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白世界  作者: 白龍閣下
茜色革命
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第六十四話 三人

『……私はな、全部解ってんだよ! お前がさっきあんな風に動いてしまったわけも、今こんな風に動けないわけもな!』

 屋上からはそんな強い口調の晴の声が聞こえてきて、まあ予想通りとはいえ、不覚にも俺は笑ってしまった。そりゃいつものあいつから想像出来る事じゃあねえよな。

「どうだよ、コエダ」

 そして一見つまらなさそうな表情の小枝に問いかけてみる。

「これが俺達の後輩だぜ?」

「…………」

 だが依然、こいつは黙ったままだ。

……ま、それでも俺の言いたい事ぐらいはちゃんと分かってるだろうよ。ただ言える事がないだけさ。だって、どう見てもこいつはある奴と同類だからな……。

「これが俺達の後輩だぜ?」

 だからもう一度、俺は同じ事を言った。別に催眠療法は信じちゃいないが、まぁ二回言って悪い事なんてのもないだろうさ。

「…………」

 だが、こいつは何も返してこない。随分と冷たいもんだ。

 まあそれでもこいつなら、確かに言いたい事は分かっちゃいるはずだ。

 なんせお前に似た、裏と表の板挟みで迷い苦しんでばかりの似非無口がついに動き出したみたいだからな。

 ああそうだ、お前はあの似非無口野郎と同じなんだよ。平気そうな表情で悩んで、平気そうな表情で苦しんで、味方なんてものはてめぇ一人だけだと思って、そのてめぇ自身にまで縛られてやがる。

 それだと守れる物も守れやしない。ま、俺は最初から何も守る気なんてないんだけどさ。

 ──んで、そのお前と同じあいつが吹っ切れたんだ。これでも何も出来ないか、コエダ?

 そう思い、小枝の方に視線を向ける。こいつには敦次と同じく他人のモノローグを覗くという大層オドロキの特殊能力があるみたいだが、そんなもん使わなくても俺の言いたい事ぐらい分かるはずだ。物語ってのはそんな風に出来ている……なんてカッコつけてもみたり。

「この私は、まだ答えは出さない」

 すると、やっとこいつは口を開いてくれた。

「ただ言えるのは、この私に守る物なんて存在しないという事だ」

 おっと、似非無口の同類かと思ったらやっぱり俺の同類でもあったのか。こいつは失礼。

「ま、いいや」色々思う事はあったが、「そうかい」とだけ俺は返しておいた。

そんな俺の様子に小枝は、

「……どういう事だ?」

 と疑問を呈した。どういう事って……あぁ、そういう事な。

「んなもん俺の管轄外の話だよ。お前を止められりゃそれでいい」

 俺は拳銃やら何やらをぶっぱなしてりゃ満足なんだから。その上お前を変えてやろうなんてキャラがぶれるぜ。

「コエダ」

 ま、俺に言ってやれる事なんてせいぜい、これくらいが限界だろ。

「今日は楽しかったぜ。また相手してくれ」

「それはどういう……」

「おっと、電話だ」

 ポケットから携帯電話を取り出し、真っ黒でシンプルなデザインの、それを開いた。さすが、電波は安定の三本、満点だ。

 ちなみにここ数日は謎の妨害電波で晴辺りの雑兵の連絡手段ははことごとく断たれているが、俺や敦次の携帯となるとえらくスタイリッシュなおかげでこんな妨害電波などなんともないのだ。

