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8話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は男同士の友情の行く先が読めない

この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。


他にも多数企画参加作品がありますのでよければお読みください。


あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。

「「む、無限ってどういうことだ(ですか)!?」」


ヨミは、声を揃えて訪ねてくる二人に対し「仲良しだなー」と呑気に考えていた。


「お前は、魔力量に関係なく、一つの言霊スペルスピリに対し5つという条件を守れば、何度でもいくつでも言霊スペルスピリポイントを贈れるのか」

「えと、そうですけど? え? みんな違うの?」

「「違うわ(います)!」」


またもや二人の声が揃う。


「いいですか? ポイントというのは魔力によって練られたものと言われています。つまり、魔法とほぼ同じもの、のはずなんですが……ポイント限定なんですよね」

「ああ、うん。他の魔法を行使したらすぐに魔力は空になるよ。ほぼ魔力持ってないし」


クエスが、ヨミに対し覆いかぶさるように問い詰めてくる。

垂れた緑色の髪が光を通して輝いて美しいなとヨミは思っていた。


「気持ちは分かるが、落ち着けクエス」

「しかし!」


ハインリヒはクエスの肩を掴み身体を無理やり起こす。

仰け反っていたヨミは身体をなんとか起こしながら、問いかける。


「えーと、それってそんなにすごいこと? ただのポイントが誰にでも5つまでならあげられるってだけだよ?」

「「だから! それがすごいんだよ(ですよ)!」」


今日はよく揃うなあとヨミは思わず笑ってしまう。

そんな笑うヨミにハインリヒが両肩を掴んで迫る。


「いいか、俺は確かに、お前の能力は世界を変えると言った。だが、それは十年二十年かけて実を結ぶような途方もない時間が必要だ、と考えていた。しかし、お前は一か月だけで既に成果を見せている。ただ偶然が重なっただけかと思ったが、まさか、無限に星を贈れるとは……」

「ヨミ、今、分かりやすくこの国で起きているのは、『新人ライタの増加』です」


クエスが、指を一本立てて、ヨミに説明を始める。


「新人の増加?」

「まず、一部の新人ライタは名も売れていない為、星なしが続くことはよくあります。そして、何割かは星が得られないことに絶望し、ライタとしての活動を諦めます。しかし、ここで数個だけでもポイントが贈られていたならば、次回はもっと貰えるかもしれないと、次話や新しい言霊スペルスピリを生み出すでしょう」

「有名な【光を紡ぐ者(ライタ)】であれば、取るに足らない輝きかもしれないが、ゼロの者にとっては一つの星さえも、導きの星となるんだ」

「あなたは、その可能性を全て救いあげることが出来るのです。無限の星を贈れる以上」

「でも、私は」

「ああ、闇雲に贈る必要はない。ただ、『お前が星を贈り続けていることで折れずに言霊(スペルスピリ)を生み出し続ける勇気を与えられた新人がいて、その新人がいつか大物になる可能性を残した』ということだ」


ヨミを挟みながら、ハインリヒとクエスが時に熱っぽく、時に優しく慈しむように声を掛ける。


「いいか。お前は、お前自身が、星なんだ。星は空に当たり前のように、そして、無数にあり、お前という存在をはっきり認識してもらえないかもしれない。だがな、お前はいつの間にか導きの星と定められ、多くの人々の勇気となっているんだ。お前は、凄い。誰が何と言おうと」


ハインリヒの金色の瞳がヨミの黒い瞳に映る。それもまた、夜空に輝く導きの星のようであった。ヨミは高鳴る胸を押さえ、身体から溢れる熱を感じ、言い表せぬ感情に打ち震えた。


名を知られぬことが悲しくないわけではない。

しかし、それ以上に、誰かを救っているという事実が、ヨミの心に喜びを与えた。

ただ、無限に星を贈るだけの才能。けれど、これは無限の可能性を秘めた才能なのだ。


そして、人というのは実に不思議なもので、目の前が開けるとまた見えるものが変わってくる。

ヨミは感じた。

ハインリヒにもクエスにも感じられなかった


「あの入り口近くに、言霊スペルスピリが……!」


その言葉にハインリヒとクエスは即座に反応。


言霊スペルスピリ『罠踏-TRAP TRIPPER-』我に恩恵を。愚者の足を奪え。〈竜の歯(ドラッヘツァーン)〉」


ヨミの部屋入り口付近の床から一斉に牙が生え、うめき声が起こる。


「がっ……!」


その瞬間、男の姿が現れる。そして、紫の言霊スペルスピリも。


「【恐怖(ホラー)】の言霊スペルスピリか!? どこのスパイだ?」

「王子! 恐らく、音を消すことで認識阻害の恩恵を受けているかと!」


クエスもまた灰色の言霊(スペルスピリ)『机上のムロン』を使って、スパイの言霊の能力を看破する。

スパイの判断は早かった。

投擲武器をヨミに投げつける。それを阻止するハインリヒ。

その隙に、駆け出し、脱出を試みようとした。


「逃がすか」

「援護します。言霊スペルスピリ『机上のムロン』我に恩恵を。草魔法〈追う蔦(チェイシングアイビィ)〉」


ハインリヒがスパイを追いかけると、クエスが魔導書から言霊スペルスピリを召喚し、恩恵による魔法を行使する。現れた蔦は地面を物凄い早さで這いまわり、スパイの足跡を正確になぞりながら追いかけていく。

