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白世界  作者: 白龍閣下
銀色事変
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第七十一話 メインヒロイン

 家に帰った後風呂に入り、夕飯も食べ終わって部屋に向かった後の事。私は携帯電話を開いた。待ち受け画面に戻していなかったらしく、先の一宮さんのメールが一瞬目に入ってくる。……私はそれを見なかった事にし、素早く電源ボタンを短く押した。

うん、だから何も見てませんって。何かあるように見えたのはきっと目の錯覚だろう。人は何もないものでも脳が勝手に別の何かだと判断する事があるらしい。つまりはそういう事だ。気にするとこれもきっと禿げるだろう。要注意だ。

 して、アドレス帳に登録された名前を探す。あいつとは色々あった末アドレスを交換するに至ったのである。

 名前を見つけ、通話発信する。さあ、この想いよ、届け!

 開始二秒で出た。

「早っ!?」

『もしもし? 誰?』

 電話回線の向こうから聴こえてくるか細い声。……うん、少しばかり緊張したもんだが大丈夫だ。

「……ああ、画面見れば分かるだろうが」

『……ん、大仏殿だいぶつでんさん?』

「違えよ大仏殿さんって誰だよ」

『……その声と突っ込みは、晴希?』

「いやそれで何で判断基準が神原駿河かんばるするがと同じなんだよ」

 しかも画面見れば分かるって言っているのに。機械音痴? いや違う。それなら二秒で通話に応じるられる筈がないからな。

 ……と言う訳で。

 電話の相手は何を隠そう、似非無口キャラこと杭瀬弥葉琉である。

 前の騒動の時、私が杭瀬を疎かにしたばっかりにあいつは私から離れてしまった。結果的に良かったものの、危うくあいつを独りにしてしまう所だったのだ。だからこそあれから話をしてやったり、メールアドレスの交換をしたりした。

 こいつの事を信頼して、それでいて時々は気にかけてやるって約束した。

『大仏殿尋人ひろひとさんはね、二期の第五話に出てきたアニメオリジナルの登場人物なの』

「……あっそう」

 何で菅原と同じ回なんだよ。いやあの後輩自分で違うって言ってたし関係ないけどさ。ってかこいつにその話言ってないよね? 何故被ったしと言う他ないんだが。

「まあその大仏殿さんの事はいい。それより言っておきたい事がある」

『何? やっぱり告白?』

 ……やっぱりって何だやっぱりって。ひょっとして期待でもしてんのか?

「いやしかし私は朱鷺羽と違ってレズじゃないからな?」

『そう…………え?』

「何でそんな予想外なリアクションを取るのかねお前は!」

 この電話の相手はさっきからまるで動揺してるような上ずった声で喋っているんだが、はっきりと言わせて貰おう。演技である。いやあ……呆れるね。さっきから私突っ込みに追われてばかりだし。

 確かに私はこいつを信頼すると言ったが、生憎盲信する気などは全くない。あんな事があった後でもこいつはこんな冗談ばかり言う事に変わりはないし、何より信じてやると言った手前すぐさま騙されたというのもある。……うん、考えてみるとだんだんムカついてきた。決して言葉には出さないけど。

『晴希、五月蝿うるさい』

「……ああ、うん、そうだな。悪い」

 確かに電話口でこんな叫ばれても迷惑なだけだもんな。私は話を戻し、本題に入る。

「……あの転校生の事だよ」

『仕返しはよくない』

「いや、別にその気はないんだ」

 向こうが余りある私の弱さを配慮出来てなかったってのもあるからな。「なんでそんな強いの?」とか言ってたしな。お前に何が分かるのかと。

 現に私は見た目運動出来そうだとか言われる事があるが、体育の授業とかやってられない。百メートル走さえも私にとってはマラソンだ。どうだ恐れ入ったか。

『という事はつまり?』

「ああ」

『……星ヶ丘を晴希が攻略するって事?』

「何でだよ!」

『晴希、五月蝿い』

「いやいやいや……」

 二度目の文句に頭を抱えた。

 それでも杭瀬は容赦をしない。

『確かに晴希が何だかんだで秋津ハーレムを増やしていたいのは分かるけど……』

「ちょっと待て、秋津ハーレムって何だ初めて聞いたぞ」

 新出単語に思わず戸惑った。そして大体予想は出来ているんだが、愚かにも私はそれを聞きたくなってしまった。

『いや、だから、邦崎さんと朱鷺羽と守坂と、あとメインヒロインの私だけど?』

「いや何『当然でしょ?』みたいな感じで言ってんの?」

 それ私含めて皆ただの女子生徒だからな? そしてやっぱりお前はメインヒロインになるのかよ。

「ってかハーレム云々なら普通に内藤だろうに」

『え? メインヒロインが?』

「ねえよ」

 そんなのないし、あって欲しくもない。勿論あいつが実質ハーレムの主って現状も認めたくはないのだが。

 しかし本当にこいつはよく分からない奴だ……とはいえ、これからこいつともちゃんとやってかなきゃならないんだよな、私は。なんせ私はこいつの数少ない仲間なんだから……時々、と言うかかなり頻繁に殴りたくなってくるけど。

『……まあ、大体の事は分かった』

「ん? ハーレムの事か?」

『いい加減そこから離れて』

 お前が言ったんだろうに。正直ちょっとキレかけたぞ?

『晴希の選択は何も間違ってない』

「ああ、知ってる」

 朱鷺羽もそう思ってくれていた。一宮さんもやれと言った。人の意見にそこまで影響される主義でもないんだが、ここまで言われれば自分を疑う事なんてまず出来るわけがないだろう。

『……何だか腹が立ってくるのはどうして?』

「いや私に訊くなよ」

 それを言うならこっちの方だ。先程も述べた通りこいつの発言にはたまに苛立たされたりする事がある。いや、苛立つとまではいかないんだがね。前ほどは苦手じゃなくなったし、そう考えると私の沸点の方がかなり低くなってしまったのかもしれない……精進しなければ。

「あー……すまん、杭瀬」

『まあ冗談だけど』

「冗談かよ!」

 謝ってすごく損した気分だ。

「まあ、とはいえお前にも太鼓判を押して貰ったのは素直に嬉しいよ」

『晴希……ひょっとしてデレ期?』

「五月蝿い黙れ」

 くそ、素直に言って損した。私はあれだな、もっと内向的でクールにならなきゃならんのかもしれない。

『でも、どう致しまして』

「くっ……」

 私は屈辱に打ち震えた。電話の向こうの声が余りにも得意げだったからだ。

『それなら私からも一言──晴希は、十分強いよ』

「…………は?」

『それじゃ。他に伝えたい事はあった?』

「いやちょっと待てよおい」

『ないみたいね。それじゃ』

「いやだから待てって!」

 ツーツーと、無情にも電話の切れる音が響く。

「……意味が分からん」

 携帯を机に置き、やはり私は嘆息した。まあ確かに特に伝えるべきこともなかったのだが。

 星ヶ丘に続いてお前までそんな事を言うのか。つくづく謎ばっかりだ。この私が何となくで珍しくコールしてやったと思ったらこれだ。電話しない方が良かったのかもしれないとか、そんな事も思う。

 そのままベッドに倒れこみ、私が星ヶ丘に昏倒モノの一撃を見舞われるに至るまでの出来事を思い返してみる。

 あれは今から……何時間前だったか。まあそれっぽく言うまでもないな。なんせ今日の出来事だ。

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