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白世界  作者: 白龍閣下
白世界
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第三話 残酷描写と手榴弾

 第二話から一続きみたいな感じでしょうか?

 ……読むか? いや、読め☆

「なんですか二キロって。まともに私に直撃したら赤文字で『残酷描写あり』と付けられるか救命病棟に搬送されるかの二択ですよ」

 そう抗議しながらも私はその辺にあった席に着く。

「そんなに重傷か」

 会話に加わってきた嘉光が突っ込んでくる。いや全く、こいつは何も分かっちゃいない。まさに大馬鹿者だな。

「馬鹿だなお前は。頭に鉄アレイ投げつけられて平気な奴なんて多分忍者ハットリ君くらいのもんだぞ」

「むう、確かに……竹輪ちくわがないと厳しいか……」

 なぜかそこで納得してしまいながらもわざわざ別の席に置いてあった荷物を動かしてまで私の隣の席に座ってくる気持ち悪い嘉光を横目に私は一つの疑問について考える。その二キロのハイパーグレート黒板消し(仮)を当てるつもりだったのは私に対してじゃなかったんだろ? ということは……。

 なんだ、嘉光じゃないか! 簡単な話だネ!

「天森さん、奴を潰したいというその気持ちはよく分かります!」

「晴希!?」

「フッ……」などと満足げな表情で髪をかき分けている天森さんに同意する。嘉光は一瞬動揺したものの、すぐ復帰して、ため息をつきつつも話を続けた。

「それにしてもその表現は大袈裟すぎるだろ……なあ、晴希はちょっとした段差で死ぬとかそういう病気なのか?」

 失礼な事を。お前は主人公補正的な何かで生命力がゾンビ並だからそんな事が言えるんだ。言い忘れてたがお前も鉄アレイ当たっても平気だよな多分。勿論竹輪もいらないよな。

「ま、はるはコイキングより弱い男だからしゃあねえもんな」

 これまた失礼な事を言ってらっしゃる声がする。とっさに「男じゃないです」とだけ返しておいた。その前の言葉は残念ながら否定できない。

 声がする方──部室の一番奥に目を向けると、そこにはこの文芸部をまとめる二人の先輩方が座っていた。

 私の事を晴と呼ぶ、さっきの声の主は大曽根誠文おおぞねまさふみさん。黒髪短髪に眼鏡、ボタンもしっかり全部締めていていかにも優等生です的なオーラを発している──これで何もしなければ、だが。実際は口調からもある程度は感じ取れるが、『キチなんたらは誉め言葉』と言った感じの相当な傾奇者なのだ。文章媒体のおかげでその辺りのキャラはまあわかりやすいんじゃないかと思う。趣味はスプラッター。主にやっていることとしてはピッキング、手榴弾製作など(本人談)。勿論自称であって実際はそんなわけじゃない。もっとすごいのだ。

 あと、大曽根さんはいつもいつも、毎度のように私を男呼ばわりしてきて正直うざい。「それはお前の利点なんだから頑張って伸ばせ」とか言ってくる。ふざけんな、誰が伸ばすか。


 ──バァン!


「モガガル!?」

 と、私の顔のすぐ横を何かが高速で通過し、当然のように隣の席にいた嘉光の鼻先に直撃。嘉光は情けなくそんな断末魔を叫びながらぶつけた箇所を抑えた。なるほど、私は大曽根さんの行動の意味を即座に把握する。

「先輩には優しくするもんだ。な?」

 笑顔で拳銃を握りながらそんな事を言う大曽根さんに、私は無言で重々しく頷いた。多分飛ばしたのはBB弾とかだとは思うが、多分銃の方に改造が施してある。いや多分じゃないな。絶対だ。

「しかしそういつまでも弱キャラなのも困るよな。それじゃあ刺客に襲われた時とかに手も足も出せやしねえ。炸裂弾あるから売ってやってもいいぜ。文芸部のよしみで割引してやる。大曽根さんプライスだ」

 ……これである。一体日本の警察は何をやっているんだろう。もしくは自衛隊関係とか?……いや、考えるだけ無駄だけどさ。

「…………」

 それでもう一人、パソコンの前に座っている金と黒の混じった髪の、黒のノートパソコンを操作しながら鋭い目をもってこちらを無言で見ている見た目ヤンキーの人は一宮敦次いちのみやあつしさん。一生徒の身でありながらそこらの一教員より強い力を持っているらしく、現に去年にもこの人が教師を動かしているのを目の当たりにしたことがある。その立ち位置から『参謀』なんて呼ばれ方をする時もあるが、大曽根さんほどアクティブに話しかけてくるような人ではないため私はよく知らない。ともかく大曽根さん共々この二人は文芸部の重鎮、将棋で言うと飛車と角行といったところだ。

