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7話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢はカレンダーが読めない

この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。

ブクムント城。そこは鍛え抜かれた屈強な兵たちが揃う難攻不落の城である。

この国の王や王子が騒がしいのを嫌うことから、城の中は訓練場での激しい剣戟の音や魔法の炸裂音を除けば、恐ろしいほどに静かである。

その中でも、一際静かな場所がある。


『彼女』の部屋だ。

その部屋では、彼女と、物語を刻まれた精霊『言霊(スペルスピリ)』、そして、口を潤す為の水差しと器だけがあった。

彼女は、一日中【検索サーチ】の魔導具を使っては、新たな言霊(スペルスピリ)を呼び出し、真っ黒な瞳をせわしなく動かし、よみ尽くす。

そして、星を贈る。

時には、贈らないこともある。

その時の彼女は星の代わりに小さな感謝を込めて祈りを捧げる。

ただ、それを繰り返す。

今も又、濡羽色の髪を掻き上げながら、言霊スペルスピリと向き合う。


突如、がちゃりという音が鳴る。

静かな部屋では異常に響いた。

ドアが開かれる。

さらりとした黒い髪、金色の意志の強そうな瞳、背も高く、ぎゅっと鍛えられた身体、溢れる魔力、全てを兼ね備えた男が息を切らして立っていた。

そして、息を小さく吐き大きく吸い込む。


「ここに来て一か月経ってるんだが! いい加減外とか出なさい!」


黒髪の王子、ハインリヒは叫んでいた。


「お母さんかよ」


ヨミは顔を歪ませてちらちとハインリヒの方を見た。


ヨミがブクムントに来て一か月。ヨミはほとんど部屋から出ることはなかった。

言霊(スペルスピリ)をよみ、星を与えるのが自分の仕事である以上、外に出る必要もなかった。魔女と呼ばれる母親はどうせ好き勝手生きてるだろうし、星を贈るだけでご飯も用意され、家事もしなくていいなどヨミにとっては最高の環境であり、これ以上望むものなどなかった。

そんなヨミをこの国の第一王子であるハインリヒはかわいそうな目で見ていた。


「お前は、年頃の娘がするような事をしてみたいとは思わないのか」

「と、言いますと?」

「服を買ったり、化粧をしたり、街に出て買い物に興じたり、美味いものに興奮したり」

「ああ……疑似体験ではありますが、言霊(スペルスピリ)で出来ますし」

「色恋にうつつをぬかすとか」

言霊(スペルスピリ)で出来ますし」


ハインリヒは表情一つ動かすことなく、言霊(スペルスピリ)を読みながら、この国の第一王子の応対をするヨミの様子を見て大きく息を吐いた。


「分かっていたとはいえ、手ごわい相手だな。邪魔者も増えたし」

「おや、邪魔者とは心外ですね」


ハインリヒの後ろから緑の髪、緑の瞳の華奢な青年が現れる。


「あれ? クエス?」

「やはり気付いていませんでしたか……生返事だなとは思っていましたが」


緑髪のクエスは苦笑しながら、ヨミのもとへ向かう。

そのクエスを追い抜いてハインリヒがヨミに話しかける。


「こいつはお前がブクムントに来た翌日にやってきて挨拶したはずだが……なるほど、よほど興味を持たれていないのだなあ」


ハインリヒは、ヨミとクエスの間に立ちクエスの方に向き直ると、勝ち誇ったように笑った。

それを見たクエスは表情を変えず淡々と答える。


「そのようですね。けれど、それもまた一興。私を無視するだなんてそんな(ひと)は今までいませんでした、ふふふ」

「お前も大概変人だな。まあ、精々頑張るがいいさ。気付いてもらえるように、な」


ハインリヒは恍惚の表情を見せるクエスに呆れかえる。


「あれ? 王子、髪切りました?」

「……これまでお前とは何度も何度も何度も俺がここを訪れて顔を合わせているはずなんだがな」


クエスが入り口のほうを向いて震えているのをハインリヒは睨みつける。

ヨミはその様子に首を傾げたが、はっとしたように立ち上がると、机の下にある引き出しから鋏を取り出し、じょきんと前髪をきった。


「お! お前……何を」

「え? 髪が伸びてたから、言霊スペルスピリをよむのに邪魔だったのできっただけですが?」

「もしかして……お前のその前髪揃ってる髪型って」

「自分で切ってます。後ろは面倒なので放置してます。よむのには邪魔にならないし」

「王子……この(ひと)はこういう人です」


クエスがハインリヒの肩に手をぽんとおくと、ハインリヒは天を仰ぎ言い聞かせるように二度小さく頷いた。


「それで、今日は何の御用です?」

「お前が来て一か月たった。その間お前はこの部屋からほとんど出ていない。それまでの変化を話しておこうと思ってな」

「変化?」

「お前は気づいていないだろうが、お前によって大きな変化が起きているんだよ」

「はあ」


ヨミには興味も実感もなかった。ヨミは言霊スペルスピリを読んでいただけだし、これからも読むだけだ。ただ、一か月前に言われた『星を贈ることで世界が変わる』という物語のような話はずっと頭に引っかかっていた。


