36話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は彼の表情がよめない
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。
「ヨミ様! まずは状況を説明します! 恐らく精神に干渉する【恐怖】に近い言霊だったのでしょう! 私やラファ様、魔族は比較的軽く済みました! アティファ様やイスト様、ハインリヒ様も多少影響は受けましたが耐えることが出来たようです。しかし、スクリム様、クエス様、シジェラ様、レイ様は……」
震えながら、エシルの視線を追うと、
「なんで! 分かってくれないんだ! 努力しないんだ! そのくせ馬鹿にしたように見下して! ああああああ!」
「クエス、落ち着け!」
「ごめん、なさい……才能がなくて、ごめんなさい……!」
「シジェラ様、意識をしっかり持つのです!」
「あああああああああ! 魔族が! 魔族がボクを! 彼らを殺したボクを見てる!」
「レイ……レイ……そんなものはおらん! 良いか、名前を呼び続けるんじゃ! 正気に戻るまで諦めずに名前を!」
「義姉さん!!!!! 義姉さん義姉さん義姉さん!」
「スクリム! それが私を倒した者の、強き者の姿か! しっかりしろ!」
恐怖に震え泣き叫ぶ者とそれを落ち着かせようと呼びかける者。
もはや、虚言霊と戦える者はいない。
その虚言霊はヨミたちを通り過ぎて【ライタ=ニ=ナロウ】の方角へ動いていく。
恐らくハインリヒの移動床で全員を動かし、動線から外したのだろう。
虚言霊の周りには、沢山の黒い言霊と、只人とは異なる肌の色に染められ狂ったように暴れる者たちがいた。
(みんな……ごめんなさい。私には、何も……だから、せめて)
「ヨミ様! 身体が震えています! まだ動かれない方が……」
「だいじょうぶ……」
明らかに大丈夫ではない様子でヨミが薄く笑う。
震える足で、スクリム達の元へ向かう。
「ヨミ、大丈夫なのか……顔が真っ青だぞ」
「うん、だいじょうぶだいじょうぶ。それより……スクリム」
「義姉さん! 義姉さん! 助けてよ! 義姉さん!」
真っ黒な瞳であらぬ方向を見つめながらスクリムが叫んでいる。
「アレは多分、記憶の言霊……しかも、誰かの、ではなく自分の記憶を、自分の中にある絶望を強制的に見せる。スクリムはね……一人が怖いの……だから、誰か一人でいいの、この子を分かってあげることが出来たなら……この子はまた、頑張れる」
ヨミはぐちゃぐちゃの頭で必死に言葉を紡ぐ。
そして、震える手から星を生み出す。
本来それは言霊にしか意味のない魔法。
それがスクリムに注がれる。
すると、真っ黒に染まっていた瞳が彼本来の灰色の輝く瞳に変わっていく。
「義姉さん……?」
「……うん、スクリム」
弱弱しく笑うと、今度はレイの方へ。
「レイは、自由が欲しかった。誰かに押さえつけられることのない強制されることのない自由が……厳しい人の眼は彼女を窮屈にさせた。強く立派になれば神域に辿り着けば、自由になれるんだって信じていたんだと思う」
「何故、お主には……いや、お主には分かるんじゃな……」
「よんでみれば分かるわ」
星はレイに降り注ぎ、彼女の瞳に輝きが戻り空を移す。彼女の瞳と同じ空色が広がる。
「シジェラは……自分の望む道を歩くために、いばらの道を歩く勇気が、背中を押してくれる力が……」
「私も、頂きましたわ……その勇気」
星の輝きが身体に力を与え、ゆっくりとシジェラの身体を起こさせる。
「クエスは、賢すぎるから、理解できないのが悔しい、理解してもらえないのが悔しい。諦めなければ、きっと伝わる、ことだってあるわよね」
「信じることが大事なんだろ。そして、その信じる力が欲しいんだろ」
輝きが巡り、クエスの心を導く、まだ諦めるなと。
振りまいた星の輝きで辺りは柔らかい光に包まれる。
目の前の絶望が、虚言霊が別世界の物語であるかのように。
「ハインリヒは……大丈夫なのね」
「俺には、絶望よりもデカい希望があるからな」
「絶望よりも……私は……そんなに、強くは……」
ヨミは悲しそうに笑い立ち上がると