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妄想の帝国

妄想の帝国 その86 新世紀ニホン国大法要

作者: 天城冴

気象災害が酷くなっていったニホン国では、新幹線の線路さえ、暑さでゆがんでしまった。しかし、それすら修理できなくなり、盆帰省すらロクにできなくなっていた。そのため、政府主催の合同法要が行われることになったのだが…

毎年、毎年、暑さが酷くなっているニホン国。真夏日ではアスファルトが溶けてタイヤとくっつき自動車が立ち往生、線路のレールが歪んで脱線事故が多発して列車の、特に新幹線やら特急などの運行もままならなくなっていた。さらに彼の世から一時帰ってくることになっている死者たちを迎える盆休みも豪雨、台風が直撃、ふるさとへの帰省もままならなくなっていた。そこで…

『エー本日、ただいまより初の試みとして、ここ新ニホン国国立競技場で、首都もしくは都会にいながら、墓参りならぬ大法要を行うという新世紀ニホン国製餓鬼法要を執り行います。これは酷暑、豪雨などの気象災害が多発する中、8月13-15日のお盆休みではとても帰省できない、いや山の日の8月11日だの間の土日だのをいれて一週間盆休みをとったとしても無理。そもそも有休なんてないです、私、などといった方々のために、宗派、地理、もろもろを超えた法要を行うもので、これで墓参りの代理にしようという試みでありまして』

と会場にながれるアナウンスを観客席で携帯用扇風機を回しながら聞く一組の夫婦。

「あー、暑いな。まあ、ぎゅうぎゅうのいつ止まるかもわからない列車や動かなくなるかもしれない車に乗って帰省するよりはマシだけど」

「そうねえ、アナタ。ここ国際大運動大会のために建てたけど、屋根を中途半端に開けてるから夏は暑いし、冬も寒いしで、全然使えなくて負の遺産になってた競技場でしょ、だから今の季節はつらいのよ。確かに40度を超えるかもしれない車の中よりはいいかもしれないけど。それに国が大規模法要ってなんか、変じゃない」

「ま、使い道のない競技場を利用する名目とレールだの道路だのの破損を十分修理できないってことの言い訳だろ。都会から帰省する俺たち庶民が高速道路とか特急列車が仕えなきゃ、どうするんだって騒ぐから、政府がまとめて墓参りというか法要を行うから、それでいいだろって誤魔化しだよ。本当は鉄道会社や行政がちゃんとやらなきゃならないけど、予算が足りないとか言って。防衛費とか政党助成金削ればいいんだよ、インフラの破壊は国家の危機だぞ」

「まあ、いいけどね、私は。お墓参りとかいやってわけじゃないけど、掃除とか大変だし親戚回りも結構面倒だから。最近は簡略化して昔みたいに女性は料理しろとかいう化石頭オヤジが激減したから、助かってるし。あ、始まるわよ」

競技場に設置された大画面の前で、僧侶たちがそれぞれお経をよみあげはじめると

「お?画面が暗くなった、なんかの演出か」

「そうじゃないみたい。お坊さんたち、慌ててるもの。お経とかつっかえてるし、唱えるのをやめちゃって、口を開けて座りこんじゃう人もいるわよ」

右往左往する僧侶たちの後ろの大スクリーンに泥だらけで髪がボサボサの男性の顔の恨めしそうな顔が画面いっぱいにひろがる。

“いい…加減…にし…ろ。俺たちを…おき…ざりに”

画面また暗くなった。次に現れたのは古ぼけた帽子と、ヨレヨレでしみだらけの軍服姿の男性。

“あんな…島で…助けてと…電報を送ったのに…”

怒りに満ちた目。人々をにらみつけるような顔の横から、

“お腹…すいたよお…”

小さな手が無数に伸びる。

「あ、あれ、なんだ…。なんか見たような、ま、まさかアレって、おい、あれあれ」

「あ、アナタ、あれ、そ、そうよ、あれよ、この間みたドキュメンタリーで、みたやつ。戦争の犠牲者の人たちよ。脱出するからって基地を離れさせといて軍の人はこっそり自分たちだけ潜水艦で逃げちゃって置き去りにされて死んじゃった人たちでしょ、軍人じゃなく、基地の作業従事者だったから見捨てられたって人」

「そうだよ、次に出てきたあの軍服?援軍送れと上層部に伝えたのに、握りつぶされて挙句自殺命じられて、それを自ら喜んでやったんだって美談にされちまった話の人だよ。酷いよな、相手の兵力とか見積もりとか全く間違ってたのは軍の上の奴らなのに、負けたのは現場のせいだってされて」

「あの小さな手は軍に食料を根こそぎ持っていかれて、隠れていろと言われて飢え死にしたっていう、子供達からしら。あの手は現地の子も混じってるみたいね。でも、なんで?演出でもないのに…まさか」

「そのまさかだよ、たぶん、その霊たちが帰ってきちまったんだよ、この法要に。台風とかにのって南の島から来たのか。それとも大法要ってことで僧侶たちが経を唱えたから成仏できると思ったのか」

