プロローグ
初めまして。
2作目ですが、こうして形になったのは初めての作品です。
どうぞよろしくお願いします。
精霊は願いを叶えるために生まれる。
強い願いが精霊を生むのか。
精霊がいたから人は願うのか。
どちらが先かは分からないが、少なくとも錬金術師は後者で。人の身で願いを叶えようと日々精霊の真似事をする。
その副産物として国は豊かになり、錬金術は生活の一部として溶け込んだ。
医療、食品、工作、様々な分野で活躍している錬金術師。中でも特に際立った才を持つものはは宮廷に召し抱えられその技量は手厚く保護される。
そんな1流の錬金術師達をして尊敬と畏怖を持って呼ぶ称号が『偉大な錬金術師』であり。
その弟子、見習い錬金術師セルヴァンは師の書き置きと1冊の赤革の本を前に固まっていた。
✝
――ヴァンの叶えたい願いって何?
セルヴァンは動悸で胸がハチ裂けそうだった。
赤革の本を押し付けうるさい心臓を黙らせながら、大人がすっぽり収まるほどの大釜にありったけの宝石をどぼどぼ落とし溶かしていく。
黄、青、赤、緑。色とりどりな宝石はどろりとした溶液になるが、いくらかき混ぜても各々が自己主張するように光を放つ。
純粋な、まだ叶える願いの定まっていない。ぼんやり白く漂う微小な精霊の力を借り釜に願いを込める。
マナが溶け合うイメージ。
何度も見た師の錬金術と頭の中で照らし合わせながら作業を進めていく。
属性を混ぜ合わせ高純度のマナを造り出すのは錬金術師の基本だが、ここまで濃いものを扱うのはセルヴァンは初めてだった。
勿論普通は属性を揃えたりバランスを考えなければならないのだが、かき集めた宝石で想定のマナ量にギリギリ届く程になる。やらない手はなかった。
しかし失敗すればマナ同士が反発し見合った規模の爆発。最悪が頭をよぎる。
息が苦しい、腕が震える、汗が冷たい。でもこれ以上無いほど頭は冴えていた。
――私の願い?ヴァンの願いを叶えることかな
記憶の中の小さな精霊は赤革の本に抱き付いてはにかんでいる。
その本は今腕の中にある。師に隠されていたのは、返したらきっとすぐにでも彼女の器を造ることを知っていたから。
一緒にあった書き置きには「お前はもう一人前だ、これを返そう」とだけ。ならそういう事だろう
錬金術は便利であるが危険だ。一子相伝が一般的な考えである中、弟子にしてくれた師には頭が下がる。
「もう一度会いたい」
呟いた願いに反応するように大釜が白い光を溢し、見る間に全体が白に染まる。
圧倒的な純度のマナに息を呑む。精霊と同等の力の塊が目の前にあった。
本の表紙を撫で、大釜に入れる。
強い願い、精霊と同等のマナ、彼女の依代だった本。
かつて精霊と契約していた自分だからできること。
錬金術の集大成、人造精霊の錬金は偉大な錬金術師の教えと一人の精霊の契約者で形になった。
瞬間、目を焼く程の輝きと熱を孕んだ爆発!
反射的に顔を覆ったセルヴァンを熱と衝撃が襲い床に叩きつける。
「ぐっ!」
一瞬の暗転。至近距離の爆発で無事なのは師から貰ったローブと大釜の頑丈さのお陰だろう。が、後頭部が酷く痛む。出血はしていないようだが……。
一時的なショックから回復して目に入ったのは無惨に荒れた部屋と、散乱している大釜と思わしき破片。倒れた人影。
急いで人影に走り寄り、立ち尽くす。
白銀のような長い髪、小さな顔、緩やかな曲線を描く肢体。
女の子が裸で横たわっていることに動揺して、しかし膝から崩れ落ちる。
……隠してあげないと、そう思っても体に力が入らず。グルグル頭を回る疑問が口から出る。
「君は、誰……?」
荒れた工房の中、少女を見つめたまま座り込む。
読んでいただきありがとうございました。
ぜひ感想をお願いします。
今後の参考にさせていただきます。