「将棋の駒とは失敬な……」

 なんて事を説明していると、目を伏せながら一宮さんがそう呟いていたのが聞こえた。飛車角行は単に重鎮ってだけの意味を比喩してるんだけどな。せめて竜王と竜馬と言った方が良かったか?……いや問題はそうじゃなくてだな。

「……一宮さん、いつも思いますがその読心術どうやったら使えるんですか?」

「知りたいか? すごく難しいぞ」

「じゃあいいです」

「即答か」

「当然です」

「謙虚な事だ」

 いえ、その『すごく難しい』が不安なんです。

「読心術……いいのになあ。てめえの首狙ってる奴の正体とかすぐに分かるのに」

「大曽根さん、それはかえって怖いです」

「頑張れば出来るのに」

「天森さんの『頑張る』はまともだと思えません」

「高さ二メートルからの二キロの落下物で重傷、読心術も使えない。晴希は残念だな。でも俺はそんな晴希も──」

「黙れとっとと帰れ内藤、落下物での重傷も読心術使えないのも人間として普通だ」

 周りからの問答に一人一人答えていく。周囲から「重傷は普通じゃないだろ」という視線を感じたのは気のせいだ。おおかた春一番の悪魔が私によからぬ事を吹き込んでいるんだろう。私はちゃんと分かってる。

 ……ところでさっきから理不尽にも本を読みながらも憐憫の視線で私を見ている小娘がいるんだが。

「おい杭瀬くせ、その視線は何だ」

「可哀相な晴希……」

「誰が可哀相だ」

 はて、どうして私は比較的穏便な人間であるはずなのに、それが今殺意を覚えているのだろうか。

 まあ……ついにこいつのターンが回ってきたと言ってもいいか。私が呼んだって? そんなの野暮な質問だ。生憎あいつにとっちゃ私は『友達』らしいからな。実感ないけど。ガチで実感ないけど。

 そいつの容貌は今している事(私をいじるとかそういう方ではなく)も相まって、無口な読書娘というイメージがある。わずかながら透明感のある茶色の髪を肩の後ろ辺りまで伸ばし、細い眉にも垂れ下がった目にも、小さな口にもまるで儚いような統一感がある。一つ見た目的に違う点を挙げるなら身長が意外とあり、私より数センチ高いくらいのものだ。そう、ぶれている点を言うならそれくらいのもんだ……見た目的には、だが。

 杭瀬弥葉琉みはる。教室では「落ち着きがありますね」などとすら言われない、最早存在すら気づかないレベルで空気さを極めている。苛め云々ではなく本当に誰も気づかない、最早異能力の領域にまで入ってしまっている。それでも私が普通にこいつの存在を認識できるのは何らかのバグだと信じたい。

 一方で、部室にくるとやはりこの文芸部らしく自己主張が強くなるというある意味一番の曲者である読書娘であり嘉光に次ぐ私の天敵。そして、読んでいる本は常に変なタイトルときた。なんて奴だ。

 まあ杭瀬やら先輩方やら見ていると分かる通り、見た目と性格が噛み合ってないやつが非常に多いように感じられる。こうしてみるとどれだけ私が正直者であるかどうかがわかるな……全然嬉しくないけど。勿論悔しくもないけど。

 ふむ、今日は日が日なのでこれだけしか人数がいないようだ。過疎ってんなあ……ってのは贅沢か。まあこれだけ来れば十分だよな。どのみち何人来ても文芸部としての活動とかしてないし。

「今日は何だ? あー……鼻水が垂れるほど……またまた何だこれ?」

「『鼻水が垂れるほど速攻で極められる全力雑巾ブーメラン投法』……読む?」

「遠慮する。読書の邪魔をして悪かったな」

 一瞬での掌返しは実に安定した行動だった。そんな本渡されてもどうしたらいいのやら。私は読まないぞ。本を読む楽しさっていったい何だっけ。

しかし、わざわざ「読め」とご丁寧にも杭瀬はしおりを挟んで本をこちらに渡してきた。

「命令形かよ」

 ほんと部だと押しが強いなこいつって。他に誰も知らないからって調子に乗りやがって。

 ……ん? それでこいつ自身はこれを読んでどうするかだって? それはな──

「杭瀬、改めて訊くがこんな本何のために読んでるんだ?」

「普通に参考資料。恋愛小説の」

 ──だそうだ。さっぱり意味が分からないぜ。

「いや、がしかしそれを恋愛小説の参考資料として用いるのはどう考えても普通じゃないと思うんだ。なあ」

「二キロの落下物で重態になるよりは普通だと思うけど……」

「貴様まだそれを引っ張るか……!」

 流石に私は杭瀬にガンを飛ばした。あんま触れんなよそれ。ネタだとしても私だって気にしてるんだからな。流石にこればかりは仕方がないで済ませられた話じゃないからさ。

「可哀相な晴希……」

「だからそんな目で私を見るな!」

 世の中は理不尽だ。早く帰りたい。言えないけど。しかし本当にやる事ないからこいつみたいに何かの本でも持ってくれば良かった。

 ──やる事……ねえ?

