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ModernWitchProtocol  作者: 沢ワ
1章:InThisLife
7/21

7話:特訓開始!!

 金曜日、夕方。

 江戸川河川敷に、魔法の結界が貼られていた。内部からの衝撃や轟音を外部に漏らさず遮断し、人避けも兼ねた意識操作も行う。相当に高度な術であり、準備の簡略化手段が発見されたのはつい最近のことだという。

 そんな結界の内部ですごい轟音がしていた。

「…………」

「………………砲撃じゃねえんだぞ」

 リサはあまりの威力に硬直していた。紅稀のツッコミも御尤も、リサの持つ杖から発射された魔法が、モウモウと土煙を上げているのだから。

 藤原リサ、埒外の魔素を持つ少女。これから先狙われるかもしれないからと、グレイが招いたアスター家の面々指導の元魔法を学ぶことになった。

 まず杖という魔法を発射するための触媒が必要ということで、練習用の杖を渡された。どうにも魔法には魔力を『増幅し』『適切な場所まで運搬し』『発射する』という作用の触媒が必要らしくこれを支えて一纏めにすると杖の形が適切らしい。

 そして魔法のお勉強もした。曰く『エボニアでは義務教育レベル』の内容、面白がって参加した紅稀と伊織、興味がある梓も交えて勉強を行った。

 そして実践編。魔法の形態には色々とあるが突き詰めれば『エネルギーを射出する』というもの。なので、準備をせずとも使えるエネルギーを成形し射出する方式『基礎形式』を試しに使ってみてくれと指示された。渡された的は非常に強固な、耐闇属性素材の的だ。

 使う『系列』、つまり属性内の細かい区分の中でも最も使いやすい闇系列を用いて基礎形式を発動した。

 基礎形式は威力が低めだと教えられていたのだが、結果は『砲撃レベル』である、人間の体で発生させられる威力ではないし、人間に向けていい威力でもない。

 そんな状態で呆気にとられる地球人組、アスター家の面々も全員首を傾げていた。

 なんと総勢22名、長女のフランを除いて全員やって来ている。ちなみにグレイいわく『合計金額にすると242億円の賞金首』。

「あの」

「おかしい………」

「威力ですか? 確かに、すごい威力ですけど」

「??」

「ほらマリアンナ姉様? リサさんは魔法のことをほとんど知らないと説明したはずですわ」

「あ、そうだったわね。そうね………威力がおかしいわ。わかるわよね皆」

 うんと頷く。

 そして、全会一致で。

「威力が弱い」

 と答えた。

 えっこれで? と青ざめる地球人組を差し置いて学者集団であるアスター家姉妹たちは議論を開始した。彼女たちは普段より翻訳魔法を使っているためリサたちの耳には日本語に聞こえる。ただ例えば日本語訳されていたとしても専門用語を含む学術論文を読んで高校生が理解できるかは別問題だ、実際エルドリッチの法則とかの魔術法則らしきものが聞こえてもそれがどんな法則かは知らないので実際にどんな原理でこうなったかは不明だ。

「我々にもわかるように説明していただけますか?」

 こういうときに梓は便利である。

 簡潔に答えてくれたが、想像し難い話だった。

「あなたは伝説的な魔素の持ち主で、実際に血液調べてやばい量保有されているのは把握済、ここまではいい?」

「はい」

「で、魔素を扱う上での素質がかなりあるから魔法を発動した場合かなり威力が強くなるの」

「それでこんなに強いんですか?」

「いや、調整の方法わざと教えなかったから。アクセル全開しか知らない状態を見てみたかったのだけどー……もう少し威力出ると思っていたの。単純計算で、今の威力の1500倍くらい?」

