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4話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は腹黒王子の長編を読まざるを得ない

この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。

「では! ヨミ=フェアリテイル、急いで荷物を纏めると良い。俺と共にブクムントに行こう」


ハインリヒは、卒業パーティーの終わりを待たずに、ヨミを連れ出そうとした。

しかし、ヨミの背を押した手が動かず、思わずヨミを見る。


「お待ちください、ハインリヒ様」


(うわー、お前にハインリヒ様と言われるとか背筋が)

(うるさい、こっちだって鳥肌よ。言いたくないけど、こういう場だから我慢なさい)


笑顔のまま視線だけで会話を済ませると、ヨミはグラトの方へ向き直る。

びくりと身体を震わせるグラトと、どこか悔し気に睨みつけているオマージェに向けて、ヨミはゆっくりと声をかけた。


「グラト様、オマージェ……様、お元気で」


先程の勢いが失われた静かで丁寧なヨミの言葉に二人は思わず頷く。

が、グラトははっとしたように顔を挙げると、ヨミに向かって別れの言葉を告げた。


「今更殊勝な態度を見せても無駄だぞ」

「え、あ、はい。そういうつもりはありませんので。そして、先ほどのグラト様の言霊(スペルスピリ)で『言霊なんぞ一つ一つ丁寧に読む必要はない、ざっと読んでなんとなく理解できればあとは利用すればいいだけだ』とありましたが、言霊(スペルスピリ)は思いがこもればこもるほど輝きを増すと私は考えております。今のこの国の大量生産して使い捨てようとする方針には賛成しかねます。願わくば、言霊に寄り添う国であり、王となられますよう」


急につらつらと国家批判ともとられかねない発言をしたヨミに対し、グラトは目を白黒させた。しかし、その言葉がのみ込めて来ると今度はまた顔を真っ赤にし叫ぶ。


「貴様というヤツは、最後の最後まで! 追放など生ぬるい! 今ここで処刑してくれるわ!」


グラトは、腰に下げていた剣を抜き放つと、怒りの咆哮をあげながらヨミに迫った。

ヨミもまさかそんな愚行に走るとは思っておらず、硬直してしまう。

その瞬間、


言霊(スペルスピリ)、【罠踏—TRAP TRIPPER-】。我が声に応え、恩恵を貸し与えよ。土魔術〈成長する石壁(ワクス・ステマ)〉」


ハインリヒが魔導書から自身の言霊(スペルスピリ)を呼び出し、魔法を放つ。

突如として、ヨミの前に現れた石壁によって、グラトの剣は阻まれる。


「この、石壁は……ハインリヒか、きさ! ま……」


グラトは怒りの表情をハインリヒに向けるが、すぐに怯えに変わり震えはじめる。

視線の先にいる黒髪の美男子は、冷たく笑っていた。


「この者は、もう我が国民だ。俺が決めた。我が国民に手を出すならば、それ相応の覚悟があるのだろうなあ、この国の第一王子よ」


美しい死神だな。

ヨミは、腰を抜かしながら、そんなことを考えていた。

そして、その死神はヨミに近づくと、腕を身体に回し、ヨミを持ち上げる。


「げえ!」

「げえとか言うな」


まるで、囚われの身から助けられたような姫のような抱きかかえられ方に、ヨミは思わず、赤面してしまう。


「流石に照れるか」

「いや、どちらかというと、庶民が豪華な馬車に乗せられてるような居心地の悪さ」

「誰が馬車だ」


ハインリヒが窘めるように少し揺らすと、ヨミはこれ以上何も言いませんという意思表示とこの姿を生徒たちに見られている気恥ずかしさで身体を丸くした。


「まったく、お前の身に何かあったら俺は……」


ヨミの耳に、ハインリヒのまるでヨミを気にかけるような言葉が聞こえたが、そんなことはあるはずがないので、右から左へ聞き流しておいた。


「ハインリヒ! お前! その女を連れて帰って、後悔するなよ! 返すと言われても受け取らないからな!」


グラトが悔し紛れの言葉を投げつける。ハインリヒは、自分の胸元がぎゅっと強く握られるのを感じ、振り返りざまに高らかに宣言した。


「隣国の王子よ! お前は後悔することになるだろう! このヨミ=フェアリテイルを婚約破棄したことを、追放したことを、無能とさげすんだことを! 彼女の活躍をこの地で聞いて爪でも噛んでいればいいさ!」


