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ModernWitchProtocol  作者: 沢ワ
1章:InThisLife
8/21

8話:少し息抜きでも

 様々な訓練用魔道具が自宅に並んでいる。

 リサの部屋は『女の子』してる部屋だ。ぬいぐるみが置いてあり、クローゼットもあるしドレッサーもある。

 …………クローゼットの中は基本的に同じようなモノクロ上下しかなかったり、ぬいぐるみの横には詳しくなければ同じ種類にしかみえないプラモデルが何十体も並んでいたり、おしゃれ着が基本的に制服っぽい意匠だったりするのは数少ない女友達には知られていることである。

 そんなぬいぐるみの横には件の訓練用魔道具。ぬいぐるみに並んでも違和感のないようなラインナップだが、内部はアレクシアいわく相当に高度らしい。

「で〜、リサ〜? 何周すんのそれ」

「5周」

「大変だねぇ〜」

「もうした」

「早くない〜?」

 今日は土曜日、休日の伊織はこうしてリサの部屋に入り浸ることが多い。こうすれば宿題やったのと母親に注意されずに済むからだ………早くと宿題やったほうがいいよ、というのはリサも同意見だが。ちなみに伊織はパジャマのままこの部屋まで来ている。藍は本日仕事で不在だが、仮に彼女がいても注意はしない、いつもどおりのことだからだ。

「慣れてくると意外と簡単なんだよ。適当に渡してみて」

「あーい」

 伊織は個人的に気になった『羊毛に電球が突き刺さったモコモコ羊』の魔導具を渡してみた。

 この羊は中級下位コースらしい、伊織はそれを知らないで渡したが、リサがそれを膝に乗せてから数秒後にメェメェと鳴き始めた。

「この子は中級コースの子」

「見たところ変わんないけど〜………何が違うのん?」

「量だけじゃなくて、速度も見るんだって」

「速度〜?」

「うん」

 リサは分厚い本とよくわからない形状の虫眼鏡的なものを取り出した。

「なにそれ〜」

「大学の教科書だって」

 明らかに高校の教科書と分厚さが違う。辞典ほどではないが、すくなくとも辞典を半分にしたくらいの厚さと下手なカバンに収まらない縦横幅をしている。

 リサは片手に持った大きな虫眼鏡に取り付けられたダイヤルを回す。これはアレクシアから教科書と一緒にもらった魔道具、それも電池のように魔素結晶をチャージするタイプでリサの魔素を勝手に微量ずつ吸収して動力にしているらしい。

「この虫眼鏡は翻訳ルーペ、かざすと…………」

 よくわからない文字が書かれた表紙、それがレンズ越しに読めるようになった。

「ほら、読める」

「理解できる〜?」

「難しい」

「あ、でもこの部分じゃなーい? 魔素流速っていうんだ〜?」

 流石は国内有数の頭脳。まるっきりわからない分野の大学の教科書すらすぐに着眼点を探し当てている。

「でもこれさぁ、見辛くない?」

「日本語訳の魔法の教科書なんてないよ」

「だよねぇ〜」

「それで」

 リサの声が弾んでいる。なにか気分転換でも見つけた様子だ。

「どったの」

「鬼姫モールに、ユートピアワークショップ出店したんだって。見に行こう?」

 株式会社UtopiaWorkshopは様々な製品を販売する企業だ。基本的にオモチャ、ゲームも販売していて、自社ブランドのロボットアニメも製作中(リサの部屋にあるプラモはその作品だ)。人気アイドル『神無月ミコ』を広告塔としているだけあり知名度も高いし人気も高い。その支店がようやく江戸川区に来たのだという。某コーヒーチェーンの出店後回しといい、江戸川区は寂れる呪いでもかけられているのだろうか………。

「だから着替えて」

「そういうとこやっぱり藍さんに似てるねぇ〜」

 有無を言わさない感じが特に。そう言いつつ持ってきたカバンから外出で着るにふさわしい服を引っこ抜く伊織。何だかんだ休みの日はリサと買い物することが多いので、今日も予想はしていた。

