5話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢はメイドの土産に読んでみた
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
詳しくは空野奏多様の、『【9/20規約改定】書き手の力はすごい……はず!〜気付いたら企画化していたので、ポイント評価が増えるかもしれない『ブルジョワ評価企画』をご説明します〜』
https://ncode.syosetu.com/n1221hf/
をご覧ください。
「う~……ああああああああああああああああああ! あっ!」
ヨミは、大口空けたままのトランクを力任せに押さえつけ、一瞬の隙を突き、鍵を掛けた。
四角いはずのトランクが丸くなっているように見えたがヨミは深く考えることをやめた。
「これで最後、だね」
ヨミは空っぽになった自分の部屋を見回す。
「……まあ、特にさみしさもなんもないけどね!」
ヨミの言葉は、半分は本当で半分は嘘だった。
この家自体にそこまでの思い入れはなかった。
ただ、ここが空っぽになるということは、この地を離れるということ。
この地にある言霊とは会えない可能性が高い。
勿論、【光を紡ぐ者】が語り終え、言霊が成長を終え大人になり、語霊と変化し、有名になれば、より広い世界で召喚可能となる。
場合によっては、書霊となって、魔本化され、世界中に流通することだってある。
しかし、それはほんの一握りだ。
きっとこの地の言霊と向こうの国で再会できることはほとんどないだろう。
トランクを引きづりながら、ここで出会った素晴らしい言霊達を思い出していた。人間との思い出はあまりなかった。
ハインリヒとの待ち合わせ場所に辿り着く。
まだハインリヒはついていなかったが、薄く青く点滅する言霊がそこにいた。
「星が、貰えてないんだね」
ヨミは、愛おしそうにその言霊を撫でると、くすぐったそうにするように、ヨミには見えた。
「星が、欲しいよね? でも、私は、ちゃんと正しくみるよ。あげるかどうかは分かんないから」
誰かがこの光景とハイライトを失ったヨミの瞳を見れば、言霊が震えているように見えたかもしれない。
あわただしく、ハイライトを失った真っ黒の瞳が動き続け……そっと目を閉じる。
そして、手をかざすと、煌めく光が三つ、薄青の言霊に吸い込まれ、少しだけ言霊の光が増したように見えた。
【幻想】の言霊
『ありんこは堕天使を救いたい』
☆3つ。【有り寄りの蟻】作。主人公は偶然天使に救われたありんこ。しかし、天使は罪を犯し、堕天使として、地の底に閉じ込められてしまう。その堕天使を救うため、ありんこは大地を掘り進めていくというお話。
どれだけありんこが好きなんだというくらいありんこのリアルさが気持ち悪くも感動。特にありんこ視点での物の見え方が面白い。地面を掘り進めていく方法の変化や膨らんでいく自我への戸惑い、自覚と改革、それらがとても惹きつけられる。面白くなる期待も含めて☆を3つに。
「あ! あの!」
ヨミが振り向くと、息を切らしたメイドがこちらを見ている。
よほど、慌ててきたのだろう。声を掛けてきたものも、その後は必死で息を整えている。
足も震えていた。
「え? 大丈夫、ですか? どうかしました?」
「そ! その!」
「あ」の次は「そ」、この後、「こ、このー!」とか言って殴られたりするのかなーとヨミは相変わらずぼーっと考えていた。
「この言霊! 私の子なんです!」
メイドは、それを証明する為に、自身の魔導書を差し出す。
魔導書に書かれた刻印と、言霊に小さく刻まれた刻印が一致する。
「す、すみません! 私なんかが【光を紡ぐ者】とか偉そうにですよね! お嬢様が『あなたには才能がある』って言ってくれて、あ、お嬢様を責めてるわけじゃなく、私、この子がすっごく好きで!」
「分かるわ」
矢継ぎ早に話し続けるメイドの言葉を遮り、ヨミは、誰にも見せたことのないような柔らかな笑みを浮かべていた。
「あなたがこの子を大切にしていること。これからも、大切に育ててあげてね。私に、勇気をくれて、ありがとう」
ヨミは、遠くから手を振る黒髪の青年に気付き、その場を離れる。
