第六話 秋津晴希は最高の女
久しぶりの執筆……の割に短いのはご愛嬌ですとも。
秋津晴希は、最高の女だ。……いやいや、君らが想像しているような性的な意味じゃなくてですよ?
秋津晴希が性的な意味でなく俺にとって最高に最高な女であるというその認識について「何故だ?」なんて疑問持つまでもないはずだ。これまでの話における晴希の活躍を見ていればまあ君たちはもう晴希にメロメロになっていることだろう。渡さないけどな。
それとも君たちにとって、そんなことはどうでもいいのかな?……いや待てそう言ったやつら、頼むからもう少し考え直そうぜ? このまま晴希のことを誤解されるのも俺にとっちゃ不愉快だしさ。
晴希は誰がどう言おうが最高なのだ。
たとえば小動物のような、敵意ではない若干の警戒心を持った鋭い目。
たとえば自分気を使ってませんよとばかりにだらしなく跳ねるくすんだ黒髪。
たとえば平らとまでは言わないまでも服の上から判断できる程度の小ぶりな胸。
たとえばそれらへのコンプレックスを取り繕おうとするかのように使っている男口調。それらを含めた全体として中性的な雰囲気。
たとえば文句を言いながらも決して部活を休まない律儀すぎるくらいの律儀さ。たとえばそれでいて自分の幸せは内藤嘉光の不幸だなんて言ってしまう遠慮の無さ。たとえば何にも興味がないようなふりをして本当はいろんなことを知っているところ。たとえば入学時に学ランなんて物を買ってしまうような、意外に抜けたところ。たとえば何か気に触れるようなことを言っても本心から怒ることはほとんどなかったりする優しさ。たとえば虫一匹殺せない非力さ。たとえば高校二年生にしてどこか悟ってしまっているところ。
──そして何より、ツンデレだ。
これだけ言えばもうわかるだろ? 秋津晴希は、最高の女だってことぐらいさ。
さて、俺が突然晴希の話に割り込みつつこんな事を言い始めたのには理由がある。
その最高の嫁の秋津晴希が、何者かに攫われてしまった。
これは大変だ。ゆゆしき事態だ。本来なら晴希に傷一つつけておきたくないのに、まんまと出し抜かれてしまった。まさか拉致なんて大胆な行動に巻き込まれてしまうとは思いもしなかった。
現に参謀の一宮さんすらも「こんな事態くらい予想はできていた。手は打てる」と焦っているわけで……
……はい? 一宮さん?
「Hi, Ichinomiya!! What are you saying!?」
「I say that it’s not in a hurry. In assumption this, the preparation has been thorough.」
「……日本語でお願いします」
「焦るなと言っている。いずれ奴らがこんな風に仕掛けてくるのは想定の内だったしな。準備もできている。それと──」
と一旦言葉を止め、黒色に金色の混じったような髪の毛を軽くいじったあと一宮さんはこのように言った。
「俺は間違っても参謀じゃない」
新学期が始まり、新入生も新たに加わり、そっから一週間経過。今日の五限において、私はついに体育の授業と言う障壁にぶち当たった。
ご存じの通り運動能力というものが終了してしまっている私には一〇〇メートルをお天道様の中全力疾走するなんて真似不可能なわけで、普段なら見学と言う至極退屈な役割を全うするのだが、やはり体力テストくらいはやっておけというわけで私も参加する事となった。言うまでもなく結果は惨敗だ。上体起こしとか出来るわけないだろ。
まあ保健室に行く必要がなく、悠々と六限目の化学の授業を受けられた辺り、私の勝ちと言ってもいいんじゃなかろうか。内容はよくわからなかったけどな。
で放課後。一介の文学少女であるがゆえに体育がかなり苦手で化学もちょっぴり苦手であるところの私は今、
「さて、話を始めましょうか」
この状態で何が話だ、と思うのだ。
その部屋はなんというか、生徒用の部屋とは思えないような清潔感を醸し出していた。逆に言えば実用性においては微妙とも言える。パソコンは部屋の隅の机に一個申し訳程度に置かれていて他はすっきり。部屋の真ん中に会議に使うような折り畳み式の長机を組み合わせ、それをパイプ椅子で囲っている。
パイプ椅子に腰掛けている生徒達は全員眼鏡装備。一番奥でまるでゲンドウのように腕を組んで座っている三年生(やはり眼鏡)の女子は仁科由宇さんというらしい。そして横の壁際に置かれたホワイトボードには堂々と『報道とは九割の嘘と一割の偽りだッ!』と書かれている。……それは最早報道の欠片もないんじゃなかろうか? まさかの真実〇%配合。何故それを勢い良く言い切る。
で、かく言う私はお縄にかかってしまっていた。とは言っても私が窃盗罪をやらかしたわけではないし、詐欺罪に手を出したわけでもない。ならばと麻薬の運搬密売に手を出していたわけでもない。犯罪は嫌だ。かといって別にそっち系のプレイが好きなわけでもない。マゾでなければレズでもない。レズでないといってもバイでもない。元々語り手的な立場として危ういのに、そんな事があってたまるか。
ここに至るまでの経緯を簡潔に述べるならば、とにかくわけのわからないまま頭に袋をかぶせられ、新聞部に拉致されてしまったという流れだ。そして説得という名の脅迫を受けている。
それにしても拉致とはスケールが大きい。現代の若者にもこんなアクティブな人はいるんだな。やはり偏見は良くないな。日本という国はまだまだ安全には足りないみたいだ。
……いや、なんかもうリアリティがなさすぎてかえって客観的に思えてしまう。
仁科さんは組んでいる手を解き、口を開いた。
「新聞部って、どうでしょうか?」
「…………」
どうでしょうかと言われても困る。そうだな、強いて言うなら──
「強いていうなら、少々縄がきつかったと思います。というか解いて下さい。痛いです、色々な意味で」
こう答えるしかなかった。
「ふむ、私たちがそんな簡単に解くとでも?」
仁科さんが眼鏡の奥にある目を見開き睨む。
いや、最初からそんな事は思っちゃいない。待てと言われて待つ奴がいないように。だからこその強いて言うならなのだ。
「仕方ありませんね。解きましょう」
って結局解くのかよ。いや嬉しいけどさ。
そうして彼らによって私の忌々しい拘束が解かれる。試しに手首の関節を回してみるとバキバキと音が鳴った。よしこれで全力が出せる。全力って言っても普通の人の三割にも満たないけどな。
「縄の跡がついてますね。まるで縄文土器みたいですよ。ふふっ」
「大して上手い事言ってねえ!」
思わずタメ口で突っ込んでしまった。いやだって、縄の文様で縄文土器だろ? そのまんまじゃないか。寧ろどう褒めろと?
しかし勢いとは言えため口になってしまったのは事実。仁科さんは部員に目配せした。
何かの音。そして数秒後に大柄の部員が運んできたのは──コップに入った水。しかしこいつ、見覚えがあると思ったら同じクラスの奴か。
「どうぞお飲みください」
そう言ったのは、やはり仁科さん。
「…………」
明らかに怪しい。裏か? 何か裏があるのか? そうやって私が訝しんでいると。
「怪しいと思うのなら、飲まなくても結構ですよ。では秋津さん、あなたもそろそろこの部室に馴れてきた所でしょうから、ようやく本題に移りましょう」
仁科さんが眼鏡の奥の目を光らせながら私の目を見て言い聞かせてくる。そして再び手を組み直した。
さて、どうしたものかね……。
ところで後書きって何を書いたらいいんでありましょうか。
キャラの特徴とか、ショートネタとかっすかね?
とりあえずサブタイトル、自重します。