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第4話 入学試験

 ムーンラルクについてから数日が経ち、今日が試験の日だ。


 この数日間は筆記テスト対策のためにルナリアと一緒に勉強をしていた。

 俺は実家に居る時にちゃんとした教育を受けていたので、今更特にすることはなかったのだが、ルナリアは少し危うい感じがしたので、教えていた。

 そのおかげで剣術練習は全くできていないが、問題はないだろう。

 何せこの国で最弱の剣術科なのだから。


 大抵の学校は一次試験で記述、二次試験として実技を見る所が多い。これはムーンラルク学園においても例外ではないが、割合は他とは比べ難い値になっている。一次試験の点数八割、二次試験の点数二割で判定するはずなので、ほぼ記述テストで決まってしまうのだ。

 剣術科ならばほとんどの学校が実技重視なのにな。



「なんとか乗り越えました! 八十点です!」


 人だかりができている掲示板の少し外れで待っていると、ルナリアが走ってきた。


 筆記テストと言っても、六択から一つを選ぶ、俗にマークシート方式と言われているやり方を採用している。

 それを高度な魔術式を組み込んだ機械に通し一瞬のうちに合格か不合格かを判別しているので、終了後1時間程待てばすべての人の結果がわかる。


「おお、良かった! それだけ取れていたら多分受かるな!」



 この試験において、一番の不安要素はルナリアが受かるかどうかだった。せっかくできた友達が落ちたらどうしよう、と思っていたこともあり、今までに感じたことのないほどの嬉しさが込み上げてきた。


「ありがとうございますほんとに! ルーストリアさんは……って、聞くまでもなく余裕ですか」

「うん、満点だった」

「あはは……さすがですね」


 ルナリアは にっと笑うとぴょこぴょこしながら僕についてきた——と言っても、次の学科別試験の会場に向かっているだけなのだけど。


 ---

≪剣術指南ホール≫


「今回七十点以下は実技受けられないみたいだね」

「ね! びっくりしました! ルーストリアさんがいなかったらどうなっていたか……」


 例年は数百人しか志望者がいないのに、今年は数千人を超えたらしく、人が多すぎるが故に先に選別されたらしい。


「なんでこんなに人いるんだ?」

「どうしてでしょう? 不思議ですよね~」

「……あの方がここに来たからですよ……」

「あの方って……えっ?!」


 後ろに立っていた猫背の男が小さく呟いた言葉を拾ったルナリアがとても驚いたように距離をとり、腰に差していた剣に手をかけていた。


「ルナリアさん、流石に驚きすぎじゃない?」

「いえ、先ほどまで誰もいなかったのにいきなり沸いたように現れたので、ついやっちゃいました」


 ルナリアは少し照れたような表情を浮かべているが、警戒心は解いていない。

 確かにこんな真後ろには誰もいなかったし、パーソナルスペースに入り混んでいるのに気づくのが遅くなったことなど、不信感を抱くのは分かる。


「あの方はあの方ですよ……。今台の上に立った人……」


 ルナリアが剣から手を離すと、また小声でその男は呟いた。


「そ、そうなんですね」


 この子、この人のこと知らないって顔してる。

 台の上に立ったこの人のことは、今や知らない人は居ないと思っていた。


「えー、皆静粛に。今から二次試験を始める。監督は今年から剣術指南役となる私 レオン・ブレイズが務める」


 レオン・ブレイズ……クライノート家に匹敵するか、それ以上の力を持っている人だ。

 5年前、人里に降りてきたレッドドラゴンを、誰も犠牲者を出さずに一人で討伐したことで世界中で話題になり、ライゼンブルク現当主の目にも止まって魔大陸監査司令官に抜擢された。

 魔大陸監査司令官は、その字の通り魔大陸を監査する人のリーダーだ。

 現代において魔物の脅威を感じないのも、この役職の人たちがしっかりしているからだと人々は日頃感謝をしている。

 つまり、簡単に言えば、レオンさんは英雄に近い人だという認識が世間では一般的になっている。


 でも、なんでこの人がこんなところにいるんだ……?