「予算は〜?」

「4万円」

「何買うの〜?」

「わかんない。でも、面白いもの買いたい」

「無計画?」

「買うの」

 一先ず向かおう。変な音がしないかを確認しつつ、施錠もしっかりとして外へ出る。身長差故に歩幅は合わないのでのんびりと歩く感じである。

 藤原家から駅前まではだいたい15分ほど。それまでの間は部活動するという話をし続けた。

 特に伊織は怪我で入院していたのでまだ仮入部は済ませていない。

「ゲーム部とかなかった〜?」

「あったと思う」

「プログラミング部は〜?」

「なかったよ」

「じゃあ帰宅部でいっかぁ〜」

 休み明けに一悶着ありそうだと思いつつも、鬼姫モールへ到着。

 ここ鬼姫モールは大型のショッピングモールだ。田舎にあるような広大な敷地を取るようなタイプなので、何故東京23区内の駅前にあるかは不明だ。一説には交通の便がいいからとその系列の会社が出店してきたとかなんとか、既に元の会社は撤退し他の管理会社がここを運営している、負の遺産がここに残っているわけである。ちなみに昔はここに町工場が立ち並ぶ区画があったらしい。

「何階〜?」

「3階。前に変なグッズ売ってるお店あった場所」

「にゃ〜るほど〜」

 じゃあフードコートも近いねぇ、みたいに話しながらエスカレーターへ。

 やはりリサは目を惹く。普通に美少女なのはあるが、服装がショボいのだ。紳士服量販店で売られている女性用ワイシャツと暗めの色彩のジーンズのみ。そのシンプルな出で立ちが目を惹く。その後ろを歩く寝癖を直していないオーバーオールの小学生の女の子(伊織)もそのせいで目立つ。

 ナンパ男たちが尻込みする中、鬼姫モール内を移動する二人。

「あーねぇ〜リサ〜。帰りゲーセン寄ろうよゲーセン〜」

「うん。久々に伊織ちゃんの格ゲー見たい」

「久々ってほどだっけ?」

 ひとまず3階に到着。エスカレーターを降りてしばらく歩いたところにあるのがUtopiaWorkshop鬼姫町支店。やはり多くの人で賑わっていて、

「やっほ~。私服リサちゃんは新鮮かも」

 鮎河もいた。丁度買い物を済ませたのか買い物袋を持っている。

「こんにちは。何買ったの」

「UWは化粧品もいいんだよねー。今まで通販だったけど、これからは気軽に買えるよ」

 そんな会話を短くして、彼女は家族を待たせているらしく去って行った。

「なんというか〜今どきだよねぇ〜」

「伊織ちゃん、化粧水とか使ってないの?」

「めんどいし〜」

 まぁ、寝癖を直さない程度には女子力が欠如しているのが伊織だ。リサは使っているが、そこまでこだわりはない。

 それにしても、大繁盛だ。おそらくアルバイトの若い男女が忙しそうにしている。既に『売り切れ』の札は各所にあり、リサが集めているプラモデルシリーズを抱える笑顔の少年もいる。

 こりゃゆっくり見てられないねぇ、とつぶやく伊織に同意しつつも入店。通販サイトでは知らなかったが、お菓子も売っているみたいだ。

「あ、おいしそう」

「カボチャクッキー?」

 ハロウィンようなカボチャランタンの形をしたクッキーとか、

「カラフル」

「合成着色料使ってないのが逆に不安だねぇ〜これ………」

 棒付きキャンディとか、

「あ、これは面白そうかも」

「知育菓子系かぁ〜」

 まぁ色々だ。

 リサは日持ちするカボチャクッキーをカゴに入れ、伊織は知育菓子『美味しいスライム!』を手に取った。

 そしておもちゃコーナーを見て回り、書籍コーナーへ。

 リサが足を止めた、伊織も止まる、そしてリサの顔を見て察した。

「これ買う」

「あ〜やっぱし?」

 表情を見て察しただけで、内容はわからない。リサが視線を向ける先にある書籍は、『闇属性魔法学基礎』という現在自宅にあるエボニアの魔法の教科書を思わせる大きさの書籍だ。

