39話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢はすごいよんでます
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。
「うわあああああああああ! 高い! 高い! ってばああ!」
「あははははは! まさか、娘と二人乗りする日が来るなんてねえ!」
ヨミは母である魔女ツムギと一緒に風になっていた。
魔女らしく、箒に乗って。
「ちょ、ちょ、早いって!」
「急がないと間に合わないんだろう!?」
「だ、れのせいだと……」
ヨミは虚言霊を倒すため、大陸中を飛び回っていた。
本来ならば、〈天声〉ですむことだったのだが、ツムギには聖女の魔導書が呼び出せなかった。
(多分、心が薄汚れているからだろうな)
「今、めっちゃ失礼なこと考えたろ」
「ううん、なんにも考えていないわお母さま」
微笑みながらヨミは首を振る。
「こわ……あ、あいつだねえ」
ツムギが急降下すると、町が見えてくる。
そこは【ライタ=ニ=ナロウ】から遠く離れた山奥の町だった。
目当ての人物の前に降り立つ。
そのひょろ長い男は口をパクパクさせながら腰を抜かしている。
「あなた、『天才格闘家ボンボン』さんよね?」
「ほえ? な、なんで……?」
「説明はあとで! 私は、ヨミ! ヨミ=フェアリテイル!」
「え!? 言霊の女神!?」
「~~! まあ、それでいいわ! あなたの力を貸してほしいの! あなたの『拳人』の力を! 全ての道理を全部殴り飛ばす、あの気持ちよさ! あの力を今!」
「……な、なにか、世界に大変なことが起きているのは、知っています。ぼ、ぼくやります! こんなひょろいぼくでも力になれるのなら!」
「ありがとう! 簡単にだけ。『拳人』の話を詳しく聞かせてあげて欲しいの! お願いね! 詳しくは、向こうで聞いて! 母さん!」
「あいよ! 〈転送〉」
「え……ちょま!」
光に包まれ『天才格闘家ボンボン』と呼ばれた男は消えた。
「よし! 次!!」
「あいよ! しっかり捕まっておきな!」
驚く人々を尻目に、再び空に舞い上がる。
しかし、次の瞬間歓声があがる。
「ヨミ様! ツムギ様! ありがとう! よろしくお願いします!」
「私たちをお助けください! 私たちも出来ることはやりますから!」
次々と応援の声がかかる。
「なんで?」
「あの聖女様が言ったアレじゃない? 『ヨミ様が今がんばってますー』とか」
「ああ、そっか。そうよね」
光に包まれた『天才格闘家ボンボン』こと、ホネカーワは目の前に光景に驚く。
整然と並んだ赤肌の魔族たちがこちらをキラキラした目で見ていたからだ。
「ほんぎゃああああ! ナニココ!?」
「待っていたぞ! お前が『天才格闘家ボンボン』か!?」
ハインリヒがニヤリと笑いながらホネカーワに近寄る。
「あ、お、王子……はい、その通りです、て、天才格闘家ボンボンです!」
「おお! やはり、あの方が!」
「うおおおお! 大好きです!」
「やったぜ! まさかの神降臨!」
赤肌の魔族たちが大騒ぎを始める。
「静まれ!」
それを、ラファが戒めると一瞬で静寂が生まれる。
「あ、あのー、わたしは、『拳人』の話をしろと言われたのですが……」
「ああ、その通りだ。もう知っているかもしれないが、言霊を十分に操る為には、言霊の理解が不可欠なのだ。そこで、生みの親の話をこいつらに聞かせてやって欲しい。こいつらは、お前の物語の大ファンだ」
「ええ……こんな、強そうな人たちが……」
「お、おれ! 拳人に憧れて、めちゃくちゃ身体鍛えました!」
「お、俺もです! 『城ぶっこわし拳』が出来るようになりたくて!」
「俺も『概念ぶっこわし拳』を今練習中です!」
「え、ええ……というわけで頼む! こいつらならお前の物語を上手につかいこなせるはずだ!」
そう言うと、ハインリヒはどこかへ去っていく。
ホネカーワが目で追うと、遠くでは戦場となっているようだ。狂気を感じさせる化け物と戦っている人たちがいる。その手前では、同じように話をしている人もいる。
「つまり、『歩く死体と走る己』は、激しい動を生み出すために出来るだけ静を大切に作り出しているのです」
「なるほどー! 流石『腐り豆』先生!」
「つまり、メアアレが私の中心ではありますが、他を否定するつもりはありません。大切なのは愛なのです!」
「分かります聖女様! 例え、私少数派であったとしても私があのカップリングを自分自身の手で素敵な物語にしてみせます! ルールを守りながら!」
「なんか……すごい」
「あそこで熱く語る聖女様の声があなたにも聞こえたと思いますが、我々はあなたのようなライタと同じくらいリイダを尊敬しています。彼らは、あなたの言霊に沢山星を贈った者達です。もしかしたら、あなたよりも深い愛があるかもしれませんよ。彼らは彼らの人生の中であなたの言霊を力に変えているのですから」
緑髪の賢人クエスが、ホネカーワの横で微笑む。
「はい! いよーし! では、皆さん聞いてくださーい!」
ホネカーワが骨と皮だけの拳を握りしめ、屈強な男たちの元へ向かう。
クエスは、それを微笑みながら見つめ呟く。
「十分な戦力は整いつつある……やはり、貴女は女神ですよ」
遡ること数十分前、ハインリヒ達は笑っていた。
『家の高いブクムント酒! 捨てられたくなかったら来なさい!』
ヨミの声が聞こえたのだ。
それも転移罠で飛ばす前の弱弱しいヨミではなく、いつもの傍若無人な彼女の声。
そして、恐らく母親を呼んだのだろう。
何かヨミがやろうとしている。
それだけで彼らは笑い、力が沸いてきた。
「よし! あの言霊馬鹿が何かをしようとしている! 俺達も抗い続けるぞ!」
「義姉さん! 義姉さん!」
スクリムが異常な魔力を発し始めたが、一同は無視し、作戦を立てはじめる。
「まずは、イスト。お前の〈天声〉で大陸中に協力を募ってくれ『ヨミに協力するようにと』」
「はい」
「あとは……ん? 手紙鳥?」
魔力で作られた伝言用の手紙鳥がハインリヒの魔導書から飛び出す。
「……なるほど。イスト内容に追加だ。言霊の女神を信じるリイダ達にここに来るようにと、言霊を正しく導くことの出来るリイダの力が必要だと伝えてくれ」
「分かりました。では、私は」
イストが魔法を行使し始めるのを確認するとハインリヒは笑いながらクエスたちの方に向き直る。
「いいか、今からヨミが厳選した星持ちのライタ達が送られてくる。奴らの力を借りて、今から来るリイダの言霊を使う力を高めて、周りでぶんぶんうるさい半言霊人間や黒い言霊を倒す。元は人間だ。出来れば、拘束したい。俺の言霊に星大量にくれたやつを集めてくれ!」
「ヨミの厳選した星持ちライタか……楽しみじゃのう」
「ああ……奴の好みを知るいい機会だ」
妖しい笑顔を浮かべながら、ハインリヒ達は戦場へと向かっていった。
お読みくださりありがとうございます。
連続更新ですみません。あまり邪魔にならないよう1,2時間の間隔を空けて更新しようと思います。
個人的に一か月で完結までと考えていたので今日で完結、もしくは、終盤まで……!
少しでも楽しんでいただければ何よりです。
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そして、空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』には他にも様々なジャンルでポイントの大切さを訴えた素敵な作品がありますので、下のリンクから企画内容をお読みいただき、是非他の作品も読んでみて下さい!





