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白世界  作者: 白龍閣下
茜色革命
59/87

第五十七話 凍えた思い溶かしたい

「閣下さーん! 出番ですよー!」

「任せとけ!」

 ……これの元ネタに気づく人は果たしているのか。ヒントは別の閣下さんが出てくるアニメです。そして今回のサブタイにも気づく人はいるのか。

 えー、御託はともかく、久しぶりの更新ですね。いろんな意味ですいません。

「さあ逝くぜ! まず一枚目!」

 ドロー! モンスターカード!

 上着の中から拳銃を取り出し、一瞬で照準を定めて一発撃つ。男は黙ってヘッドショット!

 躊躇はしない。当たればほんのちょっと非常に激痛を受ける事はあるだろうが、死にはしない。たまに人を殺せる性能の改造エアガンってのがあるが、こっちはその逆で、殺さない改造を施した実銃だ。専門的なことはともかく、あまり声を大きくして言えたもんじゃないな。見ての通り俺はごく一般的な学生君なんだから。ただ少し変わっているのは、ちょっぴりロマンを求めてしまうってところかナ。

 それに、手加減なんぞしてやれる相手じゃない。つーかこっちが手加減してほしいくらいだ。

 足を崩し身を翻し、大仰な動きでコエダは避けた。俗に言う「見切り」ってのとは正反対の動きだが、こいつにはしっかり弾道は見えてるんだろうな。そのまま回転の勢いに乗ってこちらに向かってくる。

 左からももう一本拳銃を取り出し、足元を狙って撃つ。ここで当たると思えるほど俺は浅はかじゃない。これは必要な撹乱だった。一旦相手のペースに呑まれたら終わりだ。ヘッドショット? とうに男はすたらせた。まぁ、もう一人の俺は、いい奴だったよ。

「んなっ!?」

 ついつい驚愕が漏れる。こう撹乱しても構わず前に出てくるのかこいつは。馬鹿なのかこいつは? 少なくともこの強さは馬鹿ってかバグか。

 そのままコエダは踏み込んで、拳をまっすぐ打ち込んでくる。咄嗟にガードした。

 だが拳は届かない。ガードを打ち破ろうともせず、そのまま後ろにステップで下がっていった。背中に目があるのかは知らないが、足元の弾も綺麗に避けながら。すげえ。

「一筋縄じゃいかないってレベルじゃねーぞこれ」

「そっちこそ、咄嗟のゼロフレームでスタンガンが出せるものなの?」

「出たもんは出たんだ。仕方ねえだろ」

「それなら仕方ないわね」

 右手に持ったスタンガンを再びしまい、代わりに一個拳銃を取り出す。名前? 忘れたね。覚えてられる数でもないし。せいぜい性能を身体が覚えている程度だ。

 それにしてもさっきの突きは本当に冗談じゃねえぞと小一時間問い詰めたい所だ。踏み込みの時の音とか半端なかったぞ。恐るべしコエダステップ。

「さて、更に行こうかしらね?」

 来るんじゃねえ。

 なんて嘆いてみても仕方なしに奴がこっちに走り出してきている事に変わりはない。仕方なしにまた迎撃体制を――。

「っし!」

 そんな鋭い呼吸音と共に見た目胡桃ほどの大きさの何かが直線軌道で飛んできた。これは――。

「弾かよ! しゃらくせえ!」

 小枝がさっき拾って弾き飛ばしてきた弾丸を、俺は咄嗟に銃の柄尻で叩き落とした。

 その隙に、奴は突っ込んできている。想定内だったが、反応が遅れる事に変わりはなかった。元々蟻の穴一つ見逃さないような奴なんだ。当然だよな。

 膝蹴りを飛ばしてくる。小癪にも弾丸を弾き落とした銃で視界が塞がれた右下からだ。

 だがそうであったにしろ所詮想定内は想定内。今更視界を塞ごうが、俺には関係ない。その奇襲で作れたのはたかが弾丸一個を叩き落とす動作の分だけの隙だけで、その成果なんてものは些細極まりない。

 何より、その死角からの蹴りを待ち望んでいた。手と違い足は、一度勢いに乗ると止められない。特に高い蹴りはだ。

「甘えよ! てめえにとっての最大の好機が――」

「私にとっては最大の好機!」

 この野郎、人の言いたい事を先に言いやがって。ここだけ見りゃただの合体技みたいじゃねえか――などと言うよりも先にコエダは身体を捻り、

 空中で跳んだ。

 いや、「翔んだ」って方がいいかもしれない。そんな空中コエダステップ。いずれにせよこいつはそんな非科学的な動きをして、その上で鋭いローリングソバットだ。全く馬鹿げてやがるよな。