ハインリヒを追い抜いた蔦がスパイの足を絡めとる。


「ちい! 何もかもが早すぎる!」


スパイは恨めしそうにつぶやきながら、逆手に持った短剣で蔦を切り裂いていく。

しかし、その隙にハインリヒが辿り着く。


「な! もう?!」

「強制移動の罠を自分にかけた。さあ! 言霊スペルスピリ『罠踏-TRAP TRIPPER-』恩恵を我に! 罠魔法〈竜の顎(ドラッヘキイファ)〉!」


スパイの頭上、そして、足元から牙が、いや、大きな口が現れ、全身を挟み込む。

骨が砕けるような嫌な音を立てながらスパイが挟み込まれる。

そして、そのまま動かなくなる。


「こ、殺したんですか?」


ヨミが真っ青な顔でハインリヒに問いかける。

ハインリヒは見たことのないヨミの表情に驚きながらも答える。


「いや、大怪我はしてるかもしれないが、殺してはいない。情報も欲しいしな」

「そうですか……よかったです。では、この言霊(スペルスピリ)は私が預かってよいでしょうか?」

「え? あ、うん」

「ありがとうございます! 明日には返しますので!」


言霊を抱え、キラキラと目を輝やかせるヨミにハインリヒは苦笑せざるを得なかった。


「もし、俺が大けがをしたら、真っ先に心配するのは、言霊のことか、それとも……」

「知りたくないですね」


同じように苦笑しながら、クエスが近づいてくる。視線の先にはその場に座り込んで、もう紫の言霊(スペルスピリ)を読み始める濡羽色の髪を床に垂らすことも厭わない女がいた。


「しかし、無限に星が贈れるとはな」

「世間的なヨミの重要度が一気に上がってしまいましたね。まずは、警備を強化しましょう。あの男もそろそろ向かっている頃です」

「ああ、あの『姉狂い』か」

「嫌そうな顔をしないでください。彼が一番適任ではあるんですから」

「しかし、色んな意味で大変になるかもな」

「ヨミを『色んな意味で』狙う者が増えるでしょうね」

「クエス、一時停戦、同盟だ。有象無象から守るよりも、お前と直接対決の方がまだ気持ちがいい」

「同感です。私はあなたのヨミへのアプローチを常識の範囲内であれば止めません。代わりに」

「俺もお前のアプローチを止めない」


大きく片頬をあげて笑う黒髪の王子と、妖しく緑の美しい瞳がちらつく目を細めた青年はがっちりと手をつないだ。


「あの二人、仲良しよねー」


ヨミはスパイの言霊スペルスピリ第一章をよみおえ、顔をあげた際に見えた光景に対し呑気にそう呟いた。

自分が色んな意味で狙われているとも知らずに。





恐怖(ホラー)】の言霊(スペルスピリ)

音喰(オンク)

☆2つ(第一章までで)

【名無】作。主人公は自分の部屋らしき場所で目を覚ます。らしき、というのはその部屋が真っ暗だったからだ。物音はする。魔導具が動いている音やねずみが走り回る音、虫の鳴き声。そして、それとは別に禍々しい気配。何か大きく危ない化け物が這いずり回っている。

そして、何かを食べる音。すると、音が一つ消える。一定の間隔で化け物は家にあるものを食べている。暫くしてその条件が分かる。『音の大きなもの』からだ。少しずつ静かになって聞こえてくる。自分の、心臓の音。食われないよう音を生み出し、食われる前に倒す方法を考えなければならない。何故か外に出られないから。という物語。

視覚が存在しない世界を描くという挑戦。音が溢れ、奇妙な感覚に陥る。

ただ、あまりにも音の情報が多すぎて読みづらいところも。


お読みくださりありがとうございます。


少しでも楽しんでいただければ何よりです。


また、☆評価やブックマークをしていただけるとありがたいです。


よければ、今後ともお付き合いください。


そして、空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』には他にも様々なジャンルでポイントの大切さを訴えた素敵な作品がありますので、下のリンクから企画内容をお読みいただき、是非他の作品も読んでみて下さい!

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