「よう、敦次」

 そんなわけで、電話の相手はその敦次、俺達の参謀先輩だ。

『誰が参謀だ。それにお前の先輩になった覚えもない』

 今日も絶好調じゃねえか、参謀先輩。お前の読心術は電波も飛び越えるのか。

『……様子はどうだ』

「ああ、コエダと遊んでたぜ」

『聞くまでもなかったな』

「そっちこそどうよ? 晴と似非無口が面白い事やってたみてぇだが」

『ああ、偶然にも秋津が仕事をしたな』

「はっ」

 こんな中でもいつもすぎる展開に、笑いが込み上げた。こいつの「偶然にも」ほど信頼出来る物もないだろう。

『偶然にも杭瀬を見つけた朱鷺羽は、突如階段を降り始めた杭瀬に驚いていたそうだ』

「だろうな」

『その後扉を開けてみたが、秋津は動こうとしなかった』

「そいつはまた……」

 何なんだろうな。晴なりの贖罪って奴なのか? やれやれ、あいつはスペランカーのくせして無理しやがって……。

「で、他はどうよ? 色男とか米野郎とかさ」

『……内藤は邦崎を連れて教室を飛び出た』

「ああ……? 邦崎って誰だっけな?」

『……それは昨日説明しただろ』

 呆れたような敦次の声。だが残念ながら俺には覚えがない。もしかしてこれは俺にとっては明日説明する事だという敦次なりの天界ジョークだったのかもしれない。つくづく知らないうちにこいつには先を行かれてるな。

『いい加減にしろ』

「冗談だよ」と笑う。「あの似非親友だろ?」

『……ああ、その秋津の似非親友だ』

 そう答えて、敦次は一拍置く。

『監視によると階段の下らしい。稀有だな』

 なるほど。でもそれこそお前、偶然って言えばいいのにな。

「……まぁいいや、あいつにはあいつなりに頑張ってもらうか」

『あぁ』

「それで、米野郎はどうなんだ?」

 納得した俺は、もう一人の事を聞いてみた。米野郎? そりゃお前、あの米野郎の事だろうよ。大曽根的スラングだ。

『守坂は無事一クラス分を抑え込んだ』

「なるほど、木っ端ミジンコにしたと」

 と冗談を言ってみる。木っ端ミジンコ? そりゃお前、木っ端ミジンコの事だろうよ。

『……まぁそれでいい』

 どうやら諦めたらしい。

『騒動に応じてすかさず避難と称したエスケープをしようとした生徒達を一人残らず蹴りで昏倒させた。兵糧だけで随分と変わる戦力だな』

「……全くだな」

 冷静に言うが内容のものすごい敦次の台詞に、さすがの俺も冷や汗が垂れた。いや、下手すりゃ俺より働いてんじゃねえのそいつ?

『いや、天森小枝一人でも雑兵百人に匹敵するだろうからな』

 雑兵て。

 それでもありえねーだろ。蹴りだけで一クラス全滅させるなよ。

『全滅ではない。取り込める一年は取り込んでおいた』

「そうかい、そりゃ楽だったろうな」

 まぁいいや。お前の事だ、どうせこれからもあいつを利用するんだろ?……あ。

「そんな事より敦次」

『どうした』

「コエダが消えたぜ」

 と俺は伝えた。

『…………』

 そして電話の向こうの敦次の反応も消えた。

「おい敦次、生きてるか?」

『……故意だな?』

 電話の向こうの敦次に晴と同じような確認を取るが、それに対し敦次はそんな変な事を聞いてきた。

「ん? 何の事だよ?」

『……まぁいいさ。お前の仕事はもう終わったからな』

「お、いいのか?」

 あいつを放っとくなんて随分とお前らしくないじゃんか。

『黙れ』

 という声が聞こえ、二人を裂くように電話が切れた。

「……ふう、やれやれだぜ」

 普段後輩どもに見せる姿とは違うあいつの様子に、俺は肩をすくめた。

 ホント、小枝が絡むと様子が変わるもんだ。

「さ、先輩達はここでおいとまするとしましょうか」

 そう呟き、俺は自分の教室に向けて歩き出した。さあ、勤勉な俺はせいぜい自習でもしてるか。またいい成績を取らなきゃアホをからかえないからな。

 後は任せたぜ、似非ばっかの後輩ども。

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