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ModernWitchProtocol  作者: 沢ワ
1章:InThisLife
17/21

17話:赤毛の日常

 鬼姫町のどこかの裏通りに男女がいた。

「ご、ごめんなさい………」 

 女の方はメアリー・スー。昨日の任務に関して、上司に報告に来ていた。

 報告というよりは失敗の謝罪だが。

「まぁ仕方ねぇよ。新人に任せる任務じゃないって散々言ったんだが………」

 ただ謝罪を受けた男、日本不老不死研究所戦闘部門主任である倉橋ツカサはメアリーに対してではなく、自分の上司に対して怒っていた。

「お、怒らないんですか?」

「怒ったり怒鳴ったりで改善するやつならそうしてる。オマエはそうじゃない、俺が怒鳴ったらビビっちまうだろ?」

「それはそーですケド………」

「それに俺が怒鳴るべきは上だ、俺を通さず任務渡しやがって…………」

 任務関連の書類は事後に来た。メアリーが出動したと知ったのは全てが終わったあと、抗議しても上はどこ吹く風だ。

 正直に言えば、倉橋は日不研の上層部との折り合いが悪い。向こうが倉橋のことを『頭が悪く暴力的手段でしか解決できない野蛮人』と思っているのだ、そんな奴らとは仲良くできないししたくもない。更に言えば倉橋は前所長の信者のようなもの、現所長とは死ぬほど仲が悪いということだ。

「俺が教えてほしいこと一つ目。実際フジワラリサと戦っててどう思った?」

「不死性に気付く前から捨て身の攻撃してきました、魔法はあんまり覚えてないみたいデス…………アタシに嫌がらせするために自滅前提の行動取ったり!! あームカついてきた!!」

「自滅かー」

「あっごめんなさい………」

「どんなことをしたときに捨て身の行動を取ったか覚えてっか?」

「あー…………多分アタシの『スキル』の動作を見切られてて、確実に『攻撃を当てられる』と確信したときですかね」

 そんな感じで情報のやり取りをし続ける二人。なんでこんなクソ上司まみれの組織にいるんだろ、とメアリーは倉橋へと尊敬と疑問を混ぜた視線を向ける。

「取りあえずオマエは休暇だ。しばらく休んだほうがいいかもしれねぇ」

「え、いいんですか?」

「俺が別件で出てた間ずっと働き詰めだったろ? そして俺はメアリー直属の上司、俺より上の連中がなんと言おうと休暇の受理は俺の権限」

「………その、大丈夫なんですか? これ以上立場と言いますか………」

「なんとかなるさ。ま、ゆっくり休めよ」

 そう言って倉橋は立ち去ろうとして、思い出したと話をし始めた。

「そういや他組織との会合が近々予定されてんだ」

「あ、そうなんですか? 倉橋さん行くんです?」

「そのつもりだったがお前が行け」

 しばらく沈黙。

 何を言われたか、何の話かを理解し、

「ムリムリムリムリですってアタシ硬っ苦しい会議とか絶対無理ですって!! 転生前も中卒でバイトすらしたことないですし!!」

「安心しろよ、別にプレゼンしろってわけじゃねぇ。所長サマの護衛だ」

 倉橋は笑いながらそう言った。護衛だとしても、組織を代表していくのだからある程度の地位があったほうがいい、はずであるが…………。

 倉橋がメアリーに任せる理由は3つだ。

 1つ目は普通にメアリーへの信頼感、不死者として伸びしろがある若年層であり能力自体が強いこと。

 2つ目は他の組織も若いメンバーをよこす可能性が高いこと。

 そこまで話して、3つ目はメアリーへの信頼とかそういうものではなかった。

「3つ目の理由は、所長サマの後頭部を見たら吹き飛ばしたい衝動に駆られるからだ」

 ────色々と複雑な事情があるのだろう、と結論付けた。

 倉橋が去っていくのを見て一週間分の休暇をどう使おうか、なんて考える。

 自然な動作で裏路地から出て日の当たる表通りへ。色々とやらかした結果、色んなお店が入っている鬼姫モールは現在閉鎖中。これではウィンドーショッピングも出来やしない。ただ都営地下鉄の駅があるので電車に乗って渋谷やら池袋などに行くのもいいかもしれない、とメアリーは考えながら歩いていた。

 そんなふうに考えていたからだろうか、前方から歩いてきた男が目に入らなかった。

 誰もが関わらないように目を逸らし、距離を取るような男である。最近の事件頻発によってこういった輩は鬼姫町に増え始めた。隣町の武川からやってきたチンピラだろう、その男はメアリーの顔を見るなり微妙に進路を変更し、

「っ」

 なんと古典的なやり方であろう、肩をブツケてきた。わざとらしい演技で痛がるその男、取り巻きもギャーギャー騒いでいるが…………

(………………マジうざ)

 相手にした女が悪い。メアリーは裏社会の、それこそヤクザの事務所を襲撃し組長の開きを作ることに何の抵抗もない女である。

 剣呑な視線で男を睨むメアリーが、明確に何かするよりも先に、なんか具体的に表現したくない痛みを伴う攻撃がチンピラへ向けて飛んできた。キーワードは股下である。

 男と取り巻きが何やら抗議をし始めようとしたがメアリーの前方と、背後から来た少女を見て固まる。

 まずメアリーの後方、男たちの目の前にいるのは数年前この近くにいた暴走族に袋叩きにされ、退院後に下手人たちを壊滅させた『武川二中の猛犬』鹿島紅稀。その風評以外にも198cmの長身とその鋭い眼光故に男たちは震え上がった。

