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第0-2話:首都たる王城

 オレが防衛しているこの城に固有名詞は無い。一般的には普通名詞である「王城」という単語が使われるだけである。何しろ、この国に他に城を持つ「王」はいないのであるから、それも当然であろう。一応、オレの他に「王」と名乗る者は存在するのだが、それらはみな名ばかりのものであり、他に何ら権力も実力も持ち合わせていない。無論、そのような輩が「城」を持つ道理など、その必要性の面においても実現可能性の面においてもあり得ないであろう。また、昨年の正月元旦、オレは全国に「廃城令」を布告した。つまりこの国には現在、「王城」以外の「城」も存在しないのである。従って「王城」と称するの以外に、ことさらこの城に固有名詞をつける必要などあるまいし、ネーミングに頭を悩ませるくらいであれば、オレには他に考えるべきことが山ほどあるのだ。


「おまえさま……先の恐ろしい音は何事じゃ? 空も晴れておるというのに雷様とは、何か不吉なことでも」

 オレが天守閣4階の居室フロアに降りると、小鳥のさえずりにも似た舌足らずの声が飛んできた。

「はっはっはっ、恐ろしかったか、依音(いと)?」

 そう言ってオレは、オレの肩にも届かない高さにある幼妻の、その小さくて可愛らしい頭を撫でてやる。そう、オレは23にして既に妻帯者であり、その妻は齢15。21世紀の基準で考えればオレの嫁は、小学生の時にうちに来たことになる。無論、これは政略結婚だ。本人には可哀そうなことだが、まぁその分、オレはこの娘を可愛がってやっているつもりではある。

「笑いごとではないのじゃ、おまえさま。おまえさまに何かあったのではないか、と妾は……」

 依音は依音なりにオレを案じてくれていたらしい。彼女はそう、8歳も年が離れてはいるが、21世紀から転生したオレにとってはこの世で唯一の家族なのだ。尤も、嫁というよりは娘か、せいぜいのところ妹のような存在ではあるのだが……


「心配をかけたようだが、大丈夫だ。なぁに、オレを『魔王』などと呼ぶ輩が攻めてきたゆえ、少しこらしめてやったまでよ。オレの魔道具『ガトリング』でな」

 そう、依音にとってもオレは、この武家の世界にあっては唯一の家族なのである。若干11歳で親元から離れ、逢ったことも無い男の元に腰入りすることを想像してみて欲しい。どれほど心細かったことであろうか。この政略結婚はオレの都合で決めたようなものであるから、まぁせいぜい依音のことは大切にしてやらなくてはならないだろう。政略結婚は16世紀では当たり前の慣習ではあるが、オレには21世紀の人権感覚が備わっているのだから。とりあえず鬢除ぎ(びんそぎ)式まであと1年、それまでは、依音はオレの娘のようなものである。依音が、オレが唯一「オレ」という一人称を使う相手である所以だ。


 この天守閣最上階は測敵所兼戦闘指揮所になっており、戦闘時にはオレや参謀総長をはじめとする上級司令部はここに詰めることになっている。以下、5階は参謀本部、4階はオレと依音の居住空間、3階は近衛兵の詰所となっている。そして、中世戦国時代の城郭とオレの「王城」の用途が決定的に異なるのは、その2階部分と1階部分であろう。それぞれ、オレの研究フロアと機械室として使われているのだが、そのどちらもが、16世紀にあってはオーバーテクノロジーに分類されるであろう物質やら器具やら装置やら機械やらで埋め尽くされている。


 この「王城」は、この国最大の淡水湖の東岸に築城された平山城である。標高200m、比高差100mの小高い丘の山頂付近に、今オレがいる5層6階の天守閣を揚げている。この「王城山」は西、北、北東の3方向で湖面と接しているいわば半島のような形状であり、三方を天然の堀で守られた要塞と言えば分かりやすいであろう。


 本丸にはオレの居所兼戦闘指揮所である天守閣の他に「本丸御殿」と呼ぶ建物があるが、これは普段は利用していない。これは貴人の来客時に使ういわばゲストハウスのような位置づけである。そしてこの天守閣と本丸御殿、それに付随する各種倉庫群-食料庫や武器弾薬庫など-を、石垣を張り巡らせて外敵から防備いているのが本丸という訳だ。


 本丸に存在する建物群には他にも一風変わったものがある。すなわち魔道具『ガトリング』に使用する実包等の生産設備-オレは工房と呼んでいる-がそれだ。工房まで本丸郭内に置く必要があるのか、と疑問に思われるかもしれないが無論、このオーバーテクノロジーを外部流出させないことが目的である。工房はオレにとっての戦略的最重要拠点なのだ。と同時に本丸は、職人達を閉じ込めておく牢獄でもある。「牢獄」とは比喩表現であって、職人達には高度の自由は与えてはいるが、しかし外出には厳しい制限がかけられているし、無論、外出者には尾行も付けていることは言うまでもない。金銭で釣る、地位や名誉を与える、時には家族を脅す、古今東西様々な方法で技術者(エンジニア)達がスパイの標的とされてきたことを思えば当然であろう。


