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白世界  作者: 白龍閣下
茜色革命
37/87

第三十五話 援軍要請之理

 世の中は大まかに分けて二つ……いや、二つ+αの人間に分かれる。

 それは男と女(そして曖昧な性別)だったり、勝ち組と負け組(そして仙人)だったり、右利きと左利き(そして両利き)だったり──場合によって基準は様々。だからこそよく使われる表現なわけで。

 そしてそのうちの一例として、積極的な人間と消極的な人間(そして……ああ、これは二つでよかったな)にも分かれる。なお当然ながら私は後者だ。そりゃもう最悪でも人並みには消極的だ。

 私がわざわざこんな長ったらしく説明し、言いたかった事を二秒で説明するならば、とどのつまりその消極的な私が自ら動かなきゃならんほどのプレッシャーがあるって事だ。多分二秒超えたな。

 と言う事で、私こと秋津晴希は可能性を見出だすべく動いた!

 ……おかげで少し気が緩いで授業が受けられなかったが。だがそんな事は無問題、過去を省みたら人間嫌になってしまうものだ。積極的思考と言うのは人類の進化にのっとった物であり、やはり悩みすぎると禿げる。それにどうせ緩まなくてもかえって授業は受けられなかった。妙な視線は授業中にも消えないわけだから。

 そうさ、学生ってのは意外と緻密繊細ちみつせんさいなものなんだ。中には万華鏡を覗いただけで吐き気を催す生徒もいるはずだ。未だに学校では大便に決して行かない生徒もいるかもしれない。ロリコン呼ばわりすることを怖れ、十分焼けていない焼肉を食うようなことは絶対にしない生徒も、もしかしたらいる。十代の若者はデリケートだからな。

 そんな回想から戻ってきて、今は昼休みの時間。実に日常的な風景……というわけでもなかった。具体的な違いは述べられないが、これは多分……いや絶対視線のせいじゃなかろうか。

 そんな私には目的があった。同じクラスでいて文芸部ではない、ある男子生徒の席。それにしても昼休みは長い。昼休みの存在が特別なのは最早世界の意思が決めた常識だな。この時間学校は一つのエデンとなる。……私のような場合を除いてだが。

 その特別な時間──約30分程度の休暇を学生たちは様々な事に充てる。

 ある者は未だに飯を食っていて、ある者は元気なことにサッカーボールを持って人差し指の上でくるくると回しながら友人たちと校庭に行ってしまっていて、ある者はこれまた別の方向で元気なことに二次元の魅力について熱弁していて、ある杭瀬くせはへんちくりんなタイトルの本を読んでいて、また誰だか知らんがある者はわざわざ私の監視に充ててくれていて。

 こういうデータは文部科学省とかが持っているかもしれない。出来れば昼休みの時間を監視に充てる生徒は1%もいないで欲しい。

 そんな中で一人の生徒──大柄で嘉光よしあきみたく気さくなイメージの男。映画のジャイアンみたいなの──は窓際の席に座り、机の下で携帯ゲームをしていた。

 おい見えてんぞと言いたくなるが、実際の所は見つかろうが無問題だから下に隠すこと自体が無駄なんだが。

 何か意味があるのだろうか。シャイな奴って訳じゃないだろう。となれば宗教上の理由で晒せないとか、机の上に置くと化学反応が起こるとか。

 それでもこちらから近寄ると顔を上げて応対してきた。ご丁寧にイヤホンとか装着しておきながらよく気付いたな。山勘か、はたまた覇気はきでも感じ取ったか。いや、私が持ってるかは知らないけどな。覇気。

「どうしたよ時の人?」

「どうしたってな……」

「すげぇ引っ張りだこじゃんかよ。これでみんなのアイドルだな。かっけぇよ! あこがれるぜ!」

「なんて嫌なアイドルだ。冷やかすな。こっちは修羅場しゅらばだぞ。おい何笑ってんだ。ああむかつくな、くそっ!」

 と、と、と言う事でっ、私こと秋津晴希は可能性を見出ださんと動いたっ!

 ……大丈夫かこれ? 秋津さんは非常に心配だ。



「それはそうと、頼みがある」

「お? 何だ、すべからく言ってみろ」

 携帯ゲームを中断した男子生徒──幡野克剰はたのかつのりは笑いをこらえながら面白そうに聞いてくる。当然私は笑えない。

「お前確か、新聞部だったよな?」

 新聞部──先日私を部室に拉致らちした因縁いんねん深い相手だ。と言っても現在文芸部と同盟を結んではいるのだが。

 新聞部員達は全員眼鏡をかけている。これは偶然とかではなく、そういうルールらしい。現に今幡野は眼鏡をかけてはいない。

 また新聞部員は私の見る所、どうも頭のネジが少しばかりゆるんでいるように思えて仕方ない。「馬鹿には見えない服」なんて物に出会ったら、多分あいつらは「自分たちが馬鹿だから見えない」とでも言うんじゃなかろうか。下手すると嘉光よしあき以上に残念な奴らだ。

 またこれはあくまで私の推測なのだが、そのあれな頭を誤魔化ごまかすために「眼鏡ルール」があるんじゃなかろうかと思う。

 そして部長の仁科由宇にしなゆうさんには、他人に水道水を勧めるという突飛とっぴ極まりない交渉術がある。一体それでどれだけ交渉を成立させてきたんだろうか。まったくもって不明だ。

 ……ま、前回それに救われたと言うのは否めない。まことに残念ながら。誠死ね。

「馬鹿言え、俺は新聞部じゃない」

「いや見たからな? あの時お前が新聞部室にいたの」

 あの時とは前述した、私が拉致された時の事。新聞部との接触は他にはゴールデンウィークの時の、思い出したくもない嘉光とのデートぐらいだ。なんだ、いい思い出が全くないじゃないか。

 まあそんなわけでギブ&テイク。どちらにしろ同盟なるものがあるんだ。手助けくらいしてくれるよな?

 にもかかわらず。

「……やなこった」

 目元にかすかな笑みを浮かべた幡野の答えはこうだった。


 ……………………はあ?

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