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42話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は闇の夢をよんでみる

この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。


他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。


あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。

虚言霊(キョムルスピリ)

真っ黒なその言霊(スペルスピリ)とヨミは向かい合っていた。

そして、しっかりと見つめた。

その黒い輝く瞳で。


「やっぱり、そうか……」


塗りつぶされたような真っ黒に見えた虚言霊(キョムルスピリ)であったが、近くでしっかり見ると……それは、重なった文字だった。

普通の言霊(スペルスピリ)であれば、光文字で浮かび上がるはずの文字が真っ黒で何重にも重なってあの黒を生み出しているのだ。

真っ黒で、それでいて、膨大な言葉。

そして、これが大きくなり続けるのは恐らく……


ヨミは、星の輝きを生み出す。

手の中で星が煌めく。

ヨミは、思い出していた。

沢山の物語を、キラキラ輝く物語たちを。

あの物語達がなければ、今の自分はなかっただろう。

その感謝の思いが星の煌めきをより一層強くさせる。


すると、虚言霊(キョムルスピリ)の速度が上がり、こちらにどんどん近づいてくる。


「信じる……信じる……」


ヨミは自分の中に刻みつけるように言葉を繰り返す。


「信じる……物語と、星の力を!」


そして、ヨミは虚言霊(キョムルスピリ)に包まれた。



荒れ果てた街、キョゴンガイ。

掏摸詐欺強盗強姦殺人何かもが認められた狂った街。

その街の隅に人が血、汗、涎、糞尿色んなものに塗れて倒れていた。

人に名はなかった。奪われた。

そもそも女か男かももう分からない。

全てを奪われたのだ。

いや、残っているものがあった。

自分をここまで陥れた悪魔共の記憶と、憎しみだ。

ソレは自身のことをキョムと名付けた。

キョムは口を空けていた。

キョムには何もない。

だから、飢えを凌ぐために口を空け続けるしかない。

何かが入ればソレを呑みこむ。

気持ち悪い虫でもなんでも口に入れ、元気が出れば叫んだ。

恨み言を叫び続けた。

キョムはそのうちに気付く。

自分が人ではないのではないかと。自分は死なないから。

その瞬間、キョムの身体は黒ずみ、あった部分たちが生まれてくる。

キョムが望めば、形が変わり、女にも男にもなんにでもなれた。

ただ、潰してしまった喉だけは戻らなかった。

キョムは声なく笑った。

そして、闇に溶け、全てに復讐を開始した。



ヨミの目の前にはそんな文字が広がっていた。

ヨミは今、そのキョゴンガイというところであろう街に立っていた。

憎悪の目、厭らしい目、嫉妬の目。

数十はいるであろう影からの目にヨミはぞっとした。

じっとしていれば、自分もキョムと同じになるだろう。

ヨミは歩き出した。

しかし、影の目も付いて回る。

そして、ひそひそと、悪口陰口、厭らしい言葉、呪いの言葉が投げかけられる。


(ここにいれば狂うし、欲望に忠実になってもおかしくないか)


少し考え事をしたその一瞬、その瞬間に数人の半裸の男が飛びかかる。


ヨミは慌てながらも準備していた魔導具で攻撃をする。

それはハインリヒから与えられたものであった。


『お前も年頃の女なんだから、自衛の手段も持っておけ』


と言われた。

そのハインリヒに感謝しながらもヨミは必死に逃げ始める。

勿論、想定はしていた。

物語の中に〈没入〉するであろうと。

けれど、まさかいきなり襲われるとは思っていなかった。

ヨミは自身の考えが甘かったことに唇を噛む。


(にしても、これは……)


酷い世界だった。

至る所で、痛みに暴れるような声、泣き叫ぶ女の声、子供の泣き声、恨み言、罵詈雑言が聞こえ、数歩歩けば犯罪が行われている。


確かに、刺激的ではある。


物語の外から見れば。


ヨミはこう考えていた。


このまま、虚言霊(キョムルスピリ)が大きくなり続ければ、本当にキョゴンガイが世界中に生まれてしまうと。


言霊を植え付けられ、理性を失った獣と化した人間達が、欲望のままに暴れる世界。

それが生まれてしまうのだ。


ならば、どうやって遥か昔に生まれた時には治めることが出来たのか。

それは、母であるツムギが教えてくれた。


『魔導書を書き換えたのさ、ライタファザルを名乗った男が』


虚言霊(キョムルスピリ)を生んだ女を殺し、一度物語を止める。そして、持っていた魔導書を魔力によって書き換える。

ただ、あまりにも凶暴なこの魔導書は使われることなく王家の開かずの間で封印されていた。


魔導書はグラトがもっていた。そして、そのまま虚言霊(キョムルスピリ)に食べられ、グラトだけが半言霊人間化し、現れた。

であれば、どこかにその魔導書がある。

ヨミはそう考えていた。

しかし、今は襲い掛かってくる悪意から逃げることで精一杯で何も出来ない。

いや、このまま襲われて、自分自身も獣のように……!


震えるヨミを突然伸びる手が捕まえた。

そして、暗がりへと引きづり込む。


(やだ! やだよ!)


涙を零しながら必死で暴れるヨミを、その手は決して離してはくれなかった。

そして、


「ヨミ様……! 落ち着いてください……私です」


そこには、以前顔を合わせた時、学園の卒業パーティの時の美しく煌びやかな姿とは似ても似つかないオマージェが、いた。


お読みくださりありがとうございます。


連続更新ですみません。あまり邪魔にならないよう1,2時間の間隔を空けて更新しようと思います。一回失敗しました……汗

個人的に一か月で完結までと考えていたので今日で完結、もしくは、終盤まで……!


少しでも楽しんでいただければ何よりです。


また、☆評価やブックマークをしていただけるとありがたいです。


よければ、今後ともお付き合いください。


そして、空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』には他にも様々なジャンルでポイントの大切さを訴えた素敵な作品がありますので、下のリンクから企画内容をお読みいただき、是非他の作品も読んでみて下さい!

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