今まで学園生活では見せたことのないような意地悪い笑みを浮かべハインリヒは去っていく。グラトはその言葉に唖然としたもののすぐに鼻で笑い言葉を返す。


「はっはっは! 楽しみにしているよ! ヨミ=フェアリテイルの、無能の、噂がここまでやってくることを!」


その言葉が届かなかったのかハインリヒとヨミはグラト達を見ることなく去っていった。


そして、この時、両国の運命が決まってしまった。





「ねえ、さっきの言霊(スペルスピリ)呼び出してくれない?」


ヨミはハインリヒの腕の中でそう呟いた。


「ああ……来い、【罠踏-TRAP TRIPPER-】」


ハインリヒの呼びかけに応え、青い言霊(スペルスピリ)が現れる。


「ありがとね……【罠踏】ちゃん」

「お前は言霊(スペルスピリ)を人のように扱うんだよな。というか、俺への礼は」

「あ、どうも」

「格差が激しい」

「まだちょっと立てそうにないから、お礼がてらに読み返してちょっとでも感想言うわ」

「……ありがたい。頼むぞ、俺はもっともっとコイツを素晴らしいものにしたいんだ」

「こんだけ輝いていて、まだ輝かせたいかね」

「ああ。それには、お前が必要だ」


妙に熱のこもったその言葉に、ヨミはどきりとしたが、ハインリヒの方を向きたくなかったので、そのまま、青い言霊(スペルスピリ)を見続けた。


「なんせ、お前は、俺のコイツに☆3つしか付けなかった女だからな」

「いや、妥当でしょ。だって、大分戦闘シーン以外雑だったよ。最初の頃」

「そういうことを無遠慮に言うから、お前は良い」

「……そりゃどーも」


ヨミは耳が赤くなってないか心配しながら、二人の前を漂い物語を見せてくれる青い言霊(スペルスピリ)に集中しようとした。

青い光に導かれるように二人は、この国の中心から離れていった。



幻想(ファンタジー)】の言霊(スペルスピリ)

『罠踏-TRAP TRIPPER-』

☆4つ。【ハイファ】作、幻想の言霊(スペルスピリ)。天才的な頭脳を持ちながら、論理的すぎるが故に想像力を必要とする魔法が使えない主人公は、魔法第一主義の人間達に疎まれていた。そして、主人公は、人に、国に、罠に、嵌められ、魔巣(ダンジョン)に閉じ込められてしまう。罠によってボロボロの身体で絶体絶命のその時、主人公は自分の本当の能力に気付く。それは、『体感したものを完全に魔法で再現出来る能力』。実際に触れ、痛みを受けたことで、主人公は罠の完全再現に成功し、魔物達を悉く打ち倒す。そして、誓う。自分が人に国に罠に嵌められた分だけ全員を同じように嵌めてやろう、と。というダークファンタジー。外道に落ち非道な振舞を続ける主人公なのに、傷つけば傷つくほど強くなるその能力も相まって、ついつい応援、守りたくなってしまう。初期の頃は、戦闘シーンが長く感じたが、徐々に心情表現が豊かになり、魔族の女性との爽やかな心の交流が、血なまぐさい物語のスパイスであり救いとなっており読みやすくなったように思う。Byヨミ


お読みくださりありがとうございました。


思った以上に作中のあらすじが気に入ってまた勢いだけで書いてしまいました…。

『罠踏-TRAP TRIPPER-』

https://ncode.syosetu.com/n4452hf/

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[気になる点] 作品から作品が生まれた!?!?
[良い点] もう時間経ったから良いかなと判断して書いちゃいます! まず、企画にご参加頂きありがとうございます! メッタメタなんですけど(褒めてる) だからこそこのファンタジーな世界観、婚約破棄とテン…
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