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ModernWitchProtocol  作者: 沢ワ
プロローグ:日常が崩れ行く音
4/21

4話:日常が崩れ行く音④

 テレビでは再びテロ行為に関する報道がなされていた。

 だが、今夜はそれ以外のことも起きている。

「…………四人誘拐。あのテロは陽動でもあったのか?」

 そう、『四人』。『カマキリ』による攻撃の後、藤原リサの護衛につけていた人員が全員意識を奪われた上にリサ本人も行方知れずとなった。

 意識を奪われた、というが目立った外傷もなく毒物を使われた痕跡もなく突如として異常な睡魔に襲われて昏倒したのだという。

「あの例の偽造パスポートの少年はなにか知っていましたか?」

「いえ………手段としては知っているみたいですが、詳しい手順なんかは知らないとのことで」

 現在午後11時。未曾有の大事件ということで本来帰宅しているはずの面々も署内に残り、様々な会議が進められていた。

 緊張した様子もなく、無遠慮に出された茶菓子を食べている偽造パスポートの少年、グレイ・グリーガー。単騎でテロ用の兵器を無力化できる手腕と技術もさることながら、何やら情報を持っているのではと思って取り調べ中なのだが………

「………彼はあまり情報を持っていないようですね」

 署長、仲上英智がそうつぶやく。自分の娘を誘拐されているために心中穏やかではないはずだが、その整えられた頭髪と切れ長の目はその態度同様に一切揺るがない。

 件の少年グレイだが、どうも仲間と落ち合う予定が一度目のテロで引き伸ばしになっているらしく、本人は殆ど情報を持ち合わせていない。

『それで、君の本当の出身は何処なんだ?』

『ルナトリア皇国』

『るなとりあ………? 知らない地名だが、それはどこにある』

『エボニア』

『えぼにあ、とは?』

『地球から4500万光年離れた場所にある星』

『………あー、他の惑星から、君は何をしに来たんだ?』

『使節が来れるようにルート開拓』

『……、使節の目的は?』

『…………、…………。………なんだっけ………』

 この調子だった。聞けば彼はまだ9歳、それも早生まれな上に5歳頃まで反政府組織に囚われていたらしく『ルナトリア』という国で義務教育すら受けていないのだという。なお、その反政府組織に関しては今回のテロ事件には関係ないとのこと。

「………困りましたね」

 子供の妄言と一蹴するのは簡単だ。だがグレイは実際に魔法を使ってみせたし、機械兵器の無力化が可能な戦闘能力を兼ね備えている。現実主義者の仲上英智だが、だからこそ目の前の少年が語ったことを全て真実だと考え思案していた。

『機械兵のテロ集団と誘拐犯は別組織かもしれない』

 先程グレイが述べた意見だ。

 なぜそう思ったかも聞いてみたが、『直感』と首を傾げながら答えられてしまった。

 ただ考えてみればわかるが、誘拐犯は細々とした準備をした上で目的の藤原リサを誘拐した。だがテロの方は暴れまわるだけ、もしかしたら藤原リサは偶然巻き込まれただけかもしれない。

 その『巻き込み』が原因で誘拐されたのではというのがグレイの意見。どうもリサの血液には惑星エボニアで広く使われる『魔法技術』の動力となるエネルギー『魔素』が詳しい検査を行わずわかるレベルで尋常ではない質・量で含まれているらしく、先のテロ事件で出血した際にそれを察知した組織が捕縛に乗り出したのでは………という予測だ。

 流石に9歳の少年、グレイは眠そうに目を細めてぼーっとしている。手元にある小さな箱をくるくると弄び、時折カクンと項垂れていた。

「誘拐目的は不明、要求も不明、逆探知も不可能…………さて、どうしますか」

 仲上署長は思案する。機動隊やSATの動員は必須だろうが、日本の技術力で『魔法』と呼ばれる技術に対抗できるか………それが心配だ。それに誘拐犯とは別枠だとしても、機械兵器テロ集団に関しては自衛隊どころか在日米軍も動員しなければならないかもしれない。