 さて、本丸の外郭にあってその全域をカバーしているのが二の丸だ。二の丸には主な政庁が設置されており、平時にはオレも、二の丸にある通称「二の丸御殿」で政務を執っている。政務というのは妙に聞こえるかもしれないが、オレはこの国の王として、21世紀で言うところの三権-立法・行政・司法-全てに君臨する存在としてこの国を治めているのだ。つまりオレは日々、法を制定し、行政を監督した上で、訴訟を捌いているという訳だ。これはこれで結構忙しい上に、空いた時間を研究開発に使っているのだから、本当は戦争などしている時間すらも惜しい。そんな時間があれば、オレはオレの幼妻を愛でてやるべきであろう。正直、早くこんな防衛戦(タワーディフェンス)は終わりにしたい。


 そう言えば過去には、「親政」などと称して全権を握りながら、彼の処理能力を超えたがために諸事混乱を来した、などという不名誉な事績を遺した皇帝があったと聞くが、無論そのような轍をオレが踏むはずがない。「勇磨王」たるオレの統治の元、オレは三権それぞれの長にその職権を移譲している。だから二の丸には、これら三権の長以下が政務を取るための政庁も複数設置されている。つまるところ「王城」とは21世紀風に言えば、この国の首都(キャピタルシティ)ということになる。この国はオレの統治の元で急速に中央集権国家としてその体制を整えつつあるが、その中心となるのがこの二の丸なのだ。もし二の丸の政庁群が、21世紀の俺達が想像するような庁舎群と異なることがあるとすれば、それは、戦時には郭内城郭としても機能するような石垣や櫓を備えていることくらいであろうか。


 そして、王城山南麓を東西に走りその両端で湖水と接続する全長約3kmの石垣列から内側が三の丸である。三の丸には城下町も含むため、「王城」とはいわゆる城塞都市でもある。山麓から山腹にかけては家臣達の屋敷や官舎等も立ち並び、例えば参謀総長の屋敷も三の丸に存在する。無論、戦時にはこれらの建物群も城郭として機能するよう設計されていることは言うまでもない。


 三の丸は3つの堀でその外周を守られており、それぞれ内堀、空堀、外堀と呼んでいる。内堀と外堀は幅15mあり、湖水と接続されている。また空堀は幅深さ共に10mあり、その堀底には逆茂木を植えてある。一方、空堀と内堀、外堀の間はそれぞれ幅10mあり、堀を作る際に出た土砂を使ってここに土塁を築いた。つまり三の丸を攻略するためには外堀を泳いで渡り、土塁を上った後で空堀を下って後に再度土塁を渡り、更に内堀を泳いで渡ってようやく石垣にたどり着く、という訳である。この間約50m。16世紀の火縄銃では有効射程に届かないが、21世紀の『ガトリング』であれば敵をアウトレンジできるように設計してある。


 この三の丸南正面に構えた王手門が、王城で唯一外部に開かれた門である。この門からは幅50mの、両脇を石垣で守護された大手橋が3重堀の上に架けられている。つまりこの王手橋こそが敵の唯一の攻め口であり、守備側からみれば防衛の要である。そこでこの王手橋両脇には、半円形にせり出した半径10mの出丸が設けられている。大手橋から侵攻する敵は、この出丸から集中砲火を喰らうことであろう。またこのような出丸は三の丸石垣の全域に亘って約300m毎、合計12箇所に設置されている。仮に堀を渡ってくる敵がいれば、これも三方向からの十字射撃(クロスファイア)にとって恰好の標的(ターゲット)となることであろう。


「おまえさま、『ガトリン』とは何であろう?」

 ようやく少し安堵したものであろうか。オレの可愛い嫁(仮)が舌足らずな口で問う。どうやら彼女には「グ」が言いにくいようであるが、依音が発音するとガトリング砲ですらも何やらゆるキャラの名前のようになってしまって形無しである。いっそ「ガトりん」にでも改名しようかと思った直後に参謀総長の白髪の混じった髭面を思い出して我に返ったオレは、うちの娘の小さい頭を撫でながら答えた。

「ガトリングは……簡単に言えば種子島を6丁束ねて、連続で発射するようなものだな」


 この、16世紀の中学生に、果たして今の説明は通じたのであろうか? そう思って依音の顔を覗き込むと、彼女の瞳の片方には困惑が、もう片方には感心の色が映っているようであった。

「種子島とは、あないな音のするものであったか……」

 依音にとって、ここは生まれて初めての戦場であった。銃声どころか兵どもの発する怒声も殺気も、彼女には初めて耳にし感じるものであったろう。

「あぁ、しかも48基のガトリングによる斉射だったからな……」

 合計12か所の出丸には各4基のガトリングが接続されている。依音にとって初めて聞く48基のガトリング一斉掃射は、同時にこの時代の全ての人間にとっても初めて経験するものであったろう。


「まぁ、オレが『魔王』などと呼ばれるのも道理ってことだな……」

「おまえさまは『魔王』などではない。おまえさまは妾の……おまえさまは妾のおまえさまであろう?」

 まぁ、何を言ってるのかよく分からないが、言いたいことは判らないでもない。仮に世界中全ての者がオレの敵に廻ったとしても、この娘だけはオレの味方でいてくれるのであろう。だから、オレは依音を愛しく思うし、大切にしたいと思っているのだが……

「まぁ……そうだな……」

 あるいは、夫婦の会話というのはそんな曖昧なものでも通じるものであろうか。もう一度依音の顔を覗き込むと、そこには満面の笑みが輝いていた。

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