第42話 観測者ジニア
『この試験場の責任者として、あなたたちの記録は録らせて貰いましたが……あのような方法で侵入し、変則的なやり方で試験場を突破したあげく、圧倒的な力で瘴機種を破壊するなんて、今まで他の覚星者では見たことありませんでした』
褒めているようでどこか冷めた口調に、カインは薄ら寒いものを感じる。
見た目は二導影だが、声は明らかに村にいたジニアだ。
【観測者】が試験場を用意し、覚星者たちの能力を測っていることは三人も知っていた。
しかしまさか二導影を操り、人間と変わらない見た目をしていた村長のジニアが【観測者】だったとは、露ほどもカインは思っていなかった。
人を騙すのが相当得意なのだろう。村で話していたときの温かみのある雰囲気は声音からいっさい伝わってこない。
人間そのものを実験に用いるような連中だ。その責任者ともなれば、性格も推して知るべしといったところか。
驚きはあるが、すぐに状況を理解したカインは冷静さを取り戻してジニアに問うた。
「責任者っつーことは、いろいろ知ってるってことだよな? 実は昔から一つ聞きてーことがあったんだ」
二導影の先にいるジニアに向かって、真実を知りたいという欲求と怒りの感情を込めて。
「なんで覚星者を使って実験なんてしてんだ?」
この世界に星託という星を降らし、覚星者に輝石という恩恵の代わりに、クエストという形で様々な試練を課してくる。
実験によって覚星者の実力を測っていることは周知の事実だが、なぜそんなことをするか。その理由について他の覚星者に質問したことはあるが、誰一人として彼らを【観測者】とは呼ぶのに答えを知らない──というより、知っているのに頑なに教えてくれなかった。
輝石というエネルギー源の見返りがあるとはいえ、かつてはいなかった魔霊種と瘴機種という脅威も生み出した【観測者】たち。
平穏としていた世界に騒乱を持ち込んだ相手の正体はおろか、目的すら定かではない。
破壊と混乱を撒き散らされている憎しみもある。一方で輝石という恩恵を与えている相反する行動をする【観測者】そのものへの知的好奇心もある。
そんなカインの思いに、【観測者】であるジニアは二導影を通じて答えた。
『武力を増強し、他惑星を侵略──つまり、他者の住んでいる地を力づくで奪って植民地化し、自分たちのものとしたいからです』
「それとこれと、俺たちとなんの関係があんだよ」
他者を虐げ強奪したいなら、なぜこの地の侵略を諦め、覚星者を観測し続けているのか理由がわからない。
最初は魔霊種を用いて侵略を試みたが、惑星アネスタの住人が強すぎて無理だと悟り、観測に切り替えたことは知られている。
しかし諦めて去るわけではなく、覚星者を観測し続ける理由は三人も知らない。
カインは真意を探ろうと、瞳のない二導影の虚ろを見つめた。
『私たちは、あなたたちの心力に目をつけました。物にパワーを込め、攻撃力に転換するという能力。私たちの科学では再現できない未知の技術とエネルギー。それを軍事活用するために、覚星者を観測し、研究を重ねているのです』
我々は偉業を成そうとしていると告げるように、二導影は両手を広げて空を仰々しく見上げる。
その様は、崇高な目的のためなら他者の命を軽んじる、狂った研究者の姿に見えた。
「つまり、お前たちのくだらない遊びに付き合わされてたってことだな」
カインはグワッと頭が熱くなり、熱気を帯びた気配を漂わせ始める。
何もかも理不尽で自分勝手な目的と行動に、怒りを通り越した黒い感情が渦巻く。
知らなかったこととはいえ、思うように踊らされ、誰かを傷つけるための研究材料にされていたという事実に、カインは自分自身にも腹が立ってきた。
しかしそれだけなら、真実を知っている他の覚星者たちが口ごもっていた理由がピンと来ない。他人には言えない別の理由があるはずだ。
『あなたは素晴らしいサンプルです。今後も私たちの研究対象として観察させて貰いたいですね』
顔は黒い二導影の姿なのに、その先に透けて見えるようなジニアの黒い笑みに、カインの中で何かが切れた。
「俺はお前らのオモチャじゃねぇっ!!」
カインは瞬時に足元の影を伸ばし、無数の刃を二導影の全身に突き立てる。
生物はもちろん、魔霊種すら消滅する滅多刺しに、空気までもが時間を止めたように静まり返るが。
『コレはホログラム。どんな攻撃も効きません』
スルリと影の帯をすり抜けるように、二導影は傷一つ負わずに前へ歩み出てくる。
初対面のときに拘束できなかったので、攻撃が通じないことは百も承知だったが、怒りを相手にぶつけたいという本能が理性を上回った。
それほどに、命を弄んでいる相手が許せなかった。
「このこと、世界中の人間に知らせて、お前たちの研究を潰してやるからな!」
惑星アネスタに住むすべての人々が真実を知れば、奮起された人たちがレジスタンスとして施設を破壊して回ったり、逆に研究材料にならないように覚星者としての活動を辞めるだろう。
当然そうなるはずだと、カインは固く信じて相手を挑発するが。
『実力はあるようですが、頭はあまり良くないようですね』
ジニアは失笑を禁じえないように、手を口元に持ってきてニヤリと口角を上げた。
『今や、魔霊種を倒したり星託を達成して得られる輝石は、この世界には無くてはならないエネルギー源となっているのはご存知ですよね?』
小手調べでもしたいのか、ジニアは試すような口調で問いかけてくる。
「小さな子供でも知ってること聞いて、何になるってんだ」
その態度と小馬鹿にした発言に、カインはイラつきながら答えた。
『人間は一度便利さを覚えてしまうと、いくら不都合が生じるとしても、そこから逆戻りすることを心理的に拒みます。ここまで言えば、理解できますか?』
もったいぶった物言いに即座に答えを要求したくなったが、瞬間的に頭を巡った考えに、カインはハッとして目を見開いた。
「輝石を得るために魔霊種や星託が必要だから、誰もお前らの非道な実験を止めないってのか!?」
自分たちが他人を殺すための実験に利用されていると知っても、生活に欠かせない輝石を供給してくれる【観測者】たちに反旗を翻さない。ジニアは必ずそうなると、確信を持っているようだった。
『真実が広がれば、一部には退化を受け入れ許容する者、怒りを覚え私たちに反抗する者も現れるでしょう。しかし人間の根源は、より良く生きたいという欲求には抗えません。それを覆すことは不可能です』
全知全能の神が人間を見限るかのごときジニアの断言。可能性を信じられなくなった者の憂鬱そうな言葉に、カインは噛みついた。
「そんなの、やってみなくちゃわからねーだろ! 自分たちが他人を傷つける片棒を担がされてると知ればきっと……」
『私たちの世界に、人間がどれくらいいるか、わかりますか?』
人間の可能性を信じるカインに、まるで痺れを切らしたように、二導影から突如〝ミレア〟の声が、意味不明な質問を投げかけてきた。