 思案しながらも時間だけが過ぎていく。

 もどかしい時間だった。


◆◆


 リサは目を覚ました。

 見覚えのない天井を見上げ、起き上がる。

「あ、目が覚めたみたいだね」

 にこやかにそう告げる女性も知らない女性だ。

 ここが、明らかに廃墟であることを考えると不審な人物でしかない。

「………どこですか?」

「んー、鬼姫公園の脇にある廃町工場。待ち合わせ場所、君を引き渡す予定だったんだ」

 無表情のリサは、しかし警戒する。じゃらり、という音は自分の手につけられた手錠だ。手錠は柱に巻かれた鉄線で繋がれ、動ける範囲も狭い。

 白人の女だ。流暢な日本語を話すが、その見事なプラチナブロンドと青い目、アスリート体型と言える均衡の取れた健康的な体が非常に目立つ。

「『初めまして』だよね、私は雨宮扇」

 もちろん偽名だよ、と手を振りながらフレンドリーに話しかけてくる女。彼女は買い物袋から飲み物を複数取り出す。

「喉乾いたでしょ、なんか飲む?」

「………」

「ブラックコーヒー、サイダー、コーラ、果汁100%ジュースに、緑茶、炭酸は嫌いかな? 気になる新商品あったけど………風変わりだったしやめといた。好きなの選んで。開けてあげるからさ」

「………」

「おー、警戒してるね」

 犯罪者とは思えない飄々とした態度、誘拐被害者に向けるには相応しくないまるで同級生に向けるような笑顔。罪悪感のかけらも見せず、二本買っていたらしき緑茶を飲み始める。

 無表情のリサに見つめられる雨宮はなんか顔についてる? とおどけた。

 だが、リサにとって重要なことは、

「あなたが誘拐犯?」

「んー?」

「私の、友達を誘拐した」

 3人の友人の所在だ。見える範囲にはいない……安否はどうなっているか、不安だ。

 雨宮は首を傾げ、ペットボトルから口を離す。

「大人しくしてないと君の友人を殺すよ」

「…………」

「なーんてね。私が誘拐したのは君一人だよ。信じてもらえるかは微妙だけど……」

「…………私の友達を誘拐した人、知ってますか」

「知らなーい。口止め料もらってないから言うけどさ、他の組織も君を狙ってるからさっさと連れてこいって言われちゃってねー。急かすなって話、最初の契約にないからね」

 世間話をするかのように、そして友人にそうするかのように彼女はリサの隣に腰掛ける。

「実はね、私。君を殺せって依頼受けてたの」

「………」

「でももっと高い依頼料で攫ってこいって他の組織に言われてさ」

「……犯罪で、お金稼ぎですか」

「まあね。善は急げって言うけどさ……私は善より急いでお金を稼ぐクソ野郎なのさ」

 うえっへへへ、とわざとらしく笑う雨宮。

「そしてもう一つの依頼がある」

「………より高いお金で私を殺すんですか?」

「いやー、おっかない上に金払いのいいお得意様が、君を護衛しろって言う依頼を」

 だから今の私は君の味方だよ、と胡散臭いことを言い出した。

「嘘を付いて信用を得ろっていう依頼だったりは?」

「わお! 頭回るね君。信用してくれるかはさておいて、そういう依頼はまだ来てないよ…………まだね、まだだからね? 今後そういう依頼が来るかもしれない………私が電話に出たらその後はもう信用しないほうがいいかもね」

 やはり胡散臭く、異質な女だ。どこから嘘でどこから真実か………そもそも報酬一つで組織を裏切るような人物を、一般人スケールで考えても信用できる訳がない。

「あ、でもさっき引き取りに来た連中と殺しに来た連中は皆殺しにしておいたの。それで今は信用してほしいなぁ」

 平然と、殺人を犯したことをにこやかに言う。やはり危険な女だ、そう感じた………言われて気づく、異様な臭い。ここが廃工場であることを考えても、濃厚な鉄サビの匂いが。

「………」

「あ、血とか駄目なタイプ?」

 緑茶を再び飲み始める雨宮。

「でねー、警察も来れないだろうから君の生徒手帳にこの場所の情報書いてコンビニに落としてきたの。これで君は保護されて、私は報酬4億6000万円を手に入れられる、いい取引だよね」