「ああ、全くだ」

 だが、その会心の一撃は、俺には届かない。

 剣にも槍にも銃にも、何にでも間合いってもんがある。当然足にもな。接近戦の大技だろうが何だろうが、それが超接近戦ならどうだ。

 とはいえそんなリーチだとこっちもやりづらいだろうが――

「生憎こんなもんがあってな」

「それは残念」

 両手に取り出したスタンガンを持ちコエダに当てようとする。だがそれも叩き落とされ、

「俺の勝ちだな、コエダ」

 深く呼吸した後、得意げに言ってやった。スタンガンを捨てた両手は、そいつを捨てさせた両手首を掴んでいる。

「いいぜ、敦次」

 直後、つい偶然にも、爆発が起こった。




 風を感じる。これが私の力か……

 ……なーんてね。

「はあ……」

 自らを取り巻くあまりに混沌で不愉快極まりない状況に、私は人知れず嘆息した。

 今の私の恰好はカッターシャツにスカート、そして男子用の上着、それに靴下と上靴を履いている。

 要するに今現在私は、下着を身に付けていないのである――なんてシュールな展開は勿論あり得ないから安心してほしい。何言ってんだ私。

 まあ結局何が言いたいかというと、衣替えの時期がまだ先で助かったという事だ。

 春風という単語がある。そいつは実に暖かな響きであるんだが、それでも所詮風は風というか、実際のところ外は実に寒い――今のところこうやってサボり、貴重な授業時間を立ち入り禁止の屋上で何もせず費やしていて得られたのは結局その程度の教訓だった。これだから言葉の響きってのはあてにならないんだ。くそったれ。

 そう、これは最早一種のクソゲー。嘉光の存在ばりに非効率で私の士気もだだ下がりだ。そういうと落ちるだけ落ちた気がしなくもないが、しかし残念ながらこれ以上落ちないという確信はない。やはり嘉光の存在ばりに不条理で、上がるのは不快指数だけ。状況が変化するのが先か、私が折れてしまうのが先かという、これもまたクソゲーとなる。どこかでポジティブに切り替えなければ、いつまでも悩んでいられる気すらする。

 杭瀬曰く今現在文芸部の方々は下で色々と頑張ってくれてるそうで、その無価値な嘉光のあんちくしょうをここに連れて来るからせいぜい腹くくって待ってろなどという、確かそんな話だったはず。これ前回までのあらすじな。

 んでここから出るな、ともあいつは言ってたな。そういえばここは屋上、つまり外であるわけで、日本語ってややこしいな、などとどうでもいい事をふと思ってしまう。

 そして寒い。……あ、今のジョークがじゃなくて周りの気温がな。地球温暖化とかヒートアイランド現象とかただの都市伝説だろ。フェーン現象ぐらい起こってくれないだろうか。……無理か。

 まあだがこんな風に呟いている私にもそれなりに忍耐力というものは存在するわけで、利口にも我が生命を掛けてここで待ってやっているわけだ。分かりやすく言えばツンとデレ。何か違う気もするけど。それはともかく、どうだ。不覚にも泣けてしまう話だろ?

 ……いやしまったな、最初にハンカチの用意を促しておけばよかったかもしれん。これを見る時は部屋を明るくして画面から離れ、なおかつハンカチの用意を、みたいな感じで。

 ああ、あと一つ重要な報告。さっき何かが爆発したような音が聞こえたが、すぐに止まったみたいだ。何が起こったのかはよく分からないが、とりあえずだらしねえなと言ってやりたい。つか寒いんだから早く来い。私が死んでしまってもいいのか。下着つけててよかったよ。外す気なかったけど。

「くそ、内藤……!」

 ついついその名が口から出た。そうだ、この状況も全て内藤嘉光が悪いんだ。そうに違いない。そうでなければならない。自然の摂理である。

 大体あの事件が起こるまでは、

『ヘイ晴希! 僕は互いの親睦を深め合いたいんだ。だからそういう意味でも結婚しようZE☆』

 確かこうだったはずが、再び会った時には、

『オウ済まないネお嬢ちゃん。……ン! そういえばマイハニーを待たせてたじゃん! AHAHAHAHA!』

 こんな感じになっていた。うん、確かにこんな感じだったね。一字一句間違いない。だんだんと怒りが込み上げてきたぞ。怒りゲージマックスだ。マックスハートだ。プリティでキュアキュアだ……うえなにそれ気色わる……まあとにかくだ!