メイドは、なんだかわからない感情に震え何も言うことが出来なかった。
「誰だ、あの女」
「あの素敵な言霊のライタです」
「青の言霊か……星いくつだ」
「えー……他人のまで聞きたいですか。まあ、いいか。三つです、今は」
「今は?」
「もし、彼女があのとってもかわいい言霊を育て上げ語霊に出来たならば、きっともっともっと輝くでしょう」
ヨミはほうっと息を吐きながら、潤んだ瞳で空を見上げた。
ハインリヒは、そんなヨミの様子を見て、大きく溜息を吐いた。
「どうしました? そんなに大きなため息をついて」
「お前は本当に言霊『が』好きなんだと思ってな」
「溜息を吐く理由になりますか?」
「お前はもっと人間もよくみたほうがいい」
「善処します」
「……で、引っ越しは?」
「王子が人と馬車を寄越してくれたおかげでなんとかなりました。これは道中でも必要な私物です」
と、ヨミは四角かったトランクを持ち上げて見せる。
「……そうか。お前の母親は?」
「母は、話を聞いたら『よっしゃブクムンドビールだ! 王子の奢りだ!』って言って一人で飛び出していきました」
「相変わらずだな、ヤツは。……言っておくが、ヤツの酒代は俺とお前の給金から折半な」
「王子の癖にケチくさ! って、私、仕事貰えるんですか!?」
「ああ、お前にぴったりのな」
「私に?」
ハインリヒは背中越しニヤリと笑うと、ヨミに向き直り答えた。
「星を贈る仕事だ」
「はあ~!?」
ヨミは、顔を歪ませ、大声をあげる。
「やかましいぞ、ほら、あそこのメイドがびっくりしてるだろ」
「いや、だって、そんな仕事聞いたことない!」
「俺が作った」
「はあ~~~!?」
遠くでメイドの「ぴゃっ!?」という声が聞こえた。
王子は薄く笑いながら、ヨミに近づき、ヨミの額に指をとんと当てた。
「確かに星を贈るなんて【闇から見る者】ならば、いや、この世界の人間ならば誰だって出来る。けれど、俺はその本質、そして、お前のやっていることがどれだけ凄いことか分かっている。お前もなんとなくかもしれないが分かっているはずだ。」
ハインリヒの指に熱がこもる。
思わずヨミは上目遣いに見上げた。
そこには、ただの腹黒王子ではなく、真剣なまなざしでヨミを見つめる美しい瞳の青年がいた。
「『星を贈ることを真に理解した者が、世界を変えることが出来る』」
指が離れる。
すっと周りが冷え込むのを感じる。
いや、自分の身体がひどく熱いことにヨミは気が付いた。
私が、世界を、変える。
なんとなくの感覚はあった。
だが、言霊と同じ、他者の言葉が輪郭を作り、なんとなくの感覚は確かな実感へと変わる。
「俺の言霊を正しく評価したように、あの娘の言霊を初めて評価したように、お前がこの世界の言霊を、お前の星で動かすんだ」
実感は確信へ、確信は勇気へと変わる。
「何度でも言うぞ。俺にはお前が必要だ」
ハインリヒは笑っていた。無邪気な、少年のような笑顔で。
「あ、でも、もう少し女は磨け。この荷物の詰め方はひどすぎる」
その無神経なコドモの一言に、ヨミは顔を真っ赤にして、その背中に四角かったトランクをぶつけたのだった。
そのやりとりをぼーっと見ていたメイドの背後に、一人の女が近づく。
「アンネ……何をしているの? 買い物は?」
アンネと呼ばれたそのメイドが振り返ると、金髪の小柄な、それでいて、大人の落ち着きを感じさせる淑女がそこにいた。
「お、お、お嬢様! わ、私の作品に星が……星が……ついています!」
「良かったじゃない……アンネ」
「私、誰にも見てもらえなくて、辛くて、悔しくて……た、多分さっきの人が」
「あの人は……!」
「お嬢様、あたし、必ずこの子を大人に、語霊にしてみせます! 応援してくださっているお嬢様やこの星をくれた方の為にも」
「ええ、きっとあなたなら、もっと素晴らしい言霊に成長させられるわ。ただ、もし次回があるなら、ありんこ以外の主人公も挑戦してみてもいいんじゃないかしら?」
メイド、そして、その主、遠くでは、隣国の王子と、星を贈るしか能のない女が、小さな一歩を踏み出していた。
お読みくださりありがとうございます。
ウレルは、人気があって『売れる』の方ではなく、金銭的やりとりが出来る『売れる』だと解釈していただけるとありがたいです。