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ModernWitchProtocol  作者: 沢ワ
プロローグ:日常が崩れ行く音
2/21

2話:日常が崩れ行く音②

 白昼堂々行われた兵器を利用したテロ行為。

 実行に用いられた兵器は忽然と姿を消した………そもそも、現れた際も『監視カメラの範囲外から突如あらわれ』『出現場所での目撃者たちは記憶が曖昧』、それが退散時にも行われたようだ。

 死亡者は一度目の砲撃で軌道上にいたパチンコ店の客と店員の計8名、爆破地点のコンビニの店員及び客計15名、その余波を受けた付近を歩いていた3名。

 当初歩道を歩いていた女子中学生のうち、2名が飛散した瓦礫にぶつかる形で骨折、また砲撃の軌道上にいた少女4名は同級生に突き飛ばされる形で肩の脱臼や腕の骨折などの負傷。

 そして藤原リサ。同級生を突き飛ばしたために他の生徒より伏せるのが遅れ、瓦礫の直撃を受けている。鉄筋の金属部品が肩を貫通、割れたガラスが大量に背中へ突き刺さり、右肘もコンクリート片の直撃で粉砕骨折、

「全治3ヶ月の重症だったらしいが………もう平気らしい」

「え、マジですか?」

 鬼姫町警察署、喫煙スペース。

 50代前半の刑事が部下と共に休憩中だった。

 部下は20代後半、ベテラン刑事と若手のコンビだ。

「でも狩谷サン、流石にそれは冗談キツイですよ………」

「バッキャロー品川。いくら不自然だとしても起きちまったもんはしょうがねえだろうが」

 はぁ、とため息とともに狩谷はニコチン混じりの煙を吐き出す。品川と呼ばれた青年は缶コーヒーを飲み干す。

「でも………不自然すぎません? 全治3ヶ月が土日挟んで今日月曜日ですよ?」

「完治というわけじゃねぇよ。貫通した鉄骨に関してはへし折れた鎖骨以外は傷も塞がって後遺症も問題ないみてぇでな………右肘も、一ヶ月もすりゃ元通りになるんじゃねえかって話だ」

「………人体ってすごいですね」 「ま、こんなに毒吸ってる俺たちが死なねぇくらいだ、他人より丈夫なやつも少しはいるんだろ」

 ですね、と笑いながら品川。彼は狩谷以上のヘヴィスモーカーである。

「お前は担当違かったから知らねぇだろうが、あのフジワラリサって娘は前も大怪我してすぐに回復してっからな」

「大怪我………」

 聞けば台風後の瓦落下事故、友人を突き飛ばし、本人は逃げ遅れて右肘を粉砕骨折した。オチは突き飛ばされた友人のほうが打撲による重症で、後遺症が残るかもしれないとされた肘の骨折は一ヶ月もしない内に完治したのだという。

「………にしても、アレだな」

「なんですか?」

「最近、この町ヤバイ案件抱え過ぎだろ」

 テロ事件は確かにありえない事件だったが、それ以外にも不自然な事件が多く存在する。

 5年前に獄中死したはずのアメリカ人の犯罪者が『48名』殺害されているのが確認されたり、完全に炭になった人物の死因が溺死と判定されたり、多種多様だ。小規模な事件だけ見ても都立鬼姫高校内で3人ほど突発的に精神異常を引き起こして隔離病棟行きとなっている。

 これがここ2年ほどの間で起きている。それよりも前は常識的かつ普通の事件が起きるだけだったはずだ。

「なにかあんのかねぇ」

 休憩は終わりだ。立ち上がる。

「品川、例の少年は見つかったのか?」

「いや………まだです」

 品川は首を振る。例の少年………機械兵器を未知の手段で無力化した少年だ。件の藤原リサが受け取った買い物袋の中に財布が入っていて、その中にパスポートも発見された。

 グレイ・グリーガー、ソビエト連邦国籍、就労ビザで15年ほど前から入国している今年で10歳の少年、誕生日は2月31日…………この情報からわかる通り、パスポートは偽造であることが判明している。身元を示すものが偽造な上、滞在場所も不明、未成年なので車で移動するわけでもない。テロ発生から今日までの三日間も買い物はしているため目撃者がいないわけではないものの忽然と姿を消してしまう。お手上げ状態というわけだ。

「一先ず、コンビニへの聞き込みからか」

「ですね」



「おはよう」

 教室がざわつく。

 そりゃそうだ、全治3ヶ月診断を受けたはずのリサが平然と登校してきたのだから。

「ちょっ、大丈夫なの藤原さん?」

「ん………私両利きだから大丈夫。瀬本さん、突き飛ばしちゃってごめん」

「いや、そうじゃなくて………」

 包帯だらけのリサは平然と自席へ向かい朝の準備をし始める。

 前の席の平山栞菜が心配そうに見てくる。

「怪我、大丈夫じゃないでしょ? 休んだほうがいいよ」

「大丈夫」

「うー、どうしよう………」

 ………というか、伊織がいないのは誰も気にしていない。彼女も怪我をしたという理由はあるものの、リサと比べれば軽傷の左肩脱臼と擦り傷のみ。

 特に問題はなく授業はいつも通り………とは行かないまでも平和に終了した。ただ、伊織が無断欠席するのは意外と珍しい。

 栞菜が結構サポートをしてくれたおかげでスムーズに準備ができたことに感謝しつつも、

「明日は休んだほうがいいよー」

 という忠告に内心苦笑い。中学校時代は京都の中学校にいて、高校進学の折元住んでいた鬼姫町に帰ってきたという平山栞菜。結構世話焼きでクラスの中では梓に次ぐまとめ役、それもやんわりとした態度のまとめ役。そんな彼女が移動したあと、その席へ紅稀が座った。

