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白世界  作者: 白龍閣下
白世界
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第十話 イン・ザ・パラレルワールド

「参謀先輩」

 電話で四苦八苦している嘉光から離れ、朱鷺羽は一宮に話しかけた。

「参謀先輩じゃない」

「参謀先輩」

「誰が参謀先輩だ」

「参謀先輩」

「……朱鷺羽」

「はい」

「一宮先輩だ。間違っても俺は参謀先輩じゃない」

「そうですか。参謀……の、一宮先輩」

「どうした。そして確かに俺は一宮だが参謀ではない」

 まずどうしてこの後輩は一宮のことを参謀呼ばわりしたいのか未だに謎だった。

「天森先輩一人で大丈夫なんですか?」

「天森なら大丈夫だ。もっとも、俺はそこまで信用していないが」

「そうなんですか? ならなぜ」

「あいつくらいしかいなかった。今日は誠文もいないしな」

「大曽根先輩ですか? 旅に出たって言ってましたけど、本当のところどうなんですか?」

「それはプライベートの領域だ。それに、そんなものを明かした所で面白くも何ともないだろう」

「はあ、すいません……」

「ちなみに天森は、召喚獣を呼んでおいたと言っていたがな」

「召喚獣? それはどういう?」

「俺にも心辺りはない。だからこそ胡散臭いんだがな」

「は、はあ……」

 頭に疑問符を浮かべる朱鷺羽を無視し、一宮は新聞部のある方向へ軽く目をやった。



「すいません、どうやらイタズラ電話だったみたいで」

 携帯電話を折り畳み、そう返答する。さっきの通話なんて最初からなかったんだ。

「いえ、私の見る限りでは横に『内藤嘉光』と書いてあったような気がしたのですが……」

「……誰ですかそれは?」

「へ?」

 仁科さんが困惑している。躊躇わず、寧ろこれは好機とばかりに私は話を続けることにした。


「内藤嘉光なんて人物は、この学校にはいません……いえ、この世界にもね」


『…………』

 部室がしばしの沈黙に包まれる。

「そんな事は……なるほど、ありますね」

 そしてまさか納得するとは思わなかった。

「おそらくこれはパラレルワールド……どうにかして元の世界に戻らなければ!」

 私には理解もできない決意を込めて仁科さんが立ち上がると、他の新聞部員達が次々に騒ぎ出した。

『そうだ、これは夢なんだ!』『昨日買ったエロ本が地雷だったのもきっと夢なんだ!』『俺はやればできる子なんだ!』『ヒャハハハハハ! ラリホー!』『キエエエエエエエ!』『楽シイナア! 報道ガデキテ楽シイナア!』

 ……もう駄目だこの新聞部。いっそ滅びてしまえばいいと心から思うんだよね。

 そうやって私が文芸部にいた事にまさかの感謝を覚えながらも思考を放棄している所に、再び聞き慣れたMGSの着信音。とは言っても勿論サイボーグ忍者などではなく。相手が誰かはまあ見るまでもなかった。

『おう晴希』

「誰だお前は」

『冗談はよしてくれ。ただでさえさっき電話切られたせいで死にたくなってるってのに』

 そうか、あれが相当な精神的苦痛を与えるとは。嘉光はマゾだから大丈夫だと思ったんだがなあ。

「悪いがこっちだと内藤嘉光って人間は存在しなかった事になってる」

『へ?』

 信じられないというような嘉光の声。まあこれは無理もない。

「どうも新聞部は勝手にパラレルワールドに旅立ってしまったらしい。残念だったな嘉光」

『……そうか、なら仕方ない』

 だからどうしてお前も納得するんだよ。などと思ったが、果たしてこいつの次の言葉は、

『大丈夫だ』

 私にとって全く意味の分からない物であった。

「……何がだよ?」

『お前が違う世界に行ってしまっても、俺は絶対にお前を見つけ出してみせるからさ』

「……っ!」

 思わず言葉になっていない何かが口から飛び出た。

『どうした晴希!? 大丈夫か!』

「お前の歯の浮いたような台詞のせいだ馬鹿!」

 おかげでさっきの水道水が逆流してしまったじゃないか。どうしてくれる。

『大丈夫ならいい。ところでよく分からんが、もうすぐそちらに召喚獣が来るとか……』

「はあ? 召喚獣って何なんだ」

 いきなりよく分からない単語が出た。本当にパラレルワールドの狭間からやってくるんじゃないだろうな?

『ひょっとしたらこれが科学とオカルトの結晶なのかもしれないな……一宮さんがお前の携帯番号を特定した時と同じようにさ』

「おい今の話は聞き捨てならんな!」

 そんな私の訴えは見事にスルーされ、『まあいいけどさ』と言われた。いや、それが本当にいいのかを決めるのはお前じゃないから。その辺後できっちり勘定してもらおうか。

『届いてからのお楽しみだとか言ってたぞ』

「そうか、じゃあ切るぞ」

 処分を後でやるとするならばもう長話をしている必要もないだろう。私は遠慮なく携帯を切り、仁科さんの方に向き直った。

『っと、ちょっと待っ──』

 さようなら、嘉光。

「さて、ではこの世界のあなたに訊いておきましょう」

 混乱からある程度回復した仁科さんが言う。しかしまだパラレルワールドを信じ込んでいる辺りが半端ない。

「あなたは新聞部に入る意思がありますか?」

「ありません」

 即答。

 こんな水道水ばっかり飲ませたり勝手にパラレルワールドに入っていく部活など、突っ込みが追いつかない。よって直ちに却下だ。

「そうですか、では」

 特に悔しくもなさそうに、仁科さんは言った。「はい」と相槌を打っておく。

「文芸部に残る意思はありますか?」

「…………」

 難しい話だ。

 確かに入りたくて入ったわけじゃない。だが、選択のチャンスは前にも一度あった。そしてそこで、部活を続けるとこの口で言ったのも事実だ。

「嫌だ嫌だなんて言ってる内は、本当は嫌じゃないのかもしれないな……」

 そんな事を呟いてしまう。

「新聞部入部を一瞬で拒否しておきながらこの質問に悩むなんて、我々はなんて顔すればいいんですかね……」

 そして仁科さんもそんな事を呟いていた。あ、やっぱり悔しかったのか。ざまみろ。

 ……なんていうやり取りはともかく。

「分かりましたよ。答えましょう。私はあの部に──」

 このまま文芸部に残るという選択肢を取る意思は──


 ──パコーン!


 と、狙ったかのようなタイミングで新聞部室の扉が吹き飛んだ。

 そして廊下から現れたのは……一人の男子生徒。くせの強そうな黒髪が逆立っていた。

「文芸部一年、神城羅央かみしろらおう、見参!」


 ──超! エキサイティン!


 空中で扉を吹き飛ばした後そのまま何回転かし、着地した後その神城とやらは両足を広げ両腕と腰を深く落としながらも斜めに構えた、俗に言う『かっこいい姿勢』を取りながらそう叫んだ。

「……は?」

 思わず今日何回目かと思えるような呆れを私は見せた。まさかこいつが『召喚獣』なのだろうか。それにしてもまたまた奇妙奇天烈な奴だ。

 はい、そろそろ新聞部編も終わりが見えてまいりました。

 それにしても杭瀬の出番がものすごく少ないような……いずれ奴との会話でまるまる一話使うときは来るでしょうが。

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