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38話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は自分の物語をよんでみた

この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。


他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。


あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。

「あの、大丈夫ですか?」


しゃがれた声、ぐちゃぐちゃの顔、これがこの街の女神だとは思わなかったのだろう。

なんだかそれがおかしくてヨミは笑ってしまった。

しかし、それもまたおかしな様子に見えたのか母親が心配したようにヨミをのぞき込む。

慌ててヨミは口を開く。


「え、ええ……だいじょうぶ。それより、星ひとつとはなかなかいい目をしてますね」


少しばかり調子を戻したヨミは軽口をたたく。


「あ、いえ、あの子、生まれつき魔力が弱くて……ようやく星一個だけ練れるようになったんですけど、それでも、毎晩毎晩読んでたあの言霊スペルスピリに星があげたくて、がんばったんです。けれど……こんなことになるなんて……」


母親は遠くを仰ぐ。


遠くに見える黒い虚言霊(キョムルスピリ)は恐ろしいほどに膨らんでいく。


「だいじょうぶだよ! ほしのゆうしゃさまがきっとたおしてくれるから!」


ヨミの瞳に金色の髪をした少女がうつる。



まるで星だ。

彼女は私の星だ。


一生懸命生きている彼女が輝いて見えた。


きっと彼女は、星一個練るのがやっとの魔力では今後言霊(スペルスピリ)を生み出すことも難しいだろう。


けれど、彼女は今輝いて生きている。


ああ、彼女はまるで物語の、言霊(スペルスピリ)の中の主人公だ。


そうでしょ?


私の目の前に、もう一人の少女が見える。


黒髪で真っ黒な瞳の少女が睨んでいる。

主人公になれなかったと悲劇のヒロインを演じる少女が。


『誰か一人でも僕の事を分かってくれるなら、たった一人でも戦い続けられるんだ』


ほんとだね、スクリム。

わたし、たたかうよ。

まずは、わたしと。


「もらえたよ」「星いっこもらえたよ」「うれしいね」


黒髪の少女はそれでも顔を歪めながら震えている。


「多分ね……今まで見えないだけで、いっぱい星を、輝きを、貰えてたんだよ。『ありがとう』とか『だいじょうぶ?』とかキラキラな言葉を、行動を、貰えてたんだよ。見えないけどきっと私、輝いてるよね? ねえ、輝いてない?」


黒髪の少女が見つめる。

そして、ハッとしたように目を見開く。


「君は、主人公なんだよ。君の物語の。ライタじゃなくても、リイダだって、主人公なんだよ。言霊(スペルスピリ)を力に変えて闘う主人公なんだよ」


(ポイント)を贈ることしか出来ない、


じゃない


贈ることが出来るのは凄いことだ


誰かの力になり


誰かの勇気になり


誰かのやさしさになり


誰かの希望になり


誰かの夢になり


誰かの導きとなる


星となる。




そんな凄いことが私にも出来る。

そんな凄い私は、まるで物語の主人公だ。

いや、主人公なんだ。

私の物語の主人公は私だ。


ヨミは、立ち上がり笑う。

不貞腐れる黒髪の少女はもういなかった。




「あ、あの……?」

「ありがとうございます」

「いえ、どういたしまして……?」


母親が首を傾げながら曖昧に頷く。


「ねえー! ありがとう!」

「うん? うん! どういたしましてー!」


少女は笑いながら手を振っていた。

眩しい笑顔で。

この輝きを守る。


少女と母親を見送り、ヨミは決意に満ちた黒い瞳でこちらに近づいてくる虚言霊(キョムルスピリ)を見つめる。


「さてと」


ヨミは魔導書を開き、言霊(スペルスピリ)を呼び出す。

呼び出すことに魔力の消費はほとんどないが、魔法を行使すれば当然魔力は減る。

少ない魔力のヨミにとって、何を呼び出すかは重要だ。

ヨミは……聖女の魔導書の言霊(スペルスピリ)を呼び出した。


代々聖女にしか使えない魔導書の言霊(スペルスピリ)

けれど、真実は違うのだろう。

あの、絶望に、虚言霊(キョムルスピリ)に立ち向かうことの出来る、恐ろしい戦いに身を投じる覚悟のあるものだけが使うことを許されるのだろう。

ヨミには呼び出すことが出来たのだから。


ヨミは金色に輝く言霊(スペルスピリ)を撫でると、魔法を行使し始める。


「恩恵を我に。〈天声〉」


人々に声を届ける〈天声〉の魔法。

イストが使えば大陸中の人にしっかりとしたメッセージを届けることが出来るだろうがヨミに出来るのは一言で精いっぱい、ヨミはすうーっと大きく息を吸い込み魔法を放つ。


「家の高いブクムント酒! 捨てられたくなかったら来なさい!」


少しばかりの静寂。そして、


「あ、あのー、き、来ましたー、てへ」


ヨミの目の前で罠魔法ではない、一流の魔法使いしか使えない〈転移〉の魔法によって、ふとっちょの男が現れる。


「ゴッツアン……あなただったのね」


ゴッツアンが腹を叩くと、光が溢れ、一人の女性が現れる。

ヨミと同じ黒髪、妖艶な身体と魔力、そして、絶世の美女が媚びへつらう情けない顔で台無しになっている。


「遅い」

「いや、秒で来たんですけど!?」

「もっと早くに助けに来てよ! お母さん!」


ツムギ=フェアリテイル。

ヨミの母親、正確に言えば、義理の母親、ヨミを拾い育ててくれた女性であり、『魔女』、言霊(スペルスピリ)の大天才だと言われる人物であった。


お読みくださりありがとうございます。


少しでも楽しんでいただければ何よりです。


また、☆評価やブックマークをしていただけるとありがたいです。


よければ、今後ともお付き合いください。


そして、空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』には他にも様々なジャンルでポイントの大切さを訴えた素敵な作品がありますので、下のリンクから企画内容をお読みいただき、是非他の作品も読んでみて下さい!

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