「????????」

 なぜそんなことをしたのか。危険すぎるし、無謀すぎる。砲撃クラスの攻撃を1500倍にしたらもはや存在してはいけない生物になるだろう。

「ね、無意識にセーブできたのかな?」

「この結界吹き飛ばすくらいは想定して楽しみにしてたのに…………」

「僕に242億渡したいなら早目に言ってね」

「ごめんなさい剣仕舞って」

 仕事があるのか、ほとんどの叔母がそそくさと帰っていく。多分グレイから逃げるためだとは思うが……。

 残ったのはアレクシアだけ、多分一番危険な女性である。彼女はいくつか本を取り出したが………大学教授である彼女が所持している資料なんて大学レベルのものばかりだった。

「そういえば大学は大丈夫なんですか」

「ええもちろんですわ。今ある組織の対策関係で長期休暇取得中ですもの」

「対策?」

「リサちゃんに魔法教えるのもその一環ですわ」

 好感度稼いであわよくば自陣営に引き込もうとしているアレクシアをジトーっとした目で見るグレイと伊織。警戒されるのも仕方がないことだ。

 ともあれ練習が始まった。

 魔法というものはどうにも感覚に頼りがちになるが、しっかりとこういう『強すぎる』体質への対策もバッチリらしくアレクシアは沢山の装具を持ってきた。

 ただ、

「これじゃ動けませんわね」

「動けますけど動きづらいです」

「………なぜその荷重で動けますの?」

 リサの体質は特異的過ぎて道具による補正が難しいらしい。総重量38kg、もはやきぐるみを着ているような状態で動き回れるわけがない。

「仕方ないですわね……それではこの首輪を」

「殺されたい?」

 直球でグレイが物騒な口をはさむ。何故か違法物品の中でも悪質なものを所持していたのだからそんな反応にもなる。

「なんだ、その首輪………悪趣味だな」

 紅稀がジッと見つめるその首輪。たしかに悪趣味だ、鎖のつけられた犬用の首輪に見える。

「ま、元が奴隷用の首輪ですもの。どっかの異世界から来た連中からかっぱらってきたものを、私直々に改良したものですわ!」

「………」

「別にやましいことはない………そうこれは魔素制御のための致し方ない犠牲ですわ」

「犠牲って言ったぞ」

「でもつける」

「リサさん!?」

 首輪を自主的に装着するリサ。アレクシアも流石にビビったが………次の現象にもビビった。

 竜のなめし革製首輪は褐色……………なのだがそれが紫色へと変色し、最終的にはドス黒くなっていった。

 リサは首を傾げ、首輪を外す。ちなみにこの首輪、本来は一度つけたら外すのには『御主人様』の許可が必要だ。単なる腕力で解決できないからこそ厄介な魔道具のはずだ。

「………効果ないように感じます」

「キャパオーバーで壊れましたわね」


 ………男の子と仲良さそう、という情報を受けたのだが、

「まだ子供だったのね」

 よかったわ、と無表情で呟くスーツの女性………藤原藍。結界内には明らかな轟音が響き、その発生源は自分の養子であるリサと理解して、土手の階段を下っていった。

 全員がリサの魔法訓練に釘付けになっているからだろう、全員が気付かない。藍はそのまま歩いていく。

「リサ」

 そしていつものように声をかける。反応は、3種類だった。

「あ」

 藍さんだ、という伊織やリサにとって知り合いとして当然なもの。

「誰?」

 初対面なのだから仕方がない、藍も話だけは聞いていたが初めて対面する二人の少女たちの反応。

 そして魔法をよく知るエボニア人の反応は───危険人物に対面したときの反応だ、即座に魔法による攻撃を行った。

 射出されるグレイの鎖と、アレクシアの使う『基礎形式』闇の矢。こんなことを言っている場合ではないが確実に格段にリサが使ったものと比較して威力が弱い。

 それでも常人では即死するような攻撃だったが、彼女は棒立ちでそれを回避した。ワームホールを出現させる魔法『次元の扉』による黒い渦が瞬時に現れ、それらの攻撃を地面へ向けて転移する。

 四人の地球人は硬直、アレクシアは冷や汗をかきながら藍を睨む。グレイも即座に襲いかからず、身構えつつリサたちを隠すように位置どった。

 一触即発、そんな雰囲気の漂う中最初に口を開いたのは、

「随分な挨拶ね」

 藤原藍だ。

 余裕綽々なその無表情、機微は分からない。ただこの場において圧倒的なのは彼女である、と戦闘慣れしたグレイは感じた。

 プレッシャーの種類が違う。威圧するのではなく、いつの間にか側にいるタイプの不安感。

「ええ、そうもなりますわ。この結界、私が許可した者しか入れませんもの……何者?」

「まぁ、結界を騙すことには慣れているわ」

 そう言って懐に忍ばせておいた札を取り出す。複雑な文様の書かれた和風な札………藤原藍の魔法的な取り扱いは現在この『札』同様に生物的でない『物体』である。故に人を拒む結界の中には簡単に入れた。