「……勝手に近寄ってきて勝手に忘れ去って、そんで勝手に消えて? ふざけんな馬鹿野郎」

 こんな風に私は束縛されてばかりなのに、どうしてお前はやりたい事やって、いてほしい時にいないんだよ。ヒットアンドアウェイ気取ってんのか。ふざけんな。

 ……いや、少し理屈が違ったかもしれない。

 ふとそこで冷静になった。一度怒りゲージを消費してしまったからかもしれない。とにかく少しばかり反省タイム入ります。

 まず、嫌いじゃないとは言った。だが当然そんなものは逃避であり、そんな逃避で事を終わらせようとした。あいつは限りなくしつこいからな。

 ああ、確かに嘉光はしつこいさ。それだけに留まらずゴキブリ並に気持ち悪くうざったく、そしてしつこい(繰り返させてもらうが)。死ねばいいとさえ思う。重ね重ね言うが、死ねばいいとさえ思う。本当に大事なことなら二度言ったっていいじゃない。

 そしてそいつから、私は逃げたんだ。

 それは人として、いや、生物として当然の行動だったのかもしれない。仕方がない事だったかもしれない。

 だが、一体それは何を意味する?

 私は非力な人間ではあるが、それでもあんな奴から逃げなければならない負け犬じゃない。そんなの私が絶対に認めるか。こっちはゴキブリ見ただけで腰を抜かすアマどもとは違うんだ。

 そうだ、結果的にはイエスかノーかの二択じゃないか。馬鹿言え、そんなもん嘉光に出来て私に出来ないはずがない。

「仕方がない」なんて糞食らえだ。いつまでも逃げてるだけだと思うなよ。

 そっちが逃げるなら、こっちが追うまでだ。

「ふん、糞ったれめ」

 そう吐き捨てて、来た扉の取っ手に手をかけ――

 ガタッ。

「…………」

 ……いや待て。ワンモアタイム。

 ガタッ。

「…………」

 ……ああそうか、これは引く扉じゃなくて押す扉で──

 ガタガタッ。

「…………」

 ……いやいや、『ガタガタッ』じゃねーですよ。SEきちんと仕事しろ。ドアの音ってのはもっと……いやいやそうじゃなくてだ。

 どっかの誰かさんがお茶目な事に内側から鍵を掛けてしまっている、という事なんだな要するに。

「ははは、糞ったれめ……」

 ……いや、落ち着け私。ひとまずは素数を数えて落ち着くんだ。逆境の中でも思考を放棄するな。

 まず状況を判断しよう。屋上は高くにあるから気圧が低くなって、ボイル・シャルルの法則に従って気温が非常に下がっているわけでとどのつまりこのままだと私は凍死、少なくとも凍傷で体の一器官が動かなくなってしまうだろう。漫画のブラックジャックでヴァイオリニストの人が指切るしかなくなるって話があったしな。さすがにこの年で五体不満足は勘弁だ。いや死ぬまで勘弁なんだけどさ。

 しかも困った事に私はこの脱出ゲームといったものの経験など『さっぱり妖精』が見えてしまうほどにさっぱりである。今度こんな事があった時のためにしっかりと予習しておこう、うんそれがいい。

 まあいい、それでも私なりにヒントを探そう。いつまでもたらればで引き摺っていても仕方がない。

 一見殺風景に見えるが実は一つ取り外せる石畳があるなんて展開でどうだろう。よし床を調べるぞ。

「……なんてな」

 そんな地道でシュールな脱出ゲームあってたまるか。もしあったとしてもそりゃただのクソゲーだろう。何回クソゲーって言葉使えばいいんだ私は。気をつけろ。

 ……実際人生はクソゲーなのだが、もしそのクソゲーがここにまで及んでいるというならもうそれは私の知ったこっちゃない。勝手にしろ。

 ガタガタッw

「うるせえよ!」

 ついにドアにキレてしまった。これで普段温厚たる私も最近のキレる若者の仲間入りである。なんだかとっても嬉しくない。……いや、なんかドアが嘲笑ってるように聞こえたんだよ。

 そうだ、まずはそのお茶目などっかの誰かさんに助けを求めよう。堅実にそんな考えに至り、私は携帯電話を開いた。こんな私でもアドレス帳にあいつらの名前はある。もっとも気付けば設定しておいたセキュリティすら勝手に潜り抜け登録されていたという次第なんだが。

『圏外』

 ……ああ、そういやそんな設定でしたね。すっかり忘れてましたよこんちくしょう! 中途半端に学校から離れると使えるようになるから悪いんだ!

「くそ、恨むぞ杭瀬! あいつ私の事が嫌いなのか!」

 激昂。そんな私の怒りに呼応するかのように、下から、足元から爆発音が響いてきた。

 空気を読んだな、流石は大曽根さん。そこに痺れる憧れる。

 後はまああれだ、空気を読んでこの寒さをどうにかしてほしい所存だ。

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