断章 乙女二人はかく語りき
まあ、いつもといえばいつものやり取りに入るのかもしれない。
「……さて杭瀬」
「…………」
「杭瀬、ちゃんと答えてくれ」
「…………」
場所は部室。アクティブに絡んでくる内藤嘉光をうまくかわし私が声をかけている相手、杭瀬弥葉琉は今でこそ無口キャラを装っているが、私相手には本当に好き勝手言っている、いわゆる似非無口キャラだ。
普段文芸部室においてこいつは、どこのコンビニにも並んでいないような意味不明のタイトルの本を読んでいて、本人は「恋愛小説の参考に」と言っているが、こんな調子で執筆する恋愛小説がどんな出来になるかわたしには全く予想出来ない。
というわけで。
「よし、帰ろう」
「……ノリが悪い人」
「お前には言われたくないな」
そちらから呼んどいてコミュニケーション無視なんだもの。
「そうだった。晴希は普段家で全裸になってライオンキングやってるくらいノリがよかったんだ」
「誰だそれは。普通に誰だ」
私はそんな性癖の人間じゃない。
「…………」
……なぜ私は何もしていないのにジト目で見られなきゃならんのだ?
「可哀相な晴希」
「可哀相なのはお前だ」
「大丈夫。晴希は晴希だから」
「さて、帰るか」
「死ね」
「人に死ねと言うな」
「生きろ」
「いや、生きるけども」
とりあえずもうやめろよこのやり取り。一体誰が得するんだよ。
「本当にノリが悪い。それが全裸でライオンキングした人の実力?」
「だからそんな私は最初からいない」
「まずはそのふざけた幻想をぶち壊すから」
「ふざけてんのはお前だろ。私はあれだ、凄く真面目だ! 品行方正なんだ!」
ん? 感情が昂ぶってつい変な事を口走ってしまった気がするんだが。
「ただし、家では全裸」
「私はお前の目には一体どういう風に映ってるんだ!?」
「常に全裸」
「まあ、最悪だな」
「と言うか服が透けて見える」
「どういう超能力だよ」
というかどこのエロ漫画だ。
「脱いでも大して凄くない」
「悪かったな」
「けど私は分かってる。晴希が風呂上がりに毎日胸が大きくなるマッサージをしてることは」
「だからお前はどうしてそうやって私に事実無根のキャラ設定を付け加えようとするんだ」
というかこういう会話する対象がいつも私なのはどういう事なんだ。
「晴希……胸は小さくてもいいんだぞ? 寧ろ俺は小さい方が好きだ」
「内藤は横から割り込んでくるんじゃない!」
「いや、そこはちゃんと彼氏として……」
「いつ彼氏になった。まあいい、後でたっぷり話してやるから黙ってろ」
「ラジャー!」
「ネタ古いな、お前!」
某ポケサンでは未だにやっているけれども。
まあとりあえず外敵の襲来は妨げられた。
「晴希……わざわざそんなマッサージする事ないのに」
「マッサージの話はお前から言い出したことだからな!」
「秋津先輩……わざわざそんなマッサージを?」
「朱鷺羽までそんな反応をするんじゃない!」
と言うかこの後輩、なんだかんだ言ってノリノリだな。普段はかなりまともだと聞いたが。
「じゃあ晴希」
「なんだ?」
「嘉光と入浴した感想を」
「本当に次々と嘘ばっか言うなお前は!」
「秋津先輩……」
「だから朱鷺羽! なぜショックを受ける!」
「……羨ましいです」
「羨ましかったのかよ!」
まあとりあえず、言い付けを守って黙ってくれた嘉光に評価プラス一点だ。よかったじゃないか、GDPの如く落ちていた私の好感度が少しでも上昇して。
「とりあえず嘉光と晴希のあの日の話は『R18』タグ付きの番外編でやってもらうとして」
「それはきっとお前の妄想成分100%になるだろう」
本気でかかれば慰謝料すら持っていけそうだ。
「大体、晴希はオプションが多い」
「いきなり話題変わったな」
何の話だよ一体。
「男女、ツンデレ、コイキングより弱い、全裸でライオンキング、レズ」
「最初の三つはさておき、後ろの二つはお前の妄想だからな! と言うかお前ライオンキング好きだな! あと朱鷺羽はなぜそう私を尊敬の眼差しで見てるんだ!?」
「人間は怖いね。好感度が上がったり下がったりする」
「達観してるみたいだがこの事態を引き起こしたのが誰か分かってるのか?」
「全裸でライオンキングの人」
「そんな奴この部室にはいない」
「間違えた。全裸にニーソックスだけ履いてライオンキングする晴希」
「ある意味更に重症になったな!」
「だとすればその裏をかいて全裸ニーソネクタイ……」
「話が不毛だ! ライオンキングに興味は無いし私の好感度が変なことになった原因も私じゃない!」
「晴希がこんな事態を引き起こそうと願ったからこうなった」
「私は晴希であってハルヒではない」
「こうやって突っ込みを入れるために世界を動かしてるの」
「一体突っ込みに何を懸けているんだよそれは」
「実際は、作者のせいであって私のせいじゃないけど」
「待て。今ものすごく鮮やかにメタな台詞で責任転嫁した気がするんだが」
「晴希は本当に、本当に最初の最初は男口調でちょっとツンデレなだけの普通の女子高生だったのに」
「だから台詞がメタだぞ」
「今じゃこんなおっさんになって……」
「誰がおっさんだ! 大体世の中はおっさんって言った奴がおっさん呼ばわりされるんだよ!」
「この後付け設定の塊と違って、私は無口キャラだから大丈夫」
「……そうだったな。お前のポジションはつくづく羨ましいよ」
「…………」
「おい、どうした似非無口キャラ」
「……いや、何でも」
何だか一瞬杭瀬の調子がおかしかったような気がするが、まあ気のせいかもしくは杭瀬の演技だろう。
「私も元は地味じゃなかったけど」
「人の事言えないな、おい」
「…………」
「だから無口キャラを演じるな」
「分かった」
「分かってくれたか。……というかなぜたかがお前との会話でこんな無駄に一話使うんだ?」
「それは私が、作者のお気に入りで」
「やっぱり発言がメタだな!」
「……言い出したのは晴希」
はい、今回は超省エネレベルでモノローグを減らしてます。流石に最初の最初みたいなのではありませんが。
この話、書きたかったんですよねー。