「私は藤原藍。リサの養母よ」

「信じられませんが………まぁあの子たちの表情を見れば察しますわ」

 リサもなんでここにいるのみたいな無表情をしていた。養母はミステリアスだったが魔法にまで関わっているとは思わなかった。

「えっとぉ〜、藍さん?」

「なに、伊織」

「魔法使いだったんですか?」

「どちらかというと陰陽師とかその辺だけど、まあそうね」

 久し振りにあったけど相変わらず頭の回る子ね、と伊織の頭を撫でる藍。お隣さんで娘の幼馴染なのだ、そりゃ可愛く見える。

 とはいえ現状のアンバランスさには全くついていけない。

 リサも首を傾げて、自分の中にある疑念を晴らすために質問を開始した。

「説明、お願い」

「私の仕事よ」

「仕事って?」

「魔法とか超能力とかをアレコレするのよ」

「アレコレって」

「そりゃもう………………………、─────、……………あれこれよ」

「なるほど」

「えっ今のでわかったの?」

「わからないことがわかったの」

 ちゃんと説明してよ、と珍しく怒ったような表情を浮かべるリサが新鮮だ。

 わかったわ、とクールに述べる藍。まずは初対面である娘の親友からだ。

「初めまして、ね。私は藤原藍。リサの養母。血の繋がりは一応あるけれど、実の母親ではないわ」

「あっ、どうも……」

「………?」

 梓が妙な反応をしたが、それはさておき振り向いて、未だに警戒を解かないグレイとアレクシアへ向き直る。

「そして、貴方たちは知っていると思ったけど」

「……あいにく、地球の情報はあまり把握できていないので」

「そう? なら知っておいて。私は藤原藍。応用能力研究所付属『藤原魔素技術研究所』収容部隊Ω-18『黄金の月』リーダーよ」

 エボニア人からすれば知らない組織であり、脅威は分からない。だが彼女一人の力量だけでも厄介だとわかるほどには伝わってくるプレッシャー。

「…………敵ではないと?」

「今は、よ。特にアスター家の者は、厄介だと聞いているわ」

「…………」

「一応聞いておきたいことはあるけど、『他意はないかしら』?」

「………?」

 他意と言われてもなんのことかさっぱりだが………ふと、袖が小さく引っ張られた。

 アレクシアが振り向くとグレイがいた。

「結婚のことかな?」

「………あ、そうですわね。ぜひとも私の息子を婿に貰っていただけませんか?」

「質問で返すわ、悪いわね………今から親として貴方の首を撥ねるけれど構わないかしら?」

 その言葉を聞いてとても遠くに退避したアレクシアはさておき。

 事情を聞いた藍は、溜息をついた。話は結構単純だった。

「魔法を教えればいいのね」

「………藍さんはできるの?」

「できる」

「なんで、内緒にしてたの」

「巻き込みたくなかったから」

 短い受け答えだが、付き合いは長い。じっと見つめ合って、その真意を察した。

 藍は言葉足らずなことも多いし、最近では家を開けること多かった。それがテロ事件関係で忙しくなっていたというのなら、話は別だ。

 こんな危険な自体には巻き込みたくないのは普通の親としてなら当然だし、事情をよく知るものとしても当然だった。

 リサは頭を下げた。親子としてではなく姉妹としてでもなく、師弟として。

「おねがいします」

「わかったわ」

 そう言って藍はやはり黒い渦を発生させる。

「これは『次元の門』よ、転移魔法。この穴に通ずる他の穴を発生させることで、長距離のショートカットが可能」

 そういってその渦に手を突っ込み、アレクシアを近くまで引っ張ってくる藍は無表情も合わさり何だかシュールだ。

「それで貴方は、リサにどこまで教えたのかしら?」

「魔法の基礎理論とか、杖の持ち方とかですわね」

「そう。それならまず、杖の持ち方に関しては忘れて頂戴」

 必要なことなのでは? そう首を傾げたがこれの説明は面倒なことだ。

「おそらく彼女は『反動を受け流しやすい杖の持ち方』を教えたのでしょうけど」

「実際そのとおりですね。威力がどれほどになるかわからなかったので、最悪を想定しても肩が粉々になる程度で済むような持ち方をさせてました」

「正直最大出力で使えばリサの魔素量ではどんな持ち方でも確実に肩を飛ばす。リサ、多分想定よりも威力が弱いと言われたと思うけれどそれはアナタが無意識でセーブしたから」

「………セーブ」

 そんな意図はなかったのだが。

 ただ、藍の意見は生まれながらにして持っているのだから無意識でも制御可能だということらしい。その『無意識』が問題で、意図してやろうとすると難しくなる可能性があるという。