 そして振り向けば後ろにいるのは身長185cmの女。にこやかだが、目は笑っていない。少女らしいミニスカートから伸びる脚は確かに美しいのだが一目見てわかる筋肉量。

「あれ、平山じゃん。そこの赤毛は友達?」

「いや、知らない子。でも困ってそうだったから」

 柄の悪い男たちはたぶん厄日だったのだろう。

 平均握力95kgの女子高校生に挟まれ…………頭を下げて逃げていった。

「大丈夫かー………って、外人? 日本語わかる?」

「わ、わかるけど………大丈夫、えっと助かった、あんがと」

「最近治安悪いからねー。あんまり一人で歩くと危ないかも」

「だなー」

 今まさに一人で出歩いている鹿島紅稀と平山栞菜は笑いながら言った。

 一般人なのにコイツらなんなの、とメアリーは思っていたが取り敢えずは離れようと思った。

「そ、それじゃぁこれで………」

「あーちょいまち」

 それを紅稀が止める。

「暇? 折角だし一緒に遊ばね?」


 数分後。

(なんでこうなったんだか…………)

 メアリーは紅稀や栞菜と一緒にゲームセンターに来ていた。道中再び絡まれていた少女も巻き込む形である。

「へー、メアリーってあのお嬢様学校の生徒なんだなぁ………ゲーセンとか来て大丈夫かよ、校則がめんどいんだろ?」

「バレなきゃ平気。てか校則のことなんで知ってんのよ」

「知り合いが元生徒だった」

「あー…………」

 そういえば去年超絶口煩いのがいたな、と考えてみる。メアリーは表の身分としては普通の高校生、鬼姫町に近い私立美杜女学園高等部に通学している。

 正直に言えばカモフラージュ程度の価値しかなく、通う理由なんて一切ない。馬鹿げた校則もお上品に見せかけて結局普通のガキな同級生も何もかもウンザリだ。

 その点では疎まれてはいたが本物の『真面目ちゃん』だった()カガミは面白いやつだったと思ってはいる。

「アイツ、上手くやれてる?」

「あたしみてぇな暴虐が普通に友達できてるレベルだぜ? 大丈夫だ」

「暴虐レベルでは」

 絡まれていたもうひとり、一応メアリーの同級生に当たる女子生徒と一緒にクレーンゲームをしている平山栞菜を見る。

「あっちの茶髪も大差ないと思うけど」

「平山なぁー、意外と手が早いよな。けどあいつ中学校が京都らしくてよ、中学時代に何かしでかしてたとしても分かんねぇんだ」

「やらかしてた前提なの?」

「うちの高校にはそういうのが何故か集まるからな」

 ケラケラ笑いながら適当な格闘ゲームをやろうとする紅稀。

「対戦するか?」

「見てるだけのほうがいい。アタシ下手くそだし」

「そう? ま、あたしも下手だけどよ」

 そう言って適当に強そうなキャラを選んで近くの筐体のプレイヤーと対戦する紅稀………着実に追い詰められている。

「下手くそ」

「うっせ! てかやけに強いぞコイツ!」

 そう言うので近くを見てみるメアリー。小さいボサボサ頭の少女が同じゲームをしていた。

「相手小学生よ?」

「小学生!? ……………そいつの頭ボサボサじゃね?」

「え、まぁそうだけど」

「あンのe-sports選手め………」

 知り合いらしい。

 圧勝して煽りに来るボサボサ頭、即ち谷内伊織。このちっさいのも同級生なのかと考えながらも、その後ろにはメアリーも知ってる顔。

「あ、サカガミだ」

「スーさん、久しぶりですね。人の名前を覚えないのも相変わらず、ナカガミですよ。校則的に大丈夫ですか?」

「高校違っても口煩さは相変わらずか………」

「口煩いとはなんですかまったくもう…………反省文などの非効率極まりない罰則があるのでそこを心配しているのです」

 やっぱり口うるさ、と思ってうんざりする。

「休日も制服着ないといけない校則があったはずですが………」

「ん? アタシはパス、下らないしダサい制服で出歩けなんて御免だわ。あっちは知らね」

「あっち?」

 栞菜の方を見る。一緒にいた美杜の女子生徒と共にクレーンゲームで轟沈したらしい、めっちゃガックリしていた。

「飯森さんですか………彼女も?」

 聞いてきます、と梓が向かう。あいつ自分がめっちゃ疎まれてんの知ってるはずなのに、と微妙な表情をするメアリー…………さっきも口煩いと言われたら泣きそうな顔をして怒っていた頃とは対応が違う。

「あいつ何かあったの?」

「ん? 何かって?」

「同じクラスになったことはなかったけど、中学の時とは随分と印象が違うんだけど」

「そこのボサボサなチビと同列にマスコット扱いだぞアイツ」

「マスコットォ? あいつが? 精々選挙投票呼び掛けのマスコットでしょうよ」

 とにかく馴染めてはいるらしい。

 確かに、クレーンゲームを遊ぶ梓なんて中学校時代からは想像できない話だ。

「楽しそうね、アンタら」

「まあね。どっかのテロリストが鬼姫モールで暴れなきゃ買い物の予定だったんだが………」

「…………まーそうね」

 あの金髪クソ女、とエリスに便乗して大暴れしたメアリーは自分のことを棚に上げて苛立つ。そもそもあの魔女が戦場にあそこを選ばなければ封鎖されたりなんかしない、と溜息。このくらい図太くなければ裏社会ではやっていけないのである。

「………ちょっと格ゲー楽しそうだしアタシもやって見る」

「おっいいねー」

「ボサボサちゃん付き合ってー」

「あいよー」

 とはいえ、メアリーは表社会にも居場所がほしい。

 何せ…………一度目の人生では、マトモに送れなかったのだから。

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