「ホンモノ持ってるのに買う必要ある〜?」

「ホンモノ持ってるからこそ」

「ん〜、でも結構高いよ〜?」

「全部買う」

 全部。それが示す言葉は書籍コーナーに置いてある『暗黒魔法学校の教科書シリーズ』というやけに凝った書籍群のことだろう。『基礎』から始まり『応用』、魔法薬学とか魔法生物学とか魔道具魔法技術学など様々な種類がある。

 こういうときリサは思い切りが良いのだ。服にも無頓着であるためか、お小遣いはためてこういうときでないとほとんど使わない。

「重さ………は言っても無駄だから言わないけどさぁ〜、場所取るよぉ〜?」

「買うの」

 そんなわけでかごの中に計3万円近い分厚い書籍系10冊を入れるリサ。本日のお買い物は早くも終了みたいだった。

 お会計を済ませる、やはりシリーズコンプリートするような客は初めてなのでぎょっとする店員。大きめの袋にそれらを入れて運ぶ。

「そういやリサ〜、怪我は大丈夫なの〜?」

「うん。アレクシアさんに治してもらったから」

「じゃあ重いもの持っても平気な感じ〜?」

「うん」

「ん、良かったねぇ〜」

 再びUWを見て回るが、見ているだけでも楽しくなるお店は大歓迎だ。本当に色々なものが売っている………書籍コーナー以外だとおもちゃ売り場が充実しているし、最近話題のUW開発のゲームハード『CogGear』も直売している。件の化粧品売り場にも入るがこちらも充実、伊織は無頓着だがリサはそうでもない。今度買ってみようかなぁなんて思いながら店を後にした。

「フードコート、混んでないといいねぇ」

「まだ11時半だし」

 早起きなリサはもうお昼の気分だ。ひとまず席を確保して…………という段階で背後に気配。

 流石に最近色々ありすぎて警戒心が高くなっている伊織が咄嗟に振り向いたが、そこにいたのは知り合いだ。

 というか、

「よっ、今から飯?」

「あれ〜、紅稀に梓じゃん」

「こんにちは、やはり知り合いによく会いますね」

 紅稀と梓だ。当然ながら私服、紅稀はその長い脚を見せつけるようなホットパンツとカジュアルなジャケットの組み合わせ、梓は清楚なワンピースだ。

「二人は買い物?」

「まぁな。適当にふらついてたら梓見つけてさ」

「服選びを手伝っていただいたのですが………」

 この服も選んでもらいました、と梓は今着ている服を指差す。

「私服ほとんど持ってないんだってさ。制服着て来てたからビビったぜ」

「中学の時は外出時も制服を着るのが校則でしたので………」

 流石はお嬢様学校卒業生。確かにここ鬼姫町の一つ先の駅にある私立中学の近辺にはその私立中学の制服を着た女子が沢山いるという話は有名だ。

「お嬢様学校も大変だねぇ〜」

「おそらく行動を制限するためだったのでしょう。古い校則ですし……仕方がない側面もありますが」

 そんなふうに言う梓。昔なら服装なんて気にしなかったのに………と考えた。表情は柔らかい、入学当初の堅物な印象は結構薄れている。

「服、選んだんだ」

「紅稀さんがいて助かりました」

「てかリサも飾り気ねぇな」

「ねぇ〜私はぁ〜?」

「おこちゃま」

 紅稀が荷物番をしてくれるという。確かにこの近辺でヤベー奴という情報が出回っている彼女をどうにかしようとする輩はいない。注文したい商品をメモに書いて渡す………全体的に高カロリーだ。

