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白世界  作者: 白龍閣下
白世界
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第九話 嘘と偽りの御物

「ふむ、文芸部からの着信ですか。しかし我々が、果たしてそれを許すとでも?」

 新聞部部長は首を軽く傾げながら余裕綽綽といった態度でそう言った。

 相手が許してくれるかどうか? 当然ながらそんな事は思っちゃいない。この流れでそんな事を許すのは余程のアンポンタンしかおるまい。

「許しましょう」

「許すのかよ!」

 思わずタメ口で突っ込みたくなってしまうほどにアンポンタンなのがここに一名いた。……いや違うか。よく考えてみると一名じゃなかったわ。何人か仁科さんに頷いてるし。

「落ち着いてください。そして水を飲もうとして手を滑らせてその携帯に水をかけてください」

「やめて下さいよ!?」

 なんて注文だ。というかそれは決して落ち着いてはいないと思う。それに私のは防水だ。

「とにかく早く電話に出てください。そしてその惚気話のろけばなしをカセットテープにして新聞部にお譲りください」

「無理です」

 さすがは嘘九割と偽り一割だ。私は携帯を開き、困り果てながらも結局通話ボタンを押すしかなかった。



 で、それよりちょっと前のこと。

「まず代表の由宇を電気椅子に座らせて──」

「内藤」

「いや、晴希を取り戻した後暗殺して偽の由宇を擁立すれば──」

「内藤」

「いやそれも違う。だいたいこの学校には生徒が多すぎるんだ。新聞部員をひっとらえて、あえて隙を作って逃がし部室で合流した所で装着しておいた爆弾を──」

「内藤!」

「駄目だ晴希が巻き添えになる…………くそっ! ごめんなさい!」

「分かってくれたなら結構だ」

 俺たち(ただしほぼ一名)は、こうやって至極真面目に晴希奪還作戦の道程を考察しているところだった。

 とここで、一宮さんが意見を出す。

「新聞部室に行くメンバーを決める必要があるな」

 なるほど、これはもう数人で突入するということだろう。

 ということは、最低限俺は当然だとして、他には……。

「小枝さんの力が必要になりそうですね」

「あれっ? 私頼り? うん、まぁいいけどね!」

 俺の発言に、常に楽しげな小枝さんが答える。

「……そうだな」

 なぜか一宮さんは一人苦々しい表情をしていたが、どうしたんだろうか。ともかくあまり踏み込んで心地のいい話ではなさそうだが。

「菅原はどうだ? 俺はできるやつだと睨んでたんだが」

 そう言って後輩、菅原卜全すがわらぼくぜんの方を見る。

「ちょっと無理ですね。今日は海苔のり蒟蒻こんにゃくも持ってないので厳しいです。それに蝉も丁度切れててですね」

「その装備でどうやって戦うんだ……」

 菅原は時々よく分からないことを言う。さすがこの前晴希に「お前は微妙さにおいては他の追随を許さないな」とまで言われただけのことはある。

「いえ、バイトで使うんですよ」

「バイト?」

「ええ、バイトです。疑問に思われるかもしれませんがこれは……いえ、やめておきましょう」

 何その引き、すごく気になるぞ! くそっ、何だ!? 何のバイトだ!?

 呆れたように一宮さんが助言する。

「というより戦力が欲しいなら杭瀬でも連れていけばいいだろう」

「…………」

 部室の奥に、それなりに可愛いはずなのになぜだかやけに地味な女子が見える。

 確かに杭瀬はああ見えて運動神経はいいらしいし、それにいきなり部室に忍び込むなんて真似も無理じゃないだろう。同じ部じゃなきゃ存在すら認知できなかったようなやつなんだから。

 しかし、だ。

「でもね一宮さん、それはちょっと承諾できないんですよ」

「ほう」

「敵地に女の子を送り込むのは俺の主義に反するんで」

「内藤、格好つけて言っている自分の姿をよく見直してみろ」

 一宮さんの相変わらず冷静な一言。へ? 自分の姿って言われても、右手の指が全部ねじ曲がってて肘がねじ曲がってて、足も同じってだけじゃ──なん……だと……?

「ぎゃああああああ! 体が! 右半身の関節が全部曲げられて新人類に! 小枝さん!? あんたイチ、ニのサンで何をやってんの!?」

 一瞬で右半身の関節をすべて逆に曲げられた。

「どうしたの? 右半身がでたらめな人になってるけど!」

「あんたの強さがでたらめですよ!」

「お前ら、痴話喧嘩は後回しにしろ」

「そう思うんだったら俺の関節を元に戻してくださいよ……」

 一宮さんは小枝さんに目配せする。すると小枝さんはまた火中天津甘栗拳ばりの速度で俺の体を元に戻してくれた。

「さて、お前らが遊んでいる間に秋津のアドレスはお前の携帯に登録しておいた」

「俺はおもにもてあそばれてましたがね」

「内藤は秋津に連絡を取っておけ。小枝の突入後は流れに任せろ」

 なるほど、ようやく突入か──

「って、結局力技ですか。さっきデジャヴがどうとか──」

「お前があまりにもかすからな。急襲をする側がなぜ焦る必要がある」

「……すみません」

「気にするな。それより早く連絡を取れ」

 そうだった。俺にもすべき仕事がある。

 携帯電話を開き、アドレス張に登録されたばかりの『秋津晴希』に電話をかける。届けこの想いっ!

 ……………………………………………………………………………………………………。

 ………………なんだなんだよなんだってんだよ! 随分と待たせるなおい!

「一宮さん! 晴希ってもしかして携帯持ってきてないんじゃ──」

「そんなことはない。見てみろ」

 一宮さんはそう言うと、いつものように使っているノートパソコンの画面をこちらに見せてきた。複数の長方形の組み合わさったような図に赤の点が打たれている。これは……地図か?

「現に秋津に渡しておいたお守りの発信機と秋津の携帯電話に仕込んでおいた通信機で位置を調べてみるとどうだ、同じ場所にあるのが分かるだろう」

「そうですね、納得です」

 そうして再び応答を待つ。「ちょっと待ってください! タンマタンマ!」なんてみのりが叫んでいるが、何をそんなに慌てているのか俺にはさっぱりわからなかった。

「それよりは今出れない状況にあるのかもしれないな」

「ということは……さあ、虐殺の準備だ!」

「落ち着け」

 といったところでようやく、相手が電話に出てきてくれた。聞こえてくるいつもの可愛らしい声。どうやら無事だったらしい。

『内藤か?』

「おうそうだ、内藤だ! 大丈夫か?」

『……チッ』


 ツーツーツー……。


「……舌打ちされて切られちまったぜ!」

「静かにしろ」

 その場でへたり込み天井越しで空に向かって叫ぶ。今夜はきっと……いや確実に枕を濡らすことになるだろう。

 えと、要するに全力で助けにいっても全力で受け入れてくれるとは限らないって事ですね、はい。

 愛って難しいものです。俺には恋愛経験なんてありませんが。

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