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白世界  作者: 白龍閣下
白世界
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第二十話 全力の魂は決して呪われない

 はい……こんな出来で、すんません……。

「さて、行きましょう」

 除霊師の菅原卜全すがわらぼくぜんくんが精悍せいかんな顔つきでわたしの方を見た。その瞳からは確かに「覚悟を決めた」という意思が見える。

「やっとここまで来たけど、本当に長い道のりだったわね……」

 わたしはついそんな言葉を垂れ流してしまう。

 確かにここまでは長かった。時には道に迷い、何度も同じ所を回りもがき、時には大きく道を外れた。

 けどそれも、もうすぐ終わる。

 そんなわたしの思いを汲み取ってくれたのか、菅原くんもわたしのほうを見て頷いてくれた。


 この向こうに、やつがいる。やつはわたしの大切なものをことごとく奪っていった。

 わたしたちは、悲しみの連鎖を断ち切らなきゃいけない。悲劇は終わらせなきゃいけない。

 確かにやつを倒しても失ったものは戻ってこない。だからこそわたしたちは何も失っちゃいけないんだ。

 絶対に、負けるわけにはいかない。


 しかし──

「ぐっ……!」

「どうしたの菅原くん!?」

 突然菅原くんが苦しみだした。

「まさか四天王がこんな厄介な呪印を残していくとは……油断しました……」

 どうやらさっき戦った四天王の呪印が、彼の体をむしばんでいるらしかった。現に彼の顔が少し青く見える。

「菅原くん!? 大丈夫!?」

「難しいかもしれませんが……せっかくここまでいったのです……全力を尽くすしかないでしょう……」

「そんな!? じゃあ今すぐ戻って──」

「いえ……それより葛原くずはらさん……いいですか?……これだけは覚えておいてください……魔法の言葉です……から……ぐふっ!」

 床に血の赤が花弁はなびらを散らせた。

「菅原くん!」

「大丈夫です」と言いたそうな辛そうな笑みを浮かべて彼は足を重く引きずりながら、わたしの耳のほうに口を寄せ、こう言った。


「う~ら~め~し~や~」




 そしてわたしは、恐ろしさのあまり悲鳴を上げた。




「まったく、最悪ですね」

 そして彼がそんなことを言う。当然異変など何もないといった様子で。

 勿論わたしにとっては、そんなことを反省する気なんてない。それどころか──

「最悪なのはそっちよ! 耳もとでそんなことを言わないで!」

「言わなきゃ駄目じゃないですか。そうでなきゃ面白──やつが倒せませんから」

「今面白くないって言いかけなかった!?」

 多分この子、わたしを玩具か何かと間違えてるんだわ……。

「面白いやつが倒せませんですから」

「むりやり繋げた!?」

 確かに見た目がモビルスーツで正式名称が『白い悪魔(仮)』なんて面白いといえば面白いけど!

「大体四天王ってなによ! いつ出てきたの!?」

「いましたよ。道が長いから忘れたんじゃないですか?」

「道が長いのはきみがわざわざわたしをもてあそぶためにわざわざ先導して同じ所をぐるぐるぐるぐる回ってたから!」

「ギャルゲーにだってごまんとあるじゃないですか。ループなんて」

 そんな風に彼は肩をすくめて言う。それはやけにさまになっていたんだけど──

「ごまかさないで! あとその例えが分からない!」

「だから成績が悪いわけです」

「成績は関係ないわよ!」

 それに何度も言うけど、人間の価値は成績じゃ決まらないもの!

「知ってますか? シュミレーションなんて言葉はないんですよ」

「そんなの耳にタコが出来るほど聞いたから! シミュレーションでしょ!」

 怪談の合間にも聞かされたくらいだし! だからもうそのネタやめてくれないかしら! 馬鹿じゃないんだしさ!

「よく知ってましたね。努力すれば成績も上がると思います」

「なにその上から目線!?」

「成績といえば……そうですね、扉を開けましょう。(仮)が待っていますから」

「もう流れが破綻してる!?」

 なんて話題転換がシャープなの!?


 ……とまあ、わたしが何かを言う前に彼は扉を開けてた。

 そういえば説明してなかったことがあったけど、彼が(仮)に最初に突き刺した煮干しの効果によって、(仮)は体育館という場所に縛り付けられる暗示にかかっているらしく、それが煮干しの効果だとか何とか。ちなみにわたしは煮干しにそんな効果があるなんて18年間の生涯で一度も聞いたことがなかった。

「ところでどうして鍵なんて持ってたの? 依頼人みたいな人がいて受け取ってるとか?」

「惜しいですね」

「じゃあどういう?」

 学校にそう言う説明をしてるとか? そういえば宿直の人とかいないけど。

「学校に許可を取るのもいいですが面倒なので先輩が偶然にも持っていた合鍵を貰いました」

「全然惜しくない! あとさらっと犯罪行為!?」

 そういえばクラスにも犯罪じゃないかって思えることしてるのはいるけど!……っていうかそれ文芸部員だった!

「菅……」

「どいててください!」

 突然突き飛ばされた。そして光る刀の一閃とそれを止める音が聞こえた。

 目を凝らすと、暗闇の中に(仮)がいたらしいと言う事が分かった。あの白いボディからすぐわかる。見間違える方がおかしい。

 で、ビームサーベルを止めたのはなんなの? まさか素手とかじゃあるまいし。

「この『魔剣ノーズ・オブ・カジキ』の前にはそんなものただの光る棒です!」

 カジキマグロの鼻!? 確かにあれギザギザしてるけど! だけど! く……つっこみたいけどへたに出て彼が集中力切らせたら元も子もないしあれでも本気かもしれないしなんかもうなにがなんやらさっぱりでわたしとしてはどうすればいいのか分からずただこうやってループの中に身を任せて菅原くんのわざわざわざわざ言ってくれたおぞましい怪談の諸々を思い出して吐き気を覚えるしかないっていうのはすごくあれなことであれがああなって……はっ、頭が錯乱してた!?

 あぁ……つっこみたい……。


「そんなことが分からないからシミュレーションの事をシュミレーションなんて言ったりするんです! あと蝉の良さが分からないんです!」


 しばらく殺陣たてを続けた末、そんなキメ台詞(?)とともに悪霊・(仮)を真っ二つにした。その間、なんと三十秒!

 ……けど今のセリフのそれわたしだよね!? 悪霊関係ないよね!? あと蝉は大体の人が分からないと思うんだけど!

 そしてもう一つ!


「こんなにあっさり終わって、これまでのあの長い長い道のりはなんだったのよ!」


 力の限り叫んだ。それはもう全力と書いてマジで。

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