「リサー、荷物持ってやるから無理すんなって」

「鹿島さんは藤原さんの家とは逆でしょ? 家の方向同じのアタシがやるって。助けてもらったし」

 瀬本美海も心配して声をかけてくる。確かに中学校が一緒だった瀬本は家が近い………が同じ学区内だっただけでそれなりに遠い。申し訳ないが、手伝ってもらわなければ帰れないだろう。

「お願いしてもいい?」

「いいよー、そんなに気にしなくても」

 そんなわけで瀬本にお願いする。

 こんな状態、こんな状況で部活動仮入部なんて実施しているわけもないし、していたとしても参加できない。

 靴の履き替えまで手伝ってもらい、校門に差し掛かったところで、

「あ、出てきた」

 声変わりもしていない少年の声が聞こえる。視線をそちらへ向けると、

「あ、金曜日の………」

 テロを収束させた少年である。身長はやはり低く、顔は少女のような印象を受ける。その綺麗な、それでいて不自然な金色の目がリサの目を見上げるようにしている。

「………え、なんでこんなとこにいるのよ?」

「怪我してたみたいだし、手伝おうと思って」

 僕が荷物を持つよ、と言ってくれた。

 なお、表情に関してはリサに負けず劣らずの無表情。とはいえ単に表情が乏しいだけで、なんだか自信有りげな感じは伝わってくる。

「え、アタシがやるって」

「…………」

「な、何よ………」

「…………」

 無言の抗議。少年はじーっと瀬本のことを見上げていた。根負けした瀬本はタジタジといった感じで、リサに許可を取ってから彼に荷物を任せることにした。

「えっと、よろしくね?」

「うん」

 なんだか自慢げ。

 何だこいつかわいいな、なんて思いながらも瀬本はその場をあとにする。

 リサは少年を見つめる。

「僕はグレイ・グリーガー。よろしく」

「……藤原リサ。よろしくね」

 握手。悪い子ではなさそうだ。

「何でここに?」

「パスポート入れっぱなしだった」

「そうだったの」

「警察に届けた?」

「うん」

「危ないかも」

「なんで」

「偽物だし」

 唐突なカミングアウト。流石にビビる。少年、グレイは自分の失言に気づいたのかあっと声を出す。

「今のナイショ」

「うん」

 口数の多い方ではない二人は、それでも結構会話していた。おそらく傍から見れば姉弟くらいに見えるだろう。実際にはほとんど初対面みたいなものだが、波長は合うようだった。

 寄り道をせずに家まで帰る。今日もリサの養母、藤原藍は仕事で大忙しなため帰ってこない。そのため無人だ。

 今日はテロに遭遇したりしなかった。せっかくだしグレイをお茶にでも誘おうかな、なんて思っていると、

「あれ、リサちゃんおかえりなさい。そっちの子はお友達?」

 隣の家のご婦人、つまり伊織のお母さんが買い物から帰ってきていた。

「ただいまです」

「珍しい、伊織と一緒じゃないの? 今日も遅刻しただろうから、お説教されてるのかしら?」

 全くうちの子ったら………とため息をつく伊織の母。しかしリサとしては疑問に思うことしかない。

 今日、伊織は学校に来ていないのだから。

「あの………伊織ちゃん、何時頃に出ました?」

「2時間目くらいには間に合う時間だと思うけど………まさかあの子、サボったの?」

「………」

 伊織の母とも結構付き合いが長い。リサのこの無言を肯定と察して、携帯電話を取り出す。

 スマートフォンではない、俗に言うガラケー。伊織の母は辿々しい手付きで伊織の電話番号を入力し、かける。

 中々出ないのか、ゲームセンターにでも行ってるの? と流石に怒ったような声を出す。リサも、伊織の日頃の行いからサボるのは珍しいがそういう日がついに来たか、程度の認識だった。

 ふと、リサの制服の袖が軽く引っ張られる。グレイの小さな手がリサの袖を掴んでいた。

「リサ」

「どうしたの?」

「音楽が聞こえるけど、これって着信音だよね」

 グレイの指摘に耳をすませば、たしかに聞こえる。塀の向こう側、伊織の家の玄関前。

「あの子ったら!! 帰ってきたらうんと叱ってやらなきゃ!」

 嫌な予感がする。テロ行為があったのだ、考えすぎかもしれないが、考慮の一つには挙げられる。

「………あの、おばさん」

「ごめんなさい、リサちゃんにも心配かけて………」

「ちょっと、お庭見てもいいですか?」

 眉をひそめた伊織の母は、しかし頷いた。無意味にそんなことをする子ではないと知っているから。

 そして伊織の母と一緒に谷内家の門をくぐり、玄関横、谷内家の小さな庭にある鉢植えの上。

 頭部を砕かれたノームの置物、傍らには工具としてはふさわしくないミートハンマー。その前方に置いてあったのは伊織が使っているハンカチに包まれた彼女のスマートフォン。

 チカチカと不在着信を示すランプが明滅しているのがハンカチ越しにもわかる………そしてそのハンカチに何か書かれているのも。

 思わずリサはそれを拾い上げ、ハンカチを解く。

「……………なに、これ……」

 無造作な文字だ。サインペンで、布の表面に書かれた文字は『I found you, idiot!!!』。

 異様な物品に立ち尽くしていると家の中から悲鳴が聞こえた。

「っ、おばさんっ」

「り、リサちゃん! 強盗に入られたかもしれない!」

 血相を変えた伊織の母。その手には、断ち切られた電源ケーブル。それは固定電話の電源ケーブルであった。

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