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第11話 調査(1)

「へぇー、ステンドグラスって綺麗なんだな」


 やや西に傾きかけた日差しが差し込む室内は、陽の光を受けたステンドグラスの色と混ざり、カラフルな明かりを注いでいる。

 扉のすぐ前は立ち見客を入れるスペースのようで広く空いており、普段訪れる村人の人数に合わせてか、木の長椅子は六脚しかない。


 代わりに室内は祭事の折には村人全員が入れそうなほどの広さがあり、重厚な木の祭壇の後ろには、五穀豊穣を司ると言われている艶やかな姿の女神と、おそらく村を興したとされる質素な服の男の像が壁に飾られていた。


「ふっ、ステンドグラスも女神像も、私の美貌には敵わないですわねっ」

「男の像もまだまだ鍛え方が足らないわねっ」

「美術品と張り合ってるんじゃねーよ……」


 見た目ならいくらでも美しくも力強くもできる美術品と自らを比べる兄姉に、カインは肩を落とし脱力する。


 弟という立場から見ても、リーシャは誰もが振り返るような絶世の美女だし、バルムは他を寄せ付けないほどのマッチョである。

 しかしファッションセンスが絶望的な女王様と、イケメンを見つけたら欲望を抑え切れないオネエという点が、他者からの評価を大きく歪めていた。


「うーん、特におかしな所は見当たらないな」


 祭壇、長椅子、壁、柱。三人で教会内をくまなく探索してみたが、これといって怪しい箇所はなかった。

 村長であるジニアとミレアだけでなく、村人も腕輪捜索はしているだろう。それでも見つけられなかったということは、よほど見つけにくい所に隠されているのか、何か特別な手順がないと開かないような場所にあるのか。


「うふふっ。ゴーストがいないなら何も問題ないわねっ」

「さっきまで震えてたくせに、強気になってんじゃねーよ。ってか、目的はゴーストじゃなくて腕輪だっての」


 片手で持ち上げていた長椅子を下ろしながら喜ぶバルムの背中に、カインの呆れ声が虚しく響く。


「まだ捜しますの? もうすぐ夜になりますわよ」


 長い時間捜索したからか、うんざりした声音でリーシャが〝もう帰りましょう〟と告げる。

 陽はすでに半分以上沈み、あと三十分も経たないうちに周囲も教会内も暗くなるだろう。


「よ、夜はやめましょうっ! 夜には教会も寝るでしょうし邪魔しちゃ悪いわよっ!」

「夜に寝る建物ってなんだよ……」


 動揺して言語能力すら失うバルムを、捜索の疲れも出ているカインはテキトーに扱う。

 夜はゴースト系の魔霊種レイスが出没しやすくなる時間だ。ましてや墓地が目の前にある教会。村よりゴーストが出やすいのは自明の理だろう。バルムが嫌がるのも納得できた。


「まぁ、夜は俺も気が進まないなぁ」


 カインはバルムと違ってゴーストを一切恐れない。だが、夜には必ず〝アレ〟が訪れる。

 周囲がある程度見えるレベルの明かりを点ければ問題ない。しかしどちらにせよ、暗いと物を探すには不便なので、普通なら撤収するところだが。


「でも、なんかもうちょっとで見つかりそうな気もするんだよなぁ」


 何かを見落としている感覚が妙に引っかかり、カインは素直に宿に向かう気になれなかった。


「カインの勘はよく当たりますし、もう少しだけ捜してみますわよ」


 弟の直感を疑うことなく信じ、リーシャはどこか見落としがないかと捜索を再開する。

 ついさきほどまで飽きた様子だったのに、もう少しで見つかるかもという根拠のないカインの一言に、ゴールは近いとリーシャは信じ切っている。

 思考や行動はすぐ暴走するのに、弟には全幅の信頼を寄せるリーシャに、カインの頬は自然と緩んだ。


「そうよ! 二人だけでゴースト退治すればいいわ! 私は街でイケメン探しの星託せいたくをしに行くから!」

「んな星託せいたくねーよ。ゴーストが出るって話もしてねーし。俺も頑張るからもうちょっと捜すぞ」

「おほほっ。この際、ゴーストに出てきて貰って、バルムのゴースト嫌いを克服しますわよ」


 教会で夜を迎えるのがトコトン嫌なのか、一人だけ離脱しようと後ずさるバルム。

 カインとリーシャはそれを逃さぬと、片方ずつバルムの腕を掴んで引きずり戻した。


「ま、待って! 筋肉を通じて話し合えばわかるわ!」


 訳の分からないことを言いながら拘束を振りほどき、バルムは木の祭壇を背後にゆっくりと下がっていく。


「筋肉で会話なんてできるのはお前だけだよ」

「さぁ、観念するといいですわ」


 カインとリーシャが一歩迫るごとに、頭をフルフルと横に振りながらバルムが一歩下がる。

 いつの間にか目的が腕輪を捜すことから、バルムにトラウマを克服させることへシフトチェンジしているのに気づかず。妹弟たちにオネエは追い詰められ、祭壇が背に触れ後ろへ下がれなくなり。


「筋肉がダメなら拳でも構わな──あぃっ!?」


 少しでも遠ざかろうと、なおも背でグイグイ押すと祭壇がズズッと動き、筋肉に覆われた肉体はしたたかに床を打った。

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