第四十二話 葛原水月の憤慨
……文芸部って本当、なんなのかしら?
って、最近切実に思うの。
いやほんとに、外野のわたし、葛原水月からしてみれば、どうもただの変な人たちの集まりには思えないのよね。
あんまりよく覚えてないけどちょっと前にお世話になった一年の子がいて、確か…………萩原くんだったかしら? いや、荻原くん? うーん……顔は思い出せるんだけど名前がちょっと思い出せない……。まあいいわ。どうせ荻原くん(仮)で。
……あれ?(仮)ってなんかいたような気もするわね。じゃあ(株)で。意味はよく知らないけどきっと同じような意味でしょ。うん。
さて、じゃあ話を戻して。その荻原くん(株)を見て、それからわたしの彼らに対する認識は変わってしまったの。そう、あの部は──
──とてつもない変人の集まりだったって、そう思ったの。
「よおアホ」
……それで、人を馬鹿呼ばわりするのはどこの誰? わたしはちょっと学校の成績が悪いだけなのに! 人の価値はあんな数字の羅列じゃ決まらないって分かってるでしょ?
「だからなんなんだアホ。またあれか? 電波でも受け取ったか?」
「またって何よまたって!」
結局その眼鏡をかけた一見真面目そうな男子生徒──大曽根誠文に、わたしは少しヒステリックながら叫んでしまった。周りの視線がもう「相変わらずだな」って言ってるように感じるのは気にしたくないけど。
アホじゃなくて葛原、とも言いたかったが諦めた。二度あることは三度あるというか、彼にはその呼び名を修正する気がさらさらないみたいだし。
「っていうか電波って何!?」
「あれだ、おめーが今この時にも『組織』から送られてきているそれだ」
「そんな設定初めて聞いたわよ!」
「俺も最近知ったことだ。けど認めたくなくても認めなきゃ行けないことってあんだよな……」
「た、確かに……わたしもそんな気が──」
「まあ嘘だけどな」
「嘘ぉっ!?」
いや、なんかもうすごくびっくりしたじゃない。このわたしをこけにするなんて……! ああもうっ!
わたしの横の席でいちいちちょっかいをかけてくる大曽根は今日も元気だった。もちろん悪い意味で。
わたしから見た文芸部って、彼のイメージばっかりなのよね。あとは同じクラスで大曽根の友達の一宮敦次ってきつそうな男子くらい。いずれにしろ普通じゃない。
「ああもう、学生生活やり直せないかしら」
「留年しろっての。お前なら出来る」
なにその言い方。まるでわたしが馬鹿みたいに。
「……わたしはただ、テストで毎回赤点取ってるだけなのに」
「よく三年までこれたな」
偉そうに言う大曽根。きっと彼は三年間ずっとわたしのことを馬鹿だと勘違いしてるみたいだけど──。
「それであんたは人のことをどうこう言えるの!?」
「うんそりゃあもう」
即答。同時に机の上に広げられる実力テストの結果表。わたしはもうカッと目を見開いた。というか瞳孔を見開いた!
「学年……四位……!?」
恐ろしい点数だった。偶然でもこんな点を取るなんて……。
「インテリ少年なめんなよ。インテルも入ってるんだぜ」
「認めないわ!」
けどわたしは断固反対する。確かに大曽根は見た目はインテリっぽいけど言動があれだから、まるでキャラに合わないじゃない!
「こんなのは偽装よ! 耐震偽装!」
「諦めろアホ。っと、おう敦次」
散々わたしを馬鹿にした大曽根はわたしとの会話を中断し、教室の後方入り口に歩いていった。
わたしもそちらに目を向けてみると、そこにいたのは大曽根の言ったとおり一宮敦次。大曽根はそのまま「それじゃな、アホ」と言って一宮と話し始めた。
……まあいいわ、昨夜はテレビ見てて寝られなかったし、寝ようかしら。はあ、でも……
ほんとに大曽根はうざい。彼と知り合ったシチュエーションは今思い出してもムカついてくる。
一年の頃、運悪くわたしは学年ビリを取ってしまったわけ。仕方ないの。あんまりにも物理の参考書の寝心地が良かったからついっ!……ごめんなさい。ただ自分の運のなさに呆れてね。小学校の頃から今までの十二年間ずっといい点を取ってないってどういう運の悪さかしら。まあ過ぎたことをだらだらいうのもなんだから続けるわね?
それでその頃は夏で、エアコンの風がわたしの席に届かないで、すごい暑かったの。
でもわたしは小学校の頃によく見た、男子が下敷きでパタパタしてたのを思い出して、「これだっ!」って思ったわ。
これこそまさに運命──と思ったけど運命の神様は残酷にもわたしに下敷きを与えなかった。でもそこで気付いてしまったの。
だったらプリントか何かでパタパタすればいいじゃないっ! ってね。
思わず脳に電撃が走ったわ。それにアドレナリンも分泌されたわ。
思えばそれは、わたしの発想の素晴らしさに我ながら打ち痺れていたのかもね。まさにライトニング。……ところでライトニングってなんなのかしら? きっと英語のライティングみたいなものかもね。
……まあいいわ。それでわたしは颯爽と机の中からプリントを出したわ。今のわたしは風とばかりに。
そしたら一人の男子が好奇の眼差しでこっちを見てたの。ああこの人はなんてミラクルをやってのけるんだろうって言わんばかりに。
……そこまではよかったわ。けどまさか──
そのプリントが運悪く成績のすごく悪い成績表だったなんてね。
あ、当然数値の上での成績なんだけどね? 人の本当の良さって数とかじゃ表せないものだから。
だけど彼はそのわたしの成績を見て大爆笑。それ以降すごく話し掛けてくるようになっちゃって、わたしも惰性でここまで来て。
それは今思い出しても最悪の出会いだったわけで。
そういうわけだから別に彼とは男女の関係にあるわけじゃない。いわば彼からすれば遊び道具みたいなもので、本当に不快。
二年の内藤嘉光くんに愛されてる秋津晴希さんなんかは羨ましくてたまらないわよ。……まあ、今はちょっとトラブルが起きてるみたいだけど。
机の上に教科書を出す。当然用途は枕。
一宮の「大曽根、あれは失敗したものと考えてくれ」という言葉が聞こえたけど、その時わたしは何のことだかさっぱりわからず、そのまま眠りについた。