表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/45

第17話 二導影(1)

 村を出て一時間走ってたどり着いた先。

 そこは左右を高い崖に囲まれた一本道の谷だった。


 無謀の谷──入り口付近までは草原が広がっているが、谷に一歩足を踏み入れた途端、草木もいっさい生えぬ、まるで生き物を拒んでいるかのような場所。


 この谷に来れば何があるのか。普段人の出入りがない地では、事前情報は一つも手に入らなかった。

 場所だけは判明したが、ここでお宝を探すのか、さらなる謎を解くのか。何もわからないまま、谷をやみくもに探索するしかない。


「無謀の谷ってそこそこ広いんだろ? 次の目的もわからず、魔霊種レイスがうろつく場所を歩くのは嫌だぞ」

「自分を鍛えるトレーニング場だと思えば、絶好の場所じゃないの」

「筋肉バカ……」


 フンフンと鼻を鳴らしながら腕を回すバルムに、カインは額に手のひらを当て頭を振る。

 数字が示す場所へ来れば、次の目的がわかるかもとカインは微かな期待を抱いていたが、谷の入口付近にそれらしいものは何も見当たらない。

 少なくとも中へ足を踏み入れて行かないと、物語は進展しないだろう。


「じゃあゴーストにいっぱい出てもらって、精神鍛えますわよ」

「うふふっ。こんな昼間にゴーストなんて出るわけないじゃないっ」


 夜の教会と違い、トラウマが目の前に出現するなんて有り得ないと、リーシャの皮肉にバルムは余裕の笑みで歩き出す。

 実際は、ゴースト系の魔霊種レイスは夜に現れやすいというだけで、昼間の太陽の下でも出現することはある。のだが、バルムの頭からはその知識は完全に抜け落ちているようだ。

 そんな兄の背中を追って、妹弟も揃って谷の入り口に歩を進め。


「……何かおかしいですわ」

「そ、そんな手には引っかからないわよっ」


 リーシャの不穏を告げる呟きに、バルムはビクンッと体を跳ねながら止まった。


「ん? 何かあったか?」


 姉の声にカインも立ち止まり、周囲をゆっくりと眺めてみる。

 リーシャが何を感じ取ったのか不明だが、気のせいだと放置すると後で大きな困難に繋がる可能性もある。

 カインはリーシャがなぜ止まったのか確認するために、具体的な内容を問おうとし。


「きゃあああああああああゴーストおおおおおおおお!!」


 バルムの鼓膜を劈く悲鳴に、両手で思わず耳を覆いそうになった。


「あいつは……」


 谷の奥、これから進もうとした先の地面の上に、いつの間にか佇んでいた黒い人影。

 見た目はゴーストに近いが、人間がそのまま影になったような姿は、教会で戦った魔霊種レイスとは異なっていた。


「ほら、メンタルを鍛える絶好の機会ですわよ」 


 今回は暴走させまいと、リーシャが必死に逃げようとするバルムの片腕を掴んで離さない。

 役に立たない兄と手の離せない姉に代わり、人影を捕えるためカインが影で相手を縛り上げ──ようとするが、影は相手の体に触れることなくすり抜けた。


「違う、ゴーストじゃない! こいつ……二導影リシャドウか!?」


 一般的に見るゴースト系の魔霊種レイスと違い、おぼろげで今にも消えそうな輪郭をした黒い人影は、気配すら一切感じさせない異質な雰囲気を漂わせている。

 相手の様子とカインの言葉に、ゴーストではないと理解したのか、バルムも逃げようとするのをやめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