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白世界  作者: 白龍閣下
茜色革命
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第五十四話 カタチを持たない暗い何か

 最近更新が少なく、申し訳なく思いますっ。

「それじゃあ、また後でね」

「分かった」

 しいちゃんとひとまずの別れを言っておいて、私はある場所を目指し教室を出た。そう遠いわけでもないし、あんまりあせらなくてもいいのかな。まあそんな意識しなくても、焦る事はなかった。というか、

 なぜだか焦る事が出来なかった。

 昨日授業中に爆発が起きて、その放課後に椎ちゃんを文芸部に連れて行ったらなぜだか分からないけど椎ちゃんが正式に協力してくれる事になった。……うん、今までも「私を手伝う」とは言ってたけど。

 ……で、その椎ちゃんは今さっきご飯を満足そうに食べていた。とはいっても椎ちゃんのお母さんに許してもらえたってわけじゃないらしいけど。じゃああれってどこから手に入れたんだろう。まぁいいけど。

 一方参謀先輩によると、どうやら今日で一気に流れを作って終わらせるつもりでいるらしい。昨日今日の二日連続で仕掛けて意表をついていくそうだ。戦略がどうとかよりそんなことを実際に出来るのがすごいと思う。例えれば、絵に描いたもちを実際に焼いてみせた、みたいな感じ。

 嬉しいか悲しいかでいうと、すごく嬉しい。晴希はるき先輩も今の様子だと相当困ってるみたいだし、しばらくのライバルだとは言っても内藤ないとう先輩だって心配だし。

 ……ライバルだからこそ、こんな形で忘れてしまってほしくないし。

 それで私は焦ることができないとは言ったけれど、それは決して心配していなかったわけじゃなかった。むしろ逆で、これが成功するはずがないって、そう思えてしまう。自分で勝手に決め付けて勝手に諦めるなんて真似はしちゃいけない、そんなことは最初からわかってるはずなのに。なんだか──

「なんだかおかしい……そんな気がしますね」

「……っ!?」

「おや、どうかしましたか?」

 そんなことをいいながらいつの間にか隣にいて私を驚かせたのは菅原すがわら君だった。そういえば菅原君にはこうやって同級生にも敬語で話す癖があるけど、部のみんなは理由を聞くことなく納得している。一体なんでなんだろう?

 それはともかく、いつもの彼にある余裕というか、何を考えているのかよくわからない雰囲気が感じられず、今はまるで顔に不安と書いてある、そんな表現がぴったりのようだった。

「いや、予期せぬ登場に驚いただけで……それで、そっちはどうしたの?」

 言い訳をしながらこっちからも聞き返してみる。こっちとしては菅原君の方もやっぱり気になった。菅原君はそれを聞くと、

「……いや、これから起こることが何だか不安でしてね」

 と、その言葉とは反対に微笑をたたえて言った。どうして無理に笑おうとするんだろう? 気になるけどやっぱり部のみんなに聞いたら沈黙されそうだな。

「はて? さっきから様子がおかしいですよ?」

 それはそっちの方だ、なんてこと私には言えるわけもなく、

「そ、それより不安って何かな? 参謀先輩なら大丈夫だと思うんだけど!」

 話を変えてごまかすしかなかった。そうだよ、参謀先輩がいるなら大丈夫だよ! なんたって人の心読むんだもん!

「どうでしょうか?」

 しかし菅原君は退かず、

「まぁ、話は後にしましょう。こんなこと、廊下ろうかで話すことではありませんからね」

 と言って、部室に向けて歩き始めた。


「では、話を続けましょう」

 部室に着いてすぐ、菅原君は適当な椅子を探して座り、止めていた話をまた続けた。ちなみに部室にいたのは参謀先輩、それによく知らない三年の女子の先輩だった。なんだっけ? なんか覚えてはいるんだけど……。

「さて、肝心の『おかしな点』についてですが、これが正直な話、うまく言葉に表せないんですよね」

「うん……」

 言葉に表せない、だけど何かおかしいのはわかる。それはほとんど直感で、証明してくれるものなんて何もないけれど。あそこにいる参謀先輩だったらどうかな、「非科学的だ」なんて切り捨てるかもしれないし、「なら何かあるのかもしれないな」なんて聞き入れてくれるかもしれない。なんだかんだ言っても私は参謀先輩のことはよく知らない。私の知ってるのはせいぜい、晴希先輩のことくらいだ。晴希先輩のことならいろいろ知ってる。

「けどそう思える理由はまったく関係ないところにあって、実際は何にもないってこともあるんじゃないかな?」

「確かにそういう可能性もありますね。ですが」

「だけど?」

「気になるものは仕方ない」

「そうだけど……」

 確かに今すぐにでも晴希先輩の所に行きたくはあるけど、それは結局不確定な不安で、証拠なんてない。結局自分一人で決められるわけじゃないんだよね。証拠って。

 そういえば晴希先輩とは一昨日の夜久しぶりに会ったんだっけ。あの時晴希先輩とはあんまり話せなかったけど、あれはいろいろ話したいことがたくさんあったし後にしようって我慢してたから。けど今になって思うと、ここからさらに大変なことになりそうな、そんな予感がして、少し後悔してる。

 ……あれ? よく考えてみるとあの時晴希先輩と一緒に来てたのは菅原君だったっけ? なんか色々話してたみたいだったけど……。ええと、それってつまり──。

「ん? どうして僕の方をにらみ付けてくるんですか?」

「いや、何でもないよっ!」慌ててごまかして、内心をさとられないように注意した。

 ──それってつまり、ダークホースの可能性も否定しきれないってことになるんだよね。

前途多難ぜんとたなんですね」

「そうそう、内藤先輩だけじゃないなんて」

「応援しますよ」

「またそんなことを言って……勘違いしないでね、私たちは敵同士なんだから」

「そうですね」と菅原君は相槌あいづちを打ち、そうして時間にして数秒経ってから聞いてきた。


「ところでそれは、何の話なんでしょうか?」


 …………。

「────ッ!!」

 声にならない叫びが、私ののどの奥からびっくり箱のように飛び出してきた。

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