第十九話 ラストダンジョンは曲がり道
まさかこんな番外の番外でこんなに話数を使うとは……。
あ、まだ続きますとも。
さっきと同じように、わたしたちは廊下を歩いていた。
「あのさ、ところで」
ちょっとした疑問を口に出す。
「(仮)を倒してからわたしの教室に行くみたいだけど、普通に考えてわたしを教室に送ってから一人で倒しに行った方が楽よね?」
ちなみに(仮)っていうのは菅原くんの言う強力な幽霊「白い悪魔(仮)」のこと。ほんと、正式名称なのになんで(仮)なんてつけるんだろ。
「ああ、色々理由があるんですよ」
「理由?」
(仮)に理由が?……いや、そうじゃなくてこのプロセスがどうのこうのって話よね。
「だってほら、あなたも見たくないですか? 幽霊」
「見たくないわよ! お断り!」
わたしがこういうの苦手だと知ってながら……そうか分かった。単にわたしが怖がるのを見たいからこそこういう道程なのね?
「冗談ですよ。ただちょっと喋る相手が欲しかっただけで」
「そう……」
わたしが独り言を言っていたのと同じような理由でね……。
確かにこんな仕事なんて校内に複数いる方がおかしいだろうし、この子はずっと一人で戦ってたわけね。そりゃ寂しくもなるわよね。けど──
「わたしは本当にお化けとかが苦手なの。さっき言ったでしょ? ホラー映画とかも見たことないって。だから──」
「後輩を気にかけてくれる先輩は、優しくて知的だと思います」
「──さあ行きましょう。手を取り合って、いざ決戦の地に……」
わたしはこう見えて知的なのよ。人間の価値は点数なんかじゃ決まらないわ、行動よ。そう、行動が全て!
「……扱いやすい人ですね」
「ん? なに?」
今菅原くんが何かつぶやいていた気がする。
「何か聞こえましたか? きっと空耳ですよ」
そうよね、空耳よね。
「さあ、気は進まないけどさっさと行くわよ!」
「……本当に」
空耳まで聞こえてくるなんて、夜の校舎って思った以上に怖いわね……。
「僕、仕事柄から言って夜行性になるじゃないですか」
ふと菅原くんが、そんなことを言いだした。まあわたしとしても静かだと怖いし、会話で場をやわらげてくれるのは嬉しいし、ここは適当に相槌を打って話を進めていこうかな。
「うん、それで?」
「おかげで昼間は半分寝てるようなもので、『お前はよく分からん』なんて言われてたりするんですよ」
「うんうん、今は夜だけどそれでもよく分からないわよ」
だからおかしいのは絶対眠気から来てるわけじゃないと思う。
「まあ昼間でも料理とかしてる時は冴えますけど」
「その時が一番おかしいんじゃないかしら?」
結局、この子は眠ってる時が一番普通なんじゃないかしら? どんな生物でも同じだとは思うけど。
「夜の校舎で独り言を言うよりはいいと思います」
「最悪ね!」
「知ってますか? シュミレーションじゃなくてシミュレーションなんですよ」
「知ってるわよ!」
「冗談ですよ。話題ならたくさんあります」
「じゃあ何か出してよ」
そう言ってやると、彼は口を開──
「…………」
かなかった。
「え!? ネタ切れた!?」
「zzz…………」
「寝た!?」
「ああ、ちゃんとありますよ。むにゃむにゃ」
「むにゃむにゃのところがわざとらしすぎる! 絶対寝言とかじゃないわよね!?」
もう、あるならあるって普通に言ってくれればいいのに。意地が悪い。
「モンスターハンターでもしましょう」
「なにその謎展開!? どこからそんな発想が出てくるの!?」
忘れ物を取るために学校に来て、何でそんなことを!?
「だって僕らはお化けハンターじゃないですか」
「どうして複数形!? わたしは除霊とかしないわよ!」
「じゃあモンスターハンターですか?」
「それでもない! わたしは犬や猫を殺して三味線の皮にしたりするゲームなんてしないの!」
生き物の死体なんて見たくないわよ! バイオハザードじゃあるまいし!
「犬や猫……? 三味線の皮……? すみません、モンスターハンターって知ってますか?」
「ふ、ふん、知ってるわよ!」
実際知らないけど。……でも、わたしの演技力なら誤魔化せる!
さあ見なさい! わたしの力を!
「あの……あれでしょ? モンスターを、あーしてこうしてハンティングしてウレシイナーってやつ!」
「…………」
ああっ、後輩に確実に白い目で見られてる!
「まあいいです。モンハンは冗談ですし」
そうよね、冗談よね。
じゃあ冗談じゃなくて、こういう時にネタになるものといったら……。
「もしかして……怪談とかじゃ!?」
「階段? 階段ならさっき下りましたけど」
「そうじゃない! 怪談って怖い話のほうよ!」
「ああ」
一応納得してくれたみたい。まったく、なんて古典的なギャグ……。
「……それで、怪談とかじゃないわよね?」
わたしがそう言うと、菅原くんは振り向き、邪気のなさそうな笑顔を見せた。そして、前を向いて言葉を紡ぐ。
「……これは僕が初めて霊に出会ったときの話なんですけどね」
「きゃーーーーーーー! いやーーーーーーーーー!」
もう嫌だこの子!
そして目的地の体育館。ここに最初にわたしを襲った幽霊──『(仮)』がいるとか。
「さて、そんなこんなで到着しましたが……」
「そんなこんなじゃないわよ! わたしがどれだけ甚大な被害を受けたか!」
あれからずっとずっと怪談を聞かされつづけた。邪気のない顔で邪気たっぷりのことを言ってくるのがすごく辛かった。まったくもう、ダチョウ倶楽部じゃないんだから!
「と言うか何? やけに時間がかかった気がするんだけど」
「そういえば、何度も同じ景色を見ませんでしたか?」
「……ん?」
一見会話が成立していないように見えるけど、なんとなく言いたいことが分かった気がする。
「まさか……!?」
「ご想像にお任せします」
「この性悪ーーーーーーーーーーーっ!」
この性悪、わたしを怖がらせるためにわざわざ同じところをぐるぐる回ってたと!?
今日は参考書があっても、さすがに眠れそうにないかも……。