが無いんだが。

 場所は相変わらず新聞部室。相変わらず全員メガネという窮屈な状態。そりゃ突然変わった方がおかしいけどさ。

 そんな私の携帯に気付いた仁科さんが、声をかけてきた。

「文芸部からの着信ですか。しかし我々がそれを許すとでも思いますか?」

 ふざけろ。当然思わない。



 新聞部。一宮さんはそいつらが晴希を浚ったと言った。

 彼奴らの腕前は確かだった。誰にも発見されることなく晴希を攫っていったのだから。その辺りはオドロキだ。

 あそこの部長は三年の仁科由宇にしなゆうさんといったか。

 とにかく由宇という人は交渉が上手いと聞いた事がある。それがどういう事かは不明だが、仮にも晴希が説得されたら大変だ。俺が新聞部に入るしかなくなるじゃないか。

「秋津と離れるという選択肢は最早ないんだな」

 何て失礼な事をいうんだ一宮参謀は。

「だから俺は参謀になったつもりはない」

 こうやってモノローグにすら文句つけてくるし。

 とにかく、もう一度言う。新聞部の腕は凄かった。

 ただし、それと同時に相手が悪すぎた。文芸部を敵に回したが運の尽きだ。

 こうして一宮参謀によって晴希の居場所も割り出されている。ここから取るべき行動はただ一つ。

「早く新聞部に突入して皆殺しだ! 知ってるか! 文学には紙もペンも必要ないんだ! その時必要となるものはそう、愛と勇気とそれをねじ伏せるいかんともしがたい暴力だ! 早速奴らの血で文学をつづって──」

「落ち着け」

「何ですか一宮参謀! 晴希の居場所も敵の正体も分かったのに!」

 RPGだったらもうすぐボス戦だってとこなのに! アクションでももうすぐボス戦だってのに!

「あくまで仁科由宇がしようとしているのは説得だ」

 ああ、脅迫という名のな!

「説得という名の説得だ」

 冷ややかな口調で一宮さんは言う。俺は心の中で舌打ちした。せめて大曽根さんがいればこの人を説得することも──

「誠文は旅に出た」

 しかし、一宮さんが告げたのは残酷な現実だった。旅って何だ。晴希も随分と適当な理由で見捨てられたもんだ。そして俺の心も簡単に読まれたもんだ。すると、

「秋津の奪還は何とかなる。それ自体は造作もないことだ」

 唐突に一宮さんはそんなことを述べた。つまり……どういうことだ!? ならどうしてすぐ向かわない!? そしてどうして他の部員たちは緊張感もなくトランプで遊んだりしているんだ!?

 これは! 俺ら! 文芸部にとって! 本気と書いて! ガチで! 大変な! 事態なんじゃ! ないのかよ!?

「だから、落ち着け」

「待ってください! まずは説明から──」

「ここで新聞部を叩きに叩き潰しても、再びアクションを起こす可能性があるってことよ! 新聞部でもない、また別の何者かが!」

「お前もいちいちうるさい。落ち着け。最悪喋るな」

 近くに現れた小枝このえさんによって、そんな説明が付け加えられる。俺はなるほど、と腕を組んで考え込む。となれば──

「晴希を攫った新聞部を見せしめとして鉄釜の中に──」

「内藤」

 すぐさま忠告を受けた。いや、いい発想だと思ったんだけどな……。

「仕方ない。あれを教えてやろう」

「あれですか……。とうとう……」

 思わせぶりな一宮さんの一言。だが俺には『あれ』が何を意味しているのか即座に理解できた。

「すみません、『あれ』って何なんですか?」

 口を挟んだのは後輩のみのりだった。確かに、今のは非常に思わせぶりな会話だったかもしれない。

「ああ、教えてやろう。晴希の携帯の番号だ」

「秋津先輩の……あれ? それっておかしくないですか?」

「ん? 何がだ?」

 首をかしげるみのりに、こっちが疑問を覚えてしまう。そんなことよりも早急に新聞部を血祭りにあげないと。

「内藤」

「……すみません」

「なぜお前の思考は今日に限って誠文とシンクロするんだ」

「……すみません」

 また一宮さんに注意を促されてしまった。これ、今日で何度目なんだろうか。

「……それで、どこがおかしかったんだ?」

 話が途切れてしまったので、再びみのりに向かって問い掛ける。

「ええと……いいんですけど、なぜさっき話が途切れて」

「気にしなくていい。ここは平和な日本国だから」

「……ええっと、それは?」

「いや、なんでもない。ここをイラクだなんて考えちゃいないから、イラクじゃ駄目ならレバノンにしてやるなんて考えちゃいないからその変な所を教えてくれ」

「じゃあ言いますけど……。ええっと……内藤先輩は秋津先輩の彼女なんですよね?」

「おう……え?」

 いやその理屈はおかしいぞ! 何で俺の方が彼女になるんだ!?

「すいません間違えました……秋津先輩は内藤先輩の彼氏さんなんですよね?」

「それも違うってかさっきと意味同じ!」

「じゃあ、ええっと……うーんと……秋津先輩は、内藤先輩の彼女さんなんですよね?」

「おう」

 みのりの問いに軽く答える。当然だ。超当然。むしろお嫁さんでいい。でも晴希はなかなか踏み出してくれない。

 いやそれにしても、なんでこいつは二度も変な間違いを──

「じゃあ……なんで今まで番号を知らなかったんですか?」

「…………ぐふっ」

「先輩!?」

 非常に痛い。ロンギヌスで胸を貫かれた気分だ。

「ええと、あれだ。あいつツンデレだからな。簡単には教えてもらえないみたいで。下手すると『ときメモ』のメインヒロインより攻略しにくいかもしれんぞあいつ。やったことないけど」

 あいにく俺の隣は晴希で埋まっている。二次元なんぞに心を許す余裕はない。

「はあ……それで、なぜそんな人の番号を参謀先輩が?」

「偶然にも手に入れたとかな」

「ほんとに偶然なんですか!?」

「ああ、科学とオカルトの結晶だってさ」

「なんと……」

 みのりは驚愕していた。当然といえば当然だ。俺も初めて聞いた時同じ反応だったし。

 ちなみに脇では一宮さんが「俺はいつの間に参謀先輩になったんだ」などと言っていた。……一宮さんには後できちんと謝っておこうと思う。

 今回は若干暴走気味の嘉光を。晴希以外の一人称で一話書いたのは初めてかもしれません。

 まあ、もっと暴走させたいとは思ってましたけどね。

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