「えーっと、私が星を贈ることで変化が起きるってことでしたが、え? 意味ありましたか?」

「「意味しかないぞ(ありませんよ)」」


二人が同時に答える。


「はあ、本当に? やっぱり信じられないわ。だって、私があげられるのみんなと同じ、星一人5つまでですよ? みんなと同じなのになんで私だけ?」

「お前だけの才能ってのは星を贈ることじゃない。『実際に』星を贈ることだ」

「それもみんな出来ることじゃ」

「出来るのとするのは違います。そして、それを続けられることも」


ハインリヒとクエスの言葉にヨミはただただ首を傾げた。


「まあ、実際にどういう変化が起きているか話した方が早いだろう」

「そうですね、一番分かりやすいのが、『言霊スペルスピリの平均星量の上昇』ですかね」


クエスが、魔導書から【名刻(ブクマ)】していた言霊(スペルスピリ)を呼び出す。

白い【思想(エッセ)】の言霊スペルスピリだ。


「この言霊(スペルスピリ)はこの国の言霊研究家が最近のこの国の言霊について語ったものです。それによると、この国の言霊スペルスピリの星の量は日に日に増えているそうです」

「うん、けれど、それは別に私が関係あるとは」

「おい、ヨミ。ここにお前がまだ出会っていなかった二つの言霊スペルスピリがあるとする」

「ない」

「あるとする! たとえだ例え!」


ハインリヒが声を荒げる。ヨミは、未読の言霊スペルスピリに出会えたと、わくわくしていたのに嘘を吐かれ頬を膨らませた。


「内容はほぼ同じ。一方は(ポイント)はゼロ、一方は(ポイント)は6だったとしたらどちらを読む?」

「どっちも読む」

「どっちかしか読めないとしたら」

「なんで!?」

「なんでも!」


ハインリヒとヨミがたとえ話について声を荒げてぶつかりあっていると、苦笑いしながらクエスが割って入る。


「ヨミに、言霊スペルスピリのたとえを使ったのが間違いでしたね。まあ、一旦落ち着きましょう。ヨミ、お菓子を食べませんか?」


と、クエスは二つのお菓子の箱を取り出す。

どちらも箱に同じ店の刻印が金色で入っており高級感が溢れている。

箱を開けると、同じようなチョコレイト。だが、左側のお菓子は綺麗に全部そろっており、右側は12個中3個減っている。

ヨミは何も考えずに右側のチョコレイトを手に取って口に放り込む。


「ヨミ、何故右側から?」


クエスが微笑みながら問いかけてくる。


「何故?」


ヨミは理由などないと考えていた。偶然だと。けれど、仮に偶然でないとしたら一体何がその原因となったのか。


「減っていたから、かしら」

「そうですね。まあ、多少運の要素もありますが。他の人が食べていたら多少の安心感があるでしょう? ポイントも同じです。誰かがよんでポイントがついていれば、ポイントを良くも悪くもつけやすくなるわけです」

「つまり、誰かがポイントをつけることで、他の人間もつけやすくなり、評価がはっきりし始めるということだ」


ヨミとクエスの会話に、ハインリヒが面白くなさそうにチョコレイトを口に運びながら割って入る。


「これによって、今ブクムントでは、かつてない言霊(スペルスピリ)の輝きが増している。得られる恩恵も今までの比ではないだろう。……まあ、俺の目には狂いはなかったということだ」


ハインリヒが立ち上がり、ヨミの顔に自身の顔を寄せる。

自信に満ちたキラキラした美形の笑顔に、ヨミは目を細める。

と、クエスが遮るように手を出す。


「おい、クエス何のつもりだ?」

「休憩時間が終わりました。戻りましょう。約束は守りましょうね」

「お前、その為にチョコレイトまで使ってたとえ話で時間稼ぎしたな。……食えないやつだ」


ハインリヒは観念したようにヨミから離れ、去ろうとする。


「ヨミ、私もあなたの力を信じています。そして、私こそが貴女を最高に輝かせることの出来る頭脳の持ち主です。覚えておいて下さ」


がしっとクエスの肩をハインリヒが掴む。


「なんです、か……?」

「お前は、ウチの相談役として雇われ仕事をすることでこの城に入れていることを忘れるな……さあ、俺と一緒に楽しく仕事をしようじゃないか。お前が、いくら頭切れようと腕力は俺の勝ちだ。逃れると思うな……!」


ハインリヒがクエスを引きづっていく。


「ああ、ヨミよ。こいつの他にもブクムントに来てる者達がいるから部屋から出て会ってやれ」

「え? へえ、はーい」

「100人程度だからな」

「100人!?」

「これからもっと増えるだろうし覚悟しておけよ」

「あ、そう」


ヨミは苦笑いを浮かべながら小さく頷く。

性格悪いハインリヒが自分を騙そうとしてるだけだろうとヨミは高をくくっていた。


「ああ、そうそう。ヨミ様、そのチョコレイトは魔力が回復する効果がありますから。全部食べてしまってください。星を贈る為にも」

「へー、ありがとう。まあ、私もみんなと同じで星を無限に贈れるから大丈夫よー」

「「へー……はあああああああああああああああああ!?」」


ハインリヒが立ち止まり、クエスが立ち上がり、大声を上げる。

静かな城内に二人の声が響き渡る。






星を贈る。

それは魔力を練って星を生み出し言霊(スペルスピリ)に贈ること。

神の意志により一つの言霊に対し5つまでしか星を贈れない。

そして、魔力量を超えて星を贈ることは出来ない。

ただ、稀に無限に星を贈れる神の愛し子が現れるという。

思想(エッセ)】の言霊スペルスピリ

『星贈りの巫女』

☆なし。ヨミ未読


お読みくださりありがとうございます。


少しでも楽しんでいただければ何よりです。


また、☆評価やブックマークをしていただけるとありがたいです。


よければ、今後ともお付き合いください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ、なんでヨミと他の人で価値観に違いがある気がするなぁと思ったけどやっぱりそういう……
[良い点] はじめまして、企画よりおじゃましました。 面白くてここまで一気に読みました! ヨミとハインリヒのさくさくとした人となり、みもふたもないやり取りが好きです。 言霊のシステムもまた面白いです。…
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