「……………良くないです」

「君の友人に関しては、残念だったね」

 ガシャン!! という音はリサが手錠を破壊した音。折れた右腕も強引に使い、鎖を引き千切ったのだ。そのまま掴みかかる、そう思ったがリサの手は空を切った。

「ま、落ち着きなよ」

 背後からポンと頭に手を乗せられる…………いつの間に、背後にいたのだろう。

「依頼その4。君の友人の居場所は、マップアプリに登録しておいたから」

「………何が目的ですか?」

「お金だよ〜。ちなみに協力はしないから、そういう依頼じゃないし」

 背後を取られた状態だが、思わずスマートフォンを確認する。

 登録された場所は金曜日のテロで破壊され立入禁止になっているパチンコ店だ。つまりはそこに伊織と紅稀、梓がいる。

 だが、自分が行ったところで何ができるのだ?

「警察が来るのは時間の問題。私は当然逃げるけど、君はどうするの」

「………私にできること、三人の居場所を伝えて………」

「それでもいいけどさー、多分警察もろとも皆殺しになるよ。あの組織って荒っぽくてさ、そのくらいはする」

「………………じゃあ、どうすれば………」

「なんで君が狙われているか、その理由を考えてほしいな………はいおしまーいサービスタイム終了ー。じゃあね藤原リサさん。お金があるなら気軽に連絡してよ」

 振り向くと、既に雨宮はいない。

 ここからは自分で考えろ、そういうことだろうか。

 自分にできること。自分が狙われている理由………これで、あのグレイが前もって魔法のことを教えていたのならリサの取った行動は違っていただろう。

 だが『たられば』は無意味だ。

(私一人で、済むなら………)

 そう考え歩き出す。

 駅前通りまで、ここから大体30分。間に合えばいいのだが………そう考えた。

 そもそもの話だが、藤原リサという少女は両親が行方不明だ。現在、血縁関係にあると考えられる女性藤原藍の養子となっているのはそのためである。

 その両親は別に育児放棄を行ったわけではない、と考えられている。リサは生後3日ほどの状態で、11月の肌寒い時期路上に置かれた籠の中で発見された。第一発見者が藤原藍。籠の中には幼きリサの他に厚手で高級な毛布と『She is Lisa Fujiwara』と書かれたメモが入っていた。そこまでならただの育児放棄に思えるだろうが、その路上には点々と血痕が残されていて、籠自体にも元の色がわからなくなる量の血液が付着していたのだという。恐らくは両親が死力を尽くして、彼女を保護してくれる人へと届ける道中倒れたのだろう、そう考えられている。