 疑問も生じたが、とりあえずルナリアにレオンさんのことを手短に教えると、きょとん顔で「すごい人なんだね~」と、全然興味を示さなかった。


「今年から制度が変わって二次試験としての実技は、すべて模擬戦とする。組み合わせはすべてこちらで決めさせてもらったから各自掲示板にて確認してもらいたい。この試験は5日かけて行うこととする。質問のあるものはいるか?」


「はい」


 俺は短く言葉を発し手をあげた。


「なんだ」

「制度の変更において、一次試験と二次試験の割合変更ってありますか?」

「ああ、言い忘れていた。今年はこの模擬戦次第では一次試験がどれだけ良くても不合格になるから手を抜かないように」


 なるほどな。ここに残っている者は皆七割を超えているのだからそちらの面でこれ以上の区別はしないということか。


 これは、俺にとってはとても大きな問題だ。剣気を纏えないのに強い人と当たってしまったら、何もできずに負ける可能性が高い。

 そうなった場合、一次試験の結果が関係ないとなると落ちる確率が爆発的に跳ね上がってしまう。


「他に質問者はいないな。では、明日以降の者は帰っても良いぞ」


 レオンさんはそう言うと、対人試合用のコートへと移動していった。


「ルーストリアさん? どうしたんですか?」

「俺、剣にはちょっと自信なくて……鍛えたくてここに入ろうとしたのに、このままだとだめかもしれない……」

「そうなのですね……。では試験の日にちによりますが私と一緒に特訓しませんか?」

「できればお願いしたい」


 あまり期待はしていないが、解決策の糸口を見つけられるかもしれないので、お願いすることにした。


「……ルーストリアさんとルナリアさんは最後の日でしたよ……」

「わっ! また急に! っそれよりもなんで私たちの名前知っているんですか!」


 ルナリアが掲示板を見に行こうとした時に、またしてもさっきの男が後ろから声を挙げた。


「……あなたたちが名前を呼び合っていたから……あ、自己紹介がまだでしたね……僕はマルコ・インペリアス……よかったらその練習僕も混ぜてもらえないかな?」


 周りが先ほどよりかも騒がしくなってきているのに対し、相変わらずの小声なので少し聞き取りにくかったが、ここに来ている人の実力を先に見ておくのは良いことだと思ったので、快く受け入れた。


「改めて、ルーストリアだ、よろしくね」

「むむむ……私はルナリア・フライハイト です」


 話を勝手に進めて不満げな表情を浮かべたルナリアだったが、続けて名乗った。


「……では、明日、学園前で集まりましょう」


 マルコはそう言い一礼すると、人の流れに従うようにホールから出て行った。


「ねえ、ルーストリアさん、あの人ちょっと怪しくないですか?」

「そうか? 少し暗い気はするけど、怪しくはないと思うけどなぁ」

「普通気配をあそこまで消して話しかけないと思います」

「そうか?」

「そうです」


 気配のことなんて考えたことのない俺にはよくわからなかったが、ルナリアの話はちゃんと聞こうと思う。なぜかと言うと、あの時のルナリアは殺気を放っていたからだ。

 あそこまでの殺気を放てる人は同年代では見たことがない。つまり、相当な実力者だということでもある。


「とりあえず、害は与えてこないと思うし大丈夫じゃないかな」

「……そうだといいのですが」


 ルナリアの驚きようは普通ではなかったが、俺にはマルコが何か仕掛けてくるようにも、企んでいるようにも思えなかった。

 ルナリアは俺が警戒していないことを知ると、少し不満げな表情は残してはいるものの、今すぐどうこうしようとは言い出さなかった。


俺達も人の流れに乗って会場の外に出た後、宿屋に帰ることにした。


 ——この学園は例年通りならば底辺だったはずだが、今年から英雄が指南してくれることもあるし、集まってきた人たちもそれなりの腕っ節だろう。

 あの人——父はこのことを知っていて俺にこの学校を受けさせたのか?

……そんなはずないよな。あの人は俺のことなんてただの恥晒しとしか思っていないのだから。

 俺はマルコのことよりも、そちらの方が気になってならなかった。

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