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白世界  作者: 白龍閣下
白世界
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第二十五話 そして僕らは式場へ……。

 紛らわしいサブタイトルだ(苦笑)

「待たせたな」

「いいのいいの」

 晴希はるきはまるで憮然ぶぜんとした表情だった。自分で誘っておきながらその様子がおかしくて、俺はつい笑ってしまった。そしたら晴希は更に不機嫌そうな表情をした。

 それは照れか、あるいは……いや、そういう考えはよそう。折角の晴希の厚意、俺が楽しまなくて誰が楽しめばいいんだと。一人で戸惑って、それで幸せが逃げていってしまっちゃたまんないもんな。



「……俺たちが楽しむんだろう」

 内藤の独白に、陰から本人に聴こえないように言ってやった。

「参謀先輩、どうかしましたか?」

「いや、こちらの話だ」

 どうやら心中ためらっているようだった。内藤ないとうはああ見えて細かい人間で、本能に任せた暴走などそれこそ秋津あきつの身に危険が及んだ時ぐらいのものだ。

「しかし参謀さんぼう先輩も素直じゃありませんよね」

 案外物好きですね、と朱鷺羽ときわが言う。俺は、

「俺もまだ一人の学生だ。物好きで何が悪い」

 と返しておいた。



「そうだ。内藤、似合ってるぞ」

 一つの礼儀のような感じで晴希。別にそんなこと言わなくてもいいのに、変なところで堅いんだよなこいつ。まぁそういうところも含めて俺は晴希のことが好きなんだけども。

「おう、ありがとな」

「そんなわけで、じゃあな」

 晴希は別れを告げると、その言葉どおり立ち去っていった……って待て! 俺適当にファッション誉めてもらっただけじゃん! くそっ、まだ「腹が減ったな。どっかで食べるか」「晴希、今日はボクが弁当を作ってきたんだヨ♪」とか「晴希、あーん」「あーん。もぐもぐ、ごっくん」とかの甘い展開がないのに! あいつ、本格的にツンツンしやがって! 幸せが逃げてったらどうするんだよ! ああもう!

「晴希! その格好似合ってるぞ!」

 俺は追いかけながら、立ち去ろうとする晴希の背中に向かって声をかける。

「こんな適当な男子高校生みたいな格好誉められてうれしい女子高生がいると思うか!?」

「じゃあ似合ってないぞ!」

「失礼な奴だな!」

 じゃあ何て言えばいいんだよ。ああ、じいには女心がわかりのうござりまする。

 ……いや、考えるんだ! こういう時のベストワード! とにかくこのまま晴希を帰らせちゃいけない、何だかそんな気がするんだ! このまま放っておいたら何かがループしそうな、そんな気がする!

 すぐさま俺は脳内Yahooの知恵袋にアクセス、そしてベストアンサーを弾き出す! この間およそ0.0048056秒(体感)!

「晴希! 今日は(パンツの色が)ライトブルーなんだな!」

「どういうスキルで見たんだよ! わたしジーパンだぞ!?」

 いかん、更に晴希の歩幅が広くなった。だが俺は負けないっ! 

「昨日はバックにせんとくんがプリントされてる奴だったな!」

「…………」

 おかえり、晴希。

「大嘘つくな! ご当地にも売っちゃいないぞそんなもん!」

「はは、晴希はパンツが好きなんだな。この可愛いやつめ!」

 晴希は目を細め、呆れたように言葉を繰り出す。

「……三つ言っておこう。まずパンツの話を切り出したのはお前でありわたしは何も喋っちゃいない。次にわたしたちを見る子供たちの目が非常に辛い。そしてパンツ好きと言うのがプラス評価になる理由がわたしにはさっぱりわからない」

 ああ、的確すぎる突っ込みだよそれは……。



「晴希先輩に対しあの引き止め方……さすがですね、内藤先輩は。私も見習いたい所です」

「……いや、見習うな」



「ところで、どこ行くんだ?」

 晴希は「お前は考えなくていい」なんてことを言っていたから俺は下調べとか全然していないんだけれども。

「とりあえずは……式場だな」

「うわ大胆」

 そのあまりの心ある計画っぷりに涙が出た。やっぱりなんだかんだ言いながら晴希は俺のことを──

「何言ってんだ? わたしが言ったのは葬式場そうしきじょうのことだが」

「葬式場!?」

 なんてこった。というかそれ葬儀場って言うだろ普通。

「そこで黒い車の数でも数えていればいい」

「すっげえうつだ!」

 学生のやることとは思えない。いやむしろ学生じゃなくてもありえないと思う。

「何言ってる。お前も小学生の頃やったことがあるだろ? 一日に黄色い車を三つ見つけたらハッピー、赤い車を三つ見つけたらアンハッピーという」

「……晴希、お前はこのデートをどうしたいんだ?」

「……そんなこと、わたしの口から言わせる気か?」

 ちゃんと楽しみたいんだよな? そうだよな?

「ちなみに、その後はどこか?」

 恐る恐る訊いてみる。

「ああ、汚水処理場の見学……と言うのを考えた」

「何故!?」

 俺の晴希がそんなマニアックな趣味を持っていると言う話は聞いたことがない。これはつまり……?

「わたしも一度嘉光よしあきが微生物と共に沈殿槽で泳ぐ姿を見てみたい」

「やっぱりかあああっ!」

 やっぱりそういう企みですか! お前って奴はもう!

「ついでにゴミとして沈殿してテトラポットにでもなってくれれば清々(すがすが)しい」

「……………………………………だが断る」

「今物凄く悩んだよな!?」

 いや、まぁ晴希の頼みならいいかもって一瞬だけ思っただけさ。やっぱり無理だけど。

「というわけでさようなら」

「ちょっと待て! 葬儀場は!? 汚水処理場は!?」

「一人で見学して来い!」

「晴希! 新聞部にさらわれた日のパンツは確か『カブトボーグ』のだったな!」

「だから思いっきり嘘を交えるな! お前とはもういい加減──」

 さようなら、と晴希が言おうとしたであろうその時。

 轟音ごうおんと共に、遠くにあった木が──火を吹いて垂直上昇していった。

「……と思ったが続けようじゃないか。そのデートとやらを」

 冷や汗をきながら晴希が言う。というか今の晴希は漫画なら確実に顔に縦線が何本も入っていることだろう。

「それじゃ……行きますか!」

 デート開始! 俺たちの戦いはまだまだこれからだぁ!



「……誠文まさふみ、公園の木に変な兵器を取り付けるのはよしてくれ」

 つい先ほどのロケットの犯人に忠告を促す。

「何言ってんだ。効果はあったじゃねえか。はるの後押しが出来た」

「それはそうだがな……あの子供を見ろ。呆然としたままあれから身動き一つしていないだろう」

「確かにな。まぁ大命には犠牲ってもんがつきもんだろ」

 言葉でいうほど大して格好よくはないがな。

「先輩、私たちも移動しましょうよ」

「それもそうだな」

 朱鷺羽の言う通り、秋津の後を追うことにした。

「……秋津に伝えるべき言伝ことづてがあったな」

 そう思い俺は、隠れて移動しながらもふところから携帯電話を取り出した。

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