 では、なぜ幼きリサが襲われたのか………それは不明だ。だが今ならわかる、この状況自体がそもそも16年ほど前の再来であると言うなら。

 おそらく雨宮にリサの殺害や誘拐を命じた者たちがリサの両親を奪った者と同類で、護衛を命じた者こそ本来リサを保護してくれるはずだった人なのだろう。

 なぜ狙われているかは依然不明だが、とにかく自分一人で収まる事態ならば、それでいい。

 まだ始発も始まっていないしテロ現場ということもあり人通りの少ない…………しかしそれでは説明のつかないほど人通りが少ない駅前通りへ到着した。

 風穴が空いたパチンコ店に、物々しい集団がいた。

 武装集団だ。その中でも特に大柄な男がわざわざ顔を隠すガスマスクを外してにやけながらこう告げた

「初めまして、だな。朝早くご苦労なことだ…………あの守銭奴女も少しは役立ったわけか」

「………三人を返してください」

「待て、待て……慌てんなよ小娘」

 余裕そうな態度で男は馴れ馴れしく近付いてきた。

「主導権は俺たちにある」

「…………」

「お前の態度次第ってわけだ。俺たちに従えば開放する、それは約束する」

「…………」

「信用できないって顔だな? 安心しろよ………こういう稼業は信用が第一なんだ。約束は守らなきゃな」

 雨宮とは別の意味で信用できない人物だ。まるで自分を商品のように思っている目つき………いやらしい目つきだ。

 従え、というがどんなことをされるかはわからない。だが、三人が開放されるならなんだってしようと思った。

「わかったな?」

「………」

 頷く。名乗りもしない男はそのままリサに銃を突きつけたまま移動を促した。

 偽名とはいえ名乗っただけ雨宮のほうがマシな人格をしている。この男は危険だ、注意しなければならない。

 瓦礫の山を抜ければ被害の少ない地点へ向かえる。このパチンコ店は二階建ての無駄に豪華な店だが………その螺旋階段に三人は座らされていた。

 梓は無傷だが…………。

「…………」

「おいおい、友人が傷つけられてるってのに無表情かよ。人の心無いのか?」

 どの口がいうのだろう。

 抵抗したため、紅稀と伊織は何度か殴られたような傷があった。

「………クソッタレ………」

「……………………」

「リサ………私は、大丈夫だよ……」

 これ以上の非道を許してはいけない。リサは男に向きなおる。

「私は、何をすればいいの?」

 男が笑う。部下たちも笑う。

 だいたい想像がつく。女性に対して下卑た男たちが要求することなんて一つくらいだ。

 …………だが、相手は想像以上に下卑た人物であった。

「簡単だよ」

「…………」

「さあ選んでくれ………この三人のうち、誰を開放する?」

「……………………………………」

「あー、安心してくれ、残された娘も殺しはしないさ。心の方は保証しないが、肉体的には丁重に扱う」

 薄ら笑いを浮かべながらそう迫る。

 開放するのは一人だけ………そう言いたいのだろう。それすら守られるかは怪しい。この場に来なければ全員、警察や機動隊の人たちも巻き込んでいただろう。だから後悔はない。

 だが………、

「3人全員開放して」

「そりゃ無理だ。こっちは安い報酬で働いてるんだ、息抜きが必要だろう?」

「私はどうなってもいいから」

「お前の首にかかった賞金はたしかに多額だが部下に割り振りゃ雀の涙程度だ。だめだね」

「……………」

 交渉の余地がない、というわけだ。リサは顔を動かし、周囲を確認する。

 見える範囲だけでも20人の武装した兵士。

 対するリサは丸腰で武術の心得はない、なおかつ右腕を骨折している。中学時代に高校生の不良をなぎ倒せたのは、相手がただの不良だったからだ。特殊部隊を倒せると思えるほど楽観的ではない。

 ふと、通電していないパチンコ台に反射する自分の鏡像と目が合うーーー。

「…………!! 『リサ』!!」

 伊織が唐突に大声を出す。男たちが銃を一斉に向けるが、発砲はしない。

 リサは伊織の唐突な行動に視線を向けたが…………自分でもすっかり忘れていた自分の精神に関することを思い出し合点がいった。

「なんだ? 自分を助けてほしいってか?」

 リーダー格の男がそう嫌味たらしく言うのを聞き…………外からの妙な音に気を取られた。

 低い音、空洞音。そして金属が擦れるジャラジャラという音。

 聞き覚えのある、この音は………、

「なんだ?」

 リーダー格の男が間抜けな声を出した次の瞬間、黒い渦が発生する。

 グレイが使っていたあの渦だ、そう考えながらも思わぬ増援に安堵する。だがあの少年は強いのだろうか………そう不安も生まれてきたが。

 違う、この黒い渦は『魔素技術』を用いる人物や団体からすればエネルギーさえあれば再現可能な体系化された『技術』。グレイが使えるからといってグレイが使っているとは限らないのだ。