「それだけじゃないみたいよ。供養してもらいに来たんなら、あんな恨み言いわないでしょ、それにほら」

妻が指さしたのは政府のお偉方や経済団体のトップの席。どす黒い塊が飛び交い、震えて硬直する初老の政治家やみっともなく喚き散らす壮年の実業家、逃げ出そうとして席からころげおちる女性議員もいた。

「いつも威勢のいいアトウダ元副大臣が怯えてるよ、まあアイツの祖父もそうだけど、奴もロクなこといってないから、死者たちに恨まれてもしかたないだろうな。自分らがされたことをまた、子孫とかにされかねないし。というか、もうしたも同然かもな」

「そうよねえ、こんな風に利権まみれの政治家の贅沢に税金がつかわれちゃって、私たち庶民は値上げラッシュにステルス増税、ようやく貯めたお金で帰省しようとしてもインフラが整備されてなくて使えないなんて、ホント酷いわよ、自分勝手な政府の奴らのせいっでってことは戦争の時とおんなじよね。強がって戦争仕掛けるような真似して、でも自分たちだけは安全なとこにいようとしてるものね。ホント子持ちじゃないけど、子供のいる人の心配がよーくわかるわよ、実家の甥っ子とかが、アイツらのために死んだりしたらたまんないわ」

「俺だって、姪っ子とか、お前の甥っ子だってかわいいよ。奴らの捨て駒なんかにさせたくない。だいたい、今だって、政策の失敗を自治体の職員のせいにする奴も…。あ、ゴウノの奴、死者に言い訳してたのが、失敗して呑み込まれてやがる。下手な言い訳を怒鳴り散らしても霊には通じなかったみたいだな、当たり前だけど。しかし、政治家とかじゃない人も襲われてるみたいだが」

「ああ、そうみたい。あの飲料会社の会長さん、政府に保険証の廃止を早くしろとか言ってたからじゃない。なんで、ただの民間会社が私たちの命にかかわることまで口だしてんのよ、何様のつもりよって思ったわよ。顔以外全身覆われて、なんか言ってるみたいだけど、死者たちは全然納得してないみたいね。どんどん顔が苦しくなってるもの、きっと体中をつつかれたり、締め上げられたりしてるんでしょうね、いい気味だわ。前は少しはましかと思ってたけど、国民が反対しても、情報漏洩だの管理が出来なくても、自分たちが得するなら、そんなのどうでもいいって考えだったのかもね。社員だの庶民だのをこき使って上がりを取ろうっていうのは、戦前の強欲な商人とかと同じ、酷いやつなのよ、きっと」

「財界とか太鼓持ち芸能人とか、政府肯定批判無しの似非ジャーナリストや、政府となれ合いのテレビ局の奴らが囲まれてるのは、わかるよ。あの少年性被害を無視してた奴らがつるされて、下半身をつつかれてるのはかえって、スカッとするぐらいだ。でも、どうして、庶民も襲うんだ」

夫は自分たちのすぐ上の席で黒い塊に迫られ、うろたえる男性を見上げた。

「たぶん、あの人たちを見捨てた上官の子孫か親戚じゃないの。親自身が反省も謝罪もせずのうのうと生き残って裕福に暮らしてて老衰で死んだとか、親の罪を知ってて見捨てた人たちの遺族に謝罪したり、償いをしなかったとか」

「確かに、“ぼ、僕は悪くない、全部オヤジが…”とか聞こえるな。アレは知ってたのか」

「みたいね。この間の番組に出てた人みたいに、反省しながら記録を公開したりしてりゃ、あんな目にあったりしなかったのかもしれないけど。親が悪いことをしたのを握りつぶすって、ある意味親そっくりの卑怯者なんでしょうよ。あー非国民とか言われたりしても、そんな最低人間じゃなくてよかったわ、うちの親。貧乏になったけど」

「まー、親が酷くても、本人が親に代わって謝るなり、親の罪をちゃんと世に知らしめて償う気があればマシだったんだろうけどな。あれじゃ、親子そろって恨みの対象になりそうだ」

「はあ、半分近い人が襲われてるみたいよ。これじゃ法要どころか、ニホン国戦死者の幽霊大復讐パニックね」

「いや、これが新しい法要なんだろ。今まで罪を免れ、反省もせず、同じ過ちを喜んでやろうとした奴らを死者たちが懲らしめ、その愚かさを戒め罰して、そのうえで恨みを残した死者の霊も浄化されて、彼岸に旅立てるってことで」

そういうと夫はポケットから数珠を取り出し、手をあわせた。妻も隣でそれにならう。遠い異国で非業の死をとげ、骨もロクに拾われなかった死者たちの魂が荒れ狂う中で二人は静かに彼らのために祈っていた。


どこぞの国では台風ほか気象災害がひどくなり、先祖を迎えるはずの休みに大直撃するようになり、頼みの綱の新幹線も運休頻発したらしいですね。いや、これからインフラの維持できるんですかねえ、外遊だの研修と称して与党国会議員が遊びまくるカネに税金を投入しているようでは難しいかも知れませんねえ

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