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白世界  作者: 白龍閣下
茜色革命
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第四十六話 最近よく見る夢のこと

 やっと彼の登場ですね、ええ。

 やけにあっけなく、トイレだの何だのとくっちゃべっていた嘉光よしあきに出会ってしまった。

「っと、ごめんな! ごめん! 俺が悪かった!」

 その嘉光はと言えば、嘉光の分際で私にぶつかっておいたことを多少なりとも申し訳なく思っているようで、こうやって私に申し訳なさそうな顔を見せていた。

 ま、私は分かってるけどな。ああいう外面してても内心では気持ち悪いくらい喜んでるって。全くこれだから嘉光は。気持ち悪い。

 ちなみに杭瀬くせは空気を読んだつもりなのか階段の奥に潜んで姿を見せない。おいこら、お前空気読むな。そこで出てくるのがお前じゃなかったのか。

 私が何か言う前に、嘉光は話を続ける。

怪我けがはないか? ないみたいだな、うん」

「…………?」ああ、この沈黙はかの似非無口キャラのものではなく、私のものだ。

 嘉光の台詞に違和感を感じ、私はそれを流せずに入られなかった。どうも胸に突っかかる。正直言って、内藤ないとう嘉光と言う名の一人の変態が久し振りに会って言う発言ではない気がするのだ。

 そんな私の疑念も気にかけず、

「んじゃ大丈夫みたいなんで。あートイレ行かなきゃなトイレ!」

 そういって嘉光は颯爽さっそうと走り出していった。

「…………」

 私は何も言うことが出来なかったが、どうも明らかにおかしいらしい。ノロウィルスにでも感染したのかもな。うわ、じゃあ死ななきゃ直るのか。いやでも、恋は精神病の一種だって言ってた人もいた気がするぞ。じゃあそっちも消えないかな。無理か。したら死ぬかな。

 そんな複雑な思考を私はしていたわけだが、

「んじゃ、綾女あやめも待ってるかもしれないんでな!」

「…………ああ!?」

 走り去っていく嘉光の言葉に私は、どうも不意を突かれたような気分を覚えた。綾女……あのクラスから消えた私のくされ縁、邦崎くにさき綾女の事か?

 何か訊こうと思ったが、気がつくとすでに嘉光はトイレの方に消えていってしまっていた。

「……どういう事だ?」

 いったい何なんだ? どうしてこうなった?

 秋津晴希あきつはるき十六歳、一気に話が分からなくなりました。

「と言うわけで早速説明をしてくれ、杭瀬」

「……そこで丸投げ?」

 私があまりにも考えるのを放棄していたおかげで、杭瀬に呆れられてしまった。どうかと思うかもしれないが、私は四六時中こいつに呆れ返っているのでお相子あいこと言う事でいいだろう。

「……まあいいけど。まず嘉光の話から」

 杭瀬は仕方ないなとばかりに話を始めた。最近なんだかこういった杭瀬の演技力が上がっている気がする。前はもっと無表情な感じだったと思うが、大方私を馬鹿にするために鍛えたのだろう。誰だ教えた奴は。

 ……そういえばさっき階段を昇降していた生徒がいたような気がするが、大丈夫だったのだろうか?……きっと大丈夫だろうな。杭瀬の事だし見つかりはしなかっただろ。




 最初に言っておくと、これは夢だ。最近よく見る、夢の話。


 何故か俺は、高い橋の上……それも、手摺てすりの外に立っていた。

 しかも何故か体を拘束されたせいで、もう俺は身動きなんか取れやしない。一体誰が結んだんだろうなんて疑問も湧いてくるが、まぁ夢に理屈なんていらないよな。もしかしたら最近見た映画の影響で、危ない組織に捕まったスパイって設定の夢なのかもしれない。

 それで、ふわっと言った感覚。それも一瞬で、直後に重力を受け加速していった。言ってみればバンジージャンプみたいな感じだな。当然紐なんてないけどさ。

 で、目に映るのは真下の川。それがどんどんどんどん近づいてきて──

 ばっさーん!

 となってしまい、それも一瞬の事──

 ゴンッ!

 と鈍い音。どうやら川底に頭をぶつけてしまったらしい。そして夢とは思えないようなリアルな痛み。あれに比べれば小学校のころにやってたプロレスごっこなんて児戯じぎだ。

 そんで朦朧もうろうとする意識の中、また浮かび上がってきて──


 そこで目が、覚めるんだ。毎回毎回。そんな俺が頻繁に見る、夢のない夢物語だ。気持ち悪いと言うか何と言うか……まぁ、小説とかならこれが複線になったりするんだろうけどな。

 さて回想はここまでにしておこう。トイレにも行って気分転換もしてきた所だし。

「えっと……な、伊藤いとう君っ!」

「おうどうした綾女」

 ヘアピンの女生徒、邦崎綾女がいつものようにガッチガチに緊張した面で話しかけてきた。ちなみに俺は伊藤ではなく内藤だ。

 どうも俺と話すときだけはいつもこんな様子で、俺の事が苦手なのかもしれない。多分何かの罰ゲームか何かかな。ただ俺はこいつといるのは嫌じゃないんだよな。むしろ好きって言った方がいいくらい。だからちょっと残念ではある。だからこっちからの歩み寄りもしてたりするんだが、こっちから行くと向こうは頻繁に逃げる。かくして二人は、微妙な間合いを保っていると言ってもいい関係なのだ。

 ……というかこいつ、確か元々このクラスじゃなかった気がするんだけどな。ま、来る者は拒まないけどさ。にぎやかになるし、俺にとってはうれしい事だしな。

「な、伊藤君はっ!……最近部かっ……部活とか、行かない……?」

「部活か……」

「うん……」

 何だかもうカミカミでどうしようもない綾女の質問に対する答えをどうなんだと思いながらも考える。

「何でなんだろうな……」

 結局出たのはこんな答えだった。釈然としない。俺も綾女も。

 実は俺の入っている文芸部の件は自分でも気になってる事で、前は毎日行ってたのに何故だか最近は全然行ってなかったりする。第一どうして前までは毎日活動したりしてたんだろうか。

 何かが引っかかる。いつも「死ね」とか「地獄に落ちろ」とか俺に喝采かっさいをしてくれるクラスメイト達も何だかよそよそしい気がするし。

 もしかしたら俺は、何か忘れてしまっているのかもしれないな……。

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