 現に、まず現れたのは金属製の鉤爪。それがリーダー格の男を殴り飛ばすと、次に現れた機銃が弾丸を吐き出し始めた。

 対応しきれず蜂の巣になっていく男たちを尻目に、リサも行動を開始した。

 階段に座らされた三人を拘束する結束バンドを外す。

「立てる?」

「っ、大丈夫だ! でも、何だありゃ」

「疑問はあとです!! 早く逃げなくてはーー」

 言い争っている場合ではない。そうこうしている間にも黒い渦から例の機械兵器が完全に出現する。

 グレイが昨晩戦った『カマキリ』型の兵器、それも千切れた鎖を落としながら這い出ているためにこれはグレイと戦闘した個体と同一だ。

 軋む金属音を鳴らしながら、リサを捕捉する。そして武器を向けた………が横槍が入る。誘拐犯たちが発砲したのだ。金属製の部位には当たっても無意味だが、生体ユニット部にはダメージが入る。しかしグレイとの戦闘でも見せたとおり、この兵器の生体ユニットには自己修復機能が備わっているためこちらも全く無意味。

 脅威判定を更新したのか、誘拐犯たちへ武器を向け始めた『カマキリ』を背に、リサたちは逃げ始めた。

「あの機械兵器どうしたの?」

「わからない」

「ったく、散々殴りやがって……梓、平気か?」

「………正直、どうにかなりそうですが………」

 どうあがいてもここはパチンコ店だ。壁も大きく崩されているため逃げ道は多い。

 それにあの誘拐犯たちも機械兵器一体に手間取っているため、こちらには全く来ない。

「っ、さっさと逃げるぞ!」

「わかったけど………」

 梓と伊織は結構限界だった。持久力が少なく精神的に疲弊している梓と、腕の負傷に加えて暴行を受けた伊織。紅稀は仕方ねぇ、といって二人を小脇に抱えた。

「っ、流石に怖いです!」

「我慢しろ! リサ!! キツかったらおぶってやるからな!」

「………」

 背中にガラス片が複数突き刺さっていたのだ、傷口が開けば危険。

 ただし向こうはお構いなしだし、何よりリサ自身すら気にしている様子はない。

「逃がすか………!! テメェらそのバケモノの相手は後回しだ! 目標を捕まえろ、他のガキは殺せ!」

 リーダーの男が怒鳴るのが聞こえる。

 3人ほどの男が『カマキリ』から離れ、こちらへ向かってくるのが見える。『カマキリ』は別にリサたちを守っているわけではないので、当然素通りだ。

「止まれっ、止まらないと………」

「銃を………っ!?」

 確保対象へ銃を向ける、マトモな神経をしていればそんなことはしない。これで足止めできるほどの技量があるのか………そう考えながらも紅稀はリサを見た。

 そのブレザー、胸元まで血に染まっている。

「おい………おい!! リサ、もう走るな、アタシが運ぶ!! 死ぬぞテメェ!!」

「…………」

 焦点のはっきりしないリサが後ろを振り向く。3人の男は今にも銃を撃ちそうといった具合だった。

 銃弾を防ぐような防具もなければ、技量もない。

 このままだと撒き散らされた鉛玉で全員死ぬ。

「………ダメ」

 だがリサは確保対象だった。逃げる友人3人の盾になるように立ち塞がる。

 攻めあぐねる誘拐犯たち………それを横から襲う機械兵器。

 防御も攻撃も間に合わない、ただ蹂躙されるのみ。おそらくは人に向けるものではないであろう機銃が火を拭き、人肉を細切れにしていく。

 青ざめる梓の目を強引に塞ぎ、紅稀は泣きそうな目でリサを見る。コイツは…………その気になれば自分たちの盾になって死ぬ。なぜそんな事をできるかは不明だが、多分自分と同じだ。

 やらねばならないことは、やるのだ。

「リーダー!」

「っクソ野郎!!! あのガキ………」

 リーダーの男は機械兵を睨みつけ、撤退を開始する。

 あの兵器は危険だ。勝てない、自分の常識外にいると判断した。

「て、撤退ですか!?」

「当たり前だ! クソ案件寄越してきやがったNULLには適当に言い訳しておけ!」

 相手のバックに何がついているかわからない以上、自分たちのバックを信用するしかない。

 機械兵器がその明滅する瞳で何を見据えているかは分からない。ただこちらを見ていないことは明らかだった。


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