「っし! やる事もねえしニコニコに荒しコメ投下させてくっか!」

「待って! 私も手伝うわ!」

 全く、どうしてもあちらには気を取られてしまって仕方がないじゃないか。

 大曽根さんに天森さんは、どうしてあんなテンションなんだろうか。ここは文芸部だったよな?……いや、紛れもなく『こういう』文芸部なんだよな。

「秋津」

「あ、はい一宮さん」

 そんなことを考えながら、パソコンの前でワイワイやっている見た目だけ真面目な二人の先輩方の様子を眺めていると、ふと珍しくも一宮さんが声をかけてきた。一体どうした事だろうか。

「ここに一つの御守りがある」

「はあ……」

「値段にして一個サンキュッパという破格の値段の交通安全御守りだ。金は必要ない、貰ってくれないだろうか」

「いえ、いいです。遠慮しときます」

 だって交通安全とか言いながら書いてある文字が『粉骨砕身』ってどういう事だよ……。そんなの貰いたくないっての……というか別に金いらんなら安いだのなんだのってアピールも必要ない気がする。

「言い方を変えよう。貰え」

「そこでさっきの後輩のネタを使いますか。いえ、でも──」

 ま、とはいえ先輩命令。結局は嫌々ながらも粉骨砕身サンキュッパを預かる身となった。

「いいか秋津、それを手放すな」

「はあ……」

 爆弾とか入っていたりしないだろうか。だって粉骨砕身だもんな。メガンテだもんな。

「爆弾ではないな」

 読心術絶好調のようだ。とりあえず言い方からして他に何かが入っているという事か。何だかモルモットか何かにされてる気分だなぁ。爆弾じゃなかったら盗聴器か発信機でもついてるんじゃなかろうか。

 しかし一宮さんはそれには答えず、そのまま話を続ける。

「あと新入生の勧誘は必要ない。勧誘無しでも新入部員は来るはずだ。……そうだな、話はそれだけだ。後はもう帰ってもいい」

 一宮さんがそう言うので私はサンキュッパを胸のポケットに入れ、そして鼻水が垂れるほど以下略を鞄の中に入れ(結局これも預かることになった)、帰る事にした。

 ちなみに、勧誘無しでも新入部員が来るはず、と言う自信にも根拠はある。それはこの人達自身が証明の材料になると言ってもいい。とりあえず一言でいうなれば、強いのだ。

「俺も便乗するかな」

 大曽根さんが素早いタイピング音で荒しコメ投下をしながら言う。便乗て。

「武器貰うか? いや貰え」

 いえ、本当に要りません。そんな言い方しても無駄です大曽根さん。手榴弾とか私が持ってても仕方ないんで。それこそ粉骨砕身だ。笑えやしない。

「じゃあ私もこの黒板消しを! 預かる? 預かって!」

 嫌です。そんな手榴弾と並ぶ殺戮兵器要りません。というかまず重くて持ってけません。

「待った。俺も一緒に帰ろう」

 そして待っていましたとばかりに颯爽と飛び出しこう言ったのは嘉光。こういう時に言ってやるべき事は、当然こんなところだろう。

「……一人で帰るか? 帰れ」

「まあそう酷いことを言うな」

「……おあとがよろしいようで」

「いやちょっ! タンマ! ちょっとぐらいいいじゃないか!」

「あのさぁ…………うーん……あー……」

 嘉光のあまりの迫力に気圧され困った私は天井を見上げたが勿論そんなところにこの場を乗り切る手段など見えるわけもない。後は皆非協力的である。なんてこった。

 結局、心優しい私は途中まで嘉光と共に帰ってやる事となった。帰り道、特にこいつの話に乗ってやらなかった事が私に出来るせめてもの反抗だった。

 今日の私、つくづく甘いな。まあ手榴弾貰わなかっただけましだが。あれを貰ってしまったらいろいろな意味で終わる気がする。まだそちらの方に逸脱してしまいたくはない。……いや、まだってのは言葉のあやね? 本当はずっと逸脱していたくないよ?

 というわけでまあ、そんな開幕早々にして意表を突かれたような、実に精神面を削られる文芸部一日目であった。

 さて、これでメインの二・三年生は出た感じでしょうか?

 次回は新入生を出そうと思います、はい。

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