「でもそれをやるの」

「難しくないですか?」

「恐らく、このまま誰かに言われた感覚で制御し続けたままだと危険」

 だからこれを使って、と藍は懐から、明らかにスーツの内ポケットに入る大きさではない大きさの物品を取り出した。

 なんてことはない、デフォルメされたカエルのおもちゃだ。両手で花束でも抱えるように、豆電球を6つ持っている。

「……私の知り合いが作った訓練用の魔道具。これに魔素を適量流すと音が出るの」

 魔素が流されている状態はよほど逸脱した量でないと見えない。そのためどれほどの量を流し込んだかは不明だが、リアルな鳴き声で鳴き始めた。そして豆電球に光が点ったと同時、

「一定時間継続するとランプがつく、その『適量』はランダムに変わる。時間も量も上下限も、ランダムよ」

 ピタリと何声が止む。藍はカエルを持ち直し、再び魔素を流し込んだ。先程とは違う種類のカエルの鳴き声がしている。

「これを六回、全部の電球が点くまで。片手でスマホ弄ってても出来るくらいに慣れないと魔法を使うことを許可しないわ」

「え、難しすぎません?」

 アレクシアがそんな声を出す。藍が無造作に渡した魔道具を手に持つ………やはり意図した細かい調整は魔法に慣れても難しいもので、どうしても上下限値を超えてしまう。鳴いたり鳴き止んだりを繰り返すカエルのおもちゃを眺めつつ、アレクシアはバッサリと切り捨てた。

「初心者には無理だとおもいます」

「この結界を吹き飛ばすほどの暴発を起こすかもしれないと予想していたのは貴方たちでしょう? 正直そんな出力を結界外で暴発させたらこの町終わりよ」

 そんなの良くないですか? というアレクシアに良くないわと返す藍。

「一先ず、リサは意識して魔素の操作を行えるようにして頂戴。これはこの街の存続にもか変わってくるわ」

「この町って…………」

「まぁやってみなさい。リサ、あなたなら出来るわ」

 やってみる。

 アレクシアはその様子を注視した。先程、魔素を吸収するような魔道具を短時間装着しただけで破壊したのに、意図的に流し込むなんてしたらそれこそ爆発の危険性があるだろうと。

 だが藍は意に介した様子もなく、リサがカエルをじっと見つめるのを見ていた。自転車の練習をする我が子を見守る親のようだ、地球人の3名は思ったが、藍はとくにアドバイスもせず見守るだけ。

「あー………藍さんって呼ばせてもらいますけど、なんかアドバイスとかないんすか?」

「ないわね。横からギャーギャー言ってできるような子ならそうしているけれど」

 そんなことを言っている間にケロケロとアマガエルの鳴き声がしてきた。

「ほらできた」

「質問ですが、そんなに簡単なものなのですか?」

「普通は無理ね、でもあの子は生まれつき魔素と共にある。無意識ながらも魔素を制御し続けてきた」

 だからできるの、と言い切る。

 娘への信頼もあるが、長年魔素を研究してきたからこそ理論立てた理由も分かる。

 1つ目のランプが点ったあとはトントン拍子、一拍置けばすぐに鳴き始めランプが点灯する。リサはほとんど苦もなくこなしていった。最後の一つを点灯させるためのウシガエルの鳴き声を聴いている面々…………その中で、伊織だけがやや浮かない表情をしていた。

「………伊織、どうしたの」

「リサを戦わせる気ですか?」

 正直、このまま魔法の制御がうまく行かず、誰かの護衛を受けて生活していくというのがベストだと思っていた。

 確かに他人任せは心苦しい。他人が他人を傷つける事を容認するようなことでもあるため、そこも日常を生きる少女としてやや不安な点だ。

 だが、違う。そうではない。リサの魔法の威力を目の当たりにして怖気づかないわけがない。

 リサが自分の身を守るために放った攻撃が周囲を破壊した場合、最も気に病むのはリサのはずだ。

 13年くらいずっと一緒だったから分かる…………それ以上に長く暮らしているはずの藍も、分からない筈がないのに。

「自分の身は守ってもらわないと困るのよ」

「…………藍さんは、強いんですよね?」

「ええ、そうね。でも私一人でできることには限りがある。どんなに強くとも、腕力ですべて解決できるなら既にそうしているわ」

 リサを見る、しかしその目は他の人物を見ているかのようだった。

「リサから説明は聞いたかしら? 彼女を狙って、多くの組織がやってくるわ」

 淡々とそう告げる藍。

 その赤い目に、何かが渦巻いているように感じた。

「あなたたちは、私が倒しきれなかった者から逃げるのよ」

 

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