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白世界  作者: 白龍閣下
茜色革命
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第五十五話 反自然主義体制

 活動凍結、お許しください!

 あの後参謀先輩や話をしている間に入ってきた他の人たちに「うるさい黙れ」なんて注意されてそれに軽くげんこつを振るわれて、私は正気を取り戻した。「え、あ、ええ……」そしてどう言いつくろうか大いに迷う。

 それはそうと──もうすぐ、盛大に文芸部が動き出す。こんな馬鹿げた騒動を終わらせるために。

「さて、これから話を始めるが」

 私のせいで微妙な空気になった場を、鳥のような鋭い目で見渡しながら参謀先輩が取り仕切る。……あれ? そういえば大規模にやるって言ってたけどそれにしては人が少ないような?

 そんな疑問に答えてくれたかのように参謀先輩は話を続ける。

「まずは今回の人員についてだ。今この場にいるのが少ないと思うかもしれないがこれでいい。あまりに多いと不自然が過ぎる」

 ……ああ、なるほど……っていやいやいやいや! この人数でも十分怪しいから! 本当、参謀先輩は何を考えているんだろう。多いでも少ないでもなく、こんな中途半端にするのにはたして意味はあるんだろうか? それともただ単に私の感覚がおかしいだけとか?

 しかしその疑問も、ちゃんと拾い上げて参謀先輩は答えてくれた。

「そして少なすぎても駄目だ」参謀先輩は言う。少なくともこんな事態を招いた奴らには真っ向から見せ付けなければならないと。「静寂かつ盛大、自然過ぎない程度の不自然さをな」

 え? という気分。いきなり何を言い始めるんだろうこの人は。私にはよくわからなかった。

「不自然さ?」「普通に出来ればいいんじゃ?」他の人たちも同じ感想だったらしく、広々とした文芸部室はざわめいている。だが想定内も想定内といったように参謀先輩は説明する。

「言っておくが今回の作戦はそういうものだ。これは絶対に完全であってはならない。必ずしも一時の勝利は全体の勝利に繋がらない」

「ま、そういうこったな」

 と、参謀先輩の隣で一人で納得していたのは……ええと、大曽根おおぞね先輩か。いつも付けているトレードマークの一種とも取れる眼鏡がなかったから一目見てもよく分からなかった。いったいどうしたんだろ。じつは伊達眼鏡でいつもは集中してるとか?

「じゃなきゃこいつがこんな強行手段取るかよ」

 ま、どっちにしろ俺にとっちゃ楽しい展開だからいいんだけどな、とも上機嫌で付け加えていた。大曽根先輩も凄いと思う。憧れすら覚える。なにしろ今の状況を楽しんで、でもそれを破ろうとするのをもっと楽しんでるんだから。

 だったら私も、やれることをがんばらなきゃいけないのかも。いや、がんばらなきゃいけない!

「話を続けてもいいな」

「いや、まだ少し……」「ちょっと理解出来ませんね」「結局何と戦ってるんだよそれ」参謀先輩が言ってもまだ周りはざわめいている。……うん、やっぱり無理がありすぎると思います。その理論は。

「喋るな息を止めろ。この中で少しでも自分は文芸部員であるという自覚を持つ奴は黙って俺に従え」

 睨みながら恫喝すると、裏返しになったかのようにそのざわめきはたちまち沈静化してしまった。ああ、なんかごまかしたよね……参謀先輩……。

「今回は協力者がいる。その代表がこの」そう言いながら私たちが入ってきたときに一緒にいた女の人の方に手を払った。「新聞部部長、仁科由宇にしなゆうだ」

 仁科先輩。私は心の中で呟いた。そう言えばそうだった。仁科先輩。前にもネタが欲しいとかなんとか言ってここに来てたな。あのせいで内藤ないとう先輩と晴希はるき先輩がデートすることになったんだった。うん……晴希先輩はあんまり気にしてなかったからよかったけど……うん……仁科先輩……。

「辛気臭い顔ですね」

 ふと後ろからそんな声。菅原すがわらくんだった。

「そんな顔してた?」

「ええ、当然です」

 本当かな……顔には出てなかったと思うんだけど。無理して笑おうとしたつもりもないし……。

「……って、私の顔見えてなかったよね?」

「ええ、当然です」

「じゃあ何で分かったの?」

「僕があなたなら、そう考えます。それに正直なので」

「正直って、私が?」

「ええ、当然です」

「そうかな?」

「ええ、当然です」

「そうかな?」

「ええ、当然です」

 そうかな……確かに菅原君の指摘は正しかったんだけど、私が正直かどうかって言われるとそれはわからないし、第一照れる。

「菅原、朱鷺羽ときわ。喋るな」

「はい」

「……はい」

 こっちを睨み文句を言う参謀先輩に菅原君が答え、それに合わせて私も答えた。

「お前らは……まあいい、たかが一人や二人いなくても構わないが、少なくとも他の奴の足は引っ張るなよ」

『はい』

 今回は二人同時に答えた。そして反省。私も他の人の邪魔になっちゃいけないなんて思いながら。他の人たちだって真面目にやってるんだから、ここで私だけが折れるわけにはいかなかった。

「今回の目的は内藤を動かし、秋津と引き合わせる事であり、他の事などどうでもい。全て終わってからの話だ。一度『点火』したら迷うな。内藤の教室を目指せ」

『点火』、それは昨日起こった……いや、実際には起こしたあの爆発と全く同じ事らしい。思えばあの時実際に何もしなかったのも、参謀先輩なりの宣戦布告だったように思う。

「邪魔が来てもこちらからは手を出すな。あくまで出されたらやり返すまでで、損害と敵は可能な限り少なくしろ。後が面倒だ」

 そうして参謀先輩の説明は終わった。

「五分後に『点火』する。トイレなら今の内だが、でなければ出るな」

 そう付け足してはいたけど、あいにくながら私もトイレが近いわけでなく、そのまま時間を待っていた。皆は緊張半分興味半分といった様子で、私もその例外ではなかったみたいだ。心臓がどきどきする。けど──

 それと同時に、得体も知れない不安が頭をよぎってしまう。参謀先輩も何だかいつもらしくない気がするし。少しだけだけど臆病な力技。

 晴希先輩を求めてこの部にやってきて、しばらく経った時のことを思い出す。まっすぐに行って、本当になんとかなるのかなって。

 確かあの日は新聞部の人たちがなんか書いてて、それで慌てて行動してみて。

 だけどいざやってみると私はすごい不器用で、晴希先輩も何も言えなくて。

 結局晴希先輩に想いは伝えられたけど、それでも前と全然変わらなくて。

 だけどそれをどこかで安心してたりもして。

 そんな臆病で不器用でどうしようもない私の、あっけなくて馬鹿らしくて言葉にもならない告白だった。

「振り返ってみれば、おかしな話ですよね」

「……菅原くん、今日は自己主張強いね」

「はてはて、さっぱりですね」

 そんな風に肩をすくめているけど、やっぱり菅原くんはあまりにもおかしい。違いない。

「また秋津さんのことでしょ?」

 でもこうやって鋭いから困る。

「うんそうだけどっ!」

「男子の31%、女子の5%でしたっけ?」

「そうそう! 晴希先輩人気ありすぎるもん! 周りにいる人だって──」

 そう言いかけたやいなや、何かの爆発するような音が耳の中で反響するように聞こえてきた。

 それが、火が点いたサインだった。

 久しぶりですね。久しぶりすぎて鼻水出ますよね、はい……。

 えー、受験勉強などもあるのでこれから亀更新をも下回る更新頻度になりそうですが、是非ともご理解いただけると幸いです。白。

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