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第20話 土方(2)

「穴の意味もわかってないのに、探索する場所自体をぶっ壊してんじゃねーよ! 星託せいたくそのものが達成できなくなったら、飯も食えねーんだぞ!」


 岩石に下敷きになって見えない兄姉に向かい、カインは思いの丈をぶつける。

 家族を抹殺した弟の復讐劇にしか見えない光景におののく観衆のように、さらにガラガラと瓦礫が崩れる悲鳴が周囲に響いた。


「大体、穴が無いなら造ればいいってどんな発想だよ! 毎回、兄姉のぶっ飛んだ思考と暴走に巻き込まれる俺の身にもなれよ!」


 溜まっていた鬱憤を晴らすように、カインは大声を谷に反響させながら息巻く。

 切り立った岩壁だった谷は、放棄された砕石場かと見紛うほど、散乱した岩や石の山が築かれ、これから進もうとしていた道は平坦〝だった〟と過去形でしか語れなくなっていた。


「うふふふふふふふふふ」


 カインの懸命の訴えに応えるかのごとく、地の底から轟くような笑い声が聞こえ。


「うふふふふ。てぇやっ!」


 自身に乗っかっていた岩を蹴り上げ、腰に手を当てたオネエが青空を背に立ち上がった。


「まだまだ甘いわねカイン。穴が無ければ掘ればいい。食べる物が無ければ動物を狩ればいいのよっ」


 〝無いなら生み出せばいい〟と、新進気鋭の職人のごとく豪語するバルム。

 岩ばかりの谷道なのに、海の波しぶきが打ちつける岩壁に立っているかのような立ち振る舞いに、オネエの中に男気を感じた。


「おほほほほほほほほほ」


 それと同調するように、天高く昇る笑い声が聞こえたかと思うと、自身に乗っている岩なぞ無いかのように、ガラガラと体表に瓦礫を転がしながらリーシャも立ち上がった。


「常人にはたどり着かない発想と行動力があるからこそ、切り開ける道というものもありますわ。カインもまだまだ修行が足りませんわね」


 大人の体を完全に覆い隠せるほどの岩を、思いっきりぶつけられたにもかかわらず、怪我の一つも負っていない兄姉。

 二人にとっては巨大なぬいぐるみを当てるようなものだからと、カインもわかっていたからこその躊躇なき投石ならぬ投岩だったわけだが。


「結果が伴ってこそ経過に価値が出るんだよ。結果そのものを消滅させてたら意味ねーだろ」


 どちらも納得のいかない兄姉からの屁理屈に、カインは周囲の惨状を見ろと両手を広げた。


「細かいことをいちいち気にしていたら、素敵な紳士になれませんわよ」

「俺がなりてーのは紳士じゃなくて、まともに食っていける覚星者かくせいしゃだよ」


 まともな淑女ですらないリーシャに指摘され、体だけでなく、メンタルすら一ミリもヘコまない二人に何を言っても無駄だと、カインは溜め息を吐くしかなかった。


 カインは諦めムードで、大きめな岩を選んで瓦礫の斜面を登っていく。

 一番高くなっている地点までたどり着き周囲を見回すと、家を十軒ほど並べた範囲の岩壁は崩れ、ただの瓦礫の山と化し。

 谷道は塞がれ、覚星者かくせいしゃでもない人間が通るには困難な道になっていた。

 元々ここは資源もなく魔霊種レイスも出ることから、人が来ることはないので、そういう意味では心配はないのだが。


「目的の場所や物が瓦礫の下に埋もれてたら、元も子もねーぞ……」


 カインは最悪の展開に不安を抱きつつ、ここより先に二導影リシャドウが警告していた目的地があることを祈り、希望を捨てずに瓦礫を乗り越え。


「あらあらあらあらあら」


 バルムの漏らした奇妙な喜び声に、足を滑らしそうになった。


「なんだよ、変な声出すなよ」


 気色悪そうに目を細め眉間にシワを寄せるカインに、バルムは口元に手のひらを添えて楽しげに弟の顔を見つめた。


「結果、伴ってたわよ」

「は? どういう意味だよ?」


 理解できぬ兄からの一言に、何があったのか確認するために歩み寄ると、バルムは得意げに視線で告げた。


「なっ……あれは……」


 焦点を合わせた先、瓦礫の山の端の岩肌にポッカリと開いている穴に、カインは目を見開いて固まる。

 まさか本当に〝穴が無いなら造ればいい〟の発想と暴走で、二導影リシャドウが示していたであろう穴が見つかるとは、夢にも思っていなかった。


「ほーらみなさい。ちゃんと穴を見つけましたわ。これも日頃の行いですわね。おほほほほほほほっ」


 横まで来たリーシャが愉快痛快と大いに声を張り上げて笑う。

 岩肌に元々開いていたというより、岩壁を崩したことで中に隠れていた通路が露出した形のようだ。

 本来はどこかに入り口となる穴があったのだろうが、岩壁を破砕するという荒業で偶然掘り出されたと見られる。


二導影リシャドウもこんな形で見つけて欲しくなかったろうな……」


 もったいぶった物言いをしていた相手を思い、カインは苦い表情を浮かべる。

 順当に穴を見つける手順もあったろうが、今となってはそれを調べる必要性は消失した。

 手段は非難されても文句の言えないものだが、結果として成果を上げてしまったせいで、これ以上バルムとリーシャを責めることもできなくなった。

 すぐ横で鼻息荒く、したり顔をしている兄と姉の顔を見てカインは「ハァ……」と溜め息を吐くと、岩壁に開いた穴を目指して瓦礫の山を下り始めた。

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