「ギガバーガーにLサイズポテトにLサイズドリンク、ナゲット1ダース。アメリカンだねぇ〜」

「うっせ!」

「リサはそれ以上食べるけど」

「これにチーズバーガーつけるの」

「私はそんなに食べられませんね………」

 同じハンバーガーショップで注文。リサと紅稀はすごい量だ、伊織は全部Sサイズでチーズバーガー、そして梓は

「ベジタリアンなのぉ〜?」

「いえ………ただ気になってですね」

 ベジタブルバーガー、ハンバーグの代わりにハッシュドポテトが挟まっている野菜オンリーバーガーである。

「今日解散しようと思ってたんだけどさ。どうする? どっか行く?」

「すみません………私、2時頃から習い事のピアノがありまして」

「んじゃ解散。ピアノかー、お嬢様感半端ねぇ………」

「一番続いている習い事ですね。ヴァイオリンや習字をしていたこともありましたが………」

「あ、どんな感じなのぉ〜?」

 梓に質問しながら会話は進む。

 今日はトラブルもなく、平和に終わりそうだと感じた。


 帰宅。そこまで遅くない時間だ。

「伊織ちゃんも読んでみる?」

「え、いいの〜?」

 紅茶を飲みながら買ってきた本でも読もうか、という話になる。

 一冊目はやはり『基礎』だろうと思いながらも本を開く。

 なんというか、文字がびっしりである。図解もあるようだがメインは文字だ。

「すげぇ、まるで本物の教科書みたいだねぇ〜」

「あまり話題になってないから、これのせいかも………」

 教科書を娯楽として読むのはほとんどいないだろう。とはいえこの調子で何百ページかつ10冊埋められているなら本当に教科書みたいな具合だろう。

 とりあえず出だしを読んで…………リサは首を傾げた。

「どったの?」

「どっかで読んだことある」

 決してわからないわけではない。

「ん〜、ネットでサンプルとか転がってたとか?」

「違う………でも、何だろう。最近………」

 そこまで言ってリサは立ち上がった。自室へ急ぎ、そして一冊の本を持ってくる。

 その本は本物の魔法の教科書、UWで販売されているものとは違い本当の魔女から譲り受けたものである。

 翻訳ルーペで確認しつつ、やっぱりと思う。

「全く同じってわけじゃないけど、同じだ」

「えーまじ〜?」

 伊織も確認。これでいくつかの用語があっているだけなら疑問には思わないが………、

「マジだ。リサ、索引みせて」

「ん」

 一番最後につけられた索引を確認する。流石に日本語訳されているだけあって五十音順ではあるが、

「ざっと確認しただけでも、ほぼ全部同じだねぇ」

「ほぼ?」

「なんかねぇ、細かい翻訳が違うっぽい。例えばエボニアのやつだと魔素流速って表現されているのが魔素流動速度ってなってるくらい」

「本当だ」

 なんじゃらほい、二人は首を傾げる。こういうときに詳しい人がいればいいのだが………あいにくアレクシアたちの連絡先を知らない二人。どうしようかな、と考えていたところ鍵の開く音。

 あれ、と思ったが入ってきたのは。

「藍さん。おかえりなさい、早かったね」

「おかえりです〜」

 藤原藍。彼女はスーツのジャケットを脱ぎながらリビングの椅子に腰掛けた。

「ただいま。予想以上に早く片付いたのよ。お昼は食べたのかしら?」

「うん、さっきまで伊織ちゃんとお出かけしてた」

「そのやけに分厚い本はソレね」

 そういえば藍の本来の仕事は闇属性魔法関係だったな、と思ってリサは試しに見せてみた。

「藍さん、この本なんだけど」

「日本語訳の魔法の教科書…………そういえばこんなものもあったわね。大丈夫よ、危険性はないわ」

 予想の斜め上の反応だ。危険性? 何があるというのだろうか。

「………あ、忘れて」

「藍さん」

「……………わかったわよ、もう」

 どうもこの教科書、本来なら藍の仕事柄取締対象として扱われるべき物品らしい。ただこの書籍が『魔法を取り扱う創作作品』として販売されている性質と、闇属性魔法を使える地球人類が地球上に2桁いれば多い方という性質が合わさり、そこまで深刻に捉えていない様子だ。

「内容は本物の魔法?」

「内容は保証するわ。販売組織にも思い当たる節があるし…………とにかく大丈夫よ。今後はそれを勉強に使うといいかもしれない」

 全巻買ったの? と物珍しそうに書籍の山を眺める藍だったが、一先ずは着替えようということになった。

「ま、いいわ。とりあえず保留。何か疑問点があれば言って頂戴。あと………そうね」

 振り向く、

「リサ、伊織。昨日土手にいた子たちの都合が合えば呼んでほしいわ」

「え、なんかあるんですか〜?」

「夕飯、焼肉にでもしようかと」

 そんなわけで本日夕食は焼肉に決定した。

 紅稀も梓もOKとのことなので…………今夜は楽しくなりそうだった。


 折角だし子どもたちだけで楽しんでこいと言われた紅稀。

 忙しい両親から、親しい友人ができているらしきことを喜ばれつつ『あまり遅くならないように』と言われた梓。

 伊織は、彼女の母が藍を年下の親戚のように感じていることもあって快く承諾。

「なんで焼肉なんスか?」

「私が好きだからよ」

「あの………」

「お金の心配はしなくてもいいわよ、私が全額出すから」

 そんなわけで藍の運転で駅前にある焼肉屋へ。食べ放題コースを人数分である、ちなみに酒は入らない、未成年者と運転手なのだから。

「あれ、食べ放題コースなんですか?」

「まあお喋りしながらだし私もリサも食べ過ぎないでしょう」

 過去に一軒、食べ放題コースで食べすぎたせいで出禁となった藤原親子は二人して目をそらす。

 それを間近で見ていた伊織は笑いながら気をつけないとですねぇ〜、と言った。

「あ、アタシもあるわ………気ぃ付けないと」

「皆さんは随分と食べるんですね………私は少食ですが、その、元は取れるのでしょうか?」

「リサと私で5人分くらい食べるから安心しなさい」

 席に案内され、座る。スタンダードなチェーン焼肉店、そこまで豪華ではないが、アルバイトをしていない学生にとっては結構お高めのお店であることには変わりがない。

 一番最後に入ってきた藍が懐から取り出した札を壁へと貼った。和風なお札である、和紙に墨で文様を描いただけの簡素なもの。それを見ていた四人が首を傾げたのを見て簡単に説明した。

「色々と、聞きたいこともあるでしょう? 外にあまり話が漏れないように結界を貼ったのよ」

「そんな簡単なものでも、魔法は使えるものなんですか?」

「簡単な結界だから。リサの話では貴方は結構勉強熱心だそうだし、面白い話も聞けるかもしれないわね」

 一先ず頼むが………なんかこういうお店では網がどうとかタレがどうとかで頼む順番があった気がする、と紅稀と梓が考え始めてしまったが普通に藍が味噌ダレの豚バラを頼み始めた。

「別に順番とかは気にしなくてもいいわ。もう適当に、食べ放題なんだし気になったメニューを頼みなさい」

「は、はい………」

「藍さん、ほとんど初対面なんだから怖いに決まってるよ」

「そうかしら? 鼻眼鏡でも付けておくべきだったわね」

 よくわからないことを言い始めるが、懐から鼻眼鏡を取り出したあたり冗談ではないらしい。

 第一陣の注文が到着したあたりで真っ先に、伊織が質問をおこなった。

「まずなんですけど〜………教科書の話です。UtopiaWorkshopに思い当たる節があるってどういうことですか〜?」

 仕事がどういうものか、把握はできていない。親しい友人の親だが、ここに来てあまり信用できなくなってしまった。

 特に、彼女が闇属性魔法に関する研究を行っている項目と、その養子であるリサが特殊体質を持つという項目が奇妙に合致し、疑念が芽生えた。

 親が行方不明なのは、『そういうこと』なのではないか?

 だからここで聞き出す必要がある───伊織がピリピリしている様子を見て梓も自分の疑念を思い出し考え込む。唯一紅稀だけが首を傾げていた。

「思い当たる節があるのは、そうね。あの組織は古い親友が立ち上げた組織だと思うのよ」

「親友の組織、ですか?」

「その親友も今では死んでいるけど……………まぁ私達の界隈ではよくあることよ」

 懐かしむようにして目を細め、頼んでいたジュースを飲み始める藍。

「実は、その友人が非常に厄介なのよ」

「え」

「死してなおも禍根を残すのはあの子らしいことなのよ」

 そう言ってリサに目を向ける。

「貴方たちは転生という概念を信じるかしら?」

「………アニメみたいな話ッスね」

「そうね。アニメみたいならまだ良かったかもしれない」

 不穏な表現をして、説明を開始した。

「『彼岸の魔女』リコリス・ラディアータ」

 一人にして大勢の名前を。

「リサはその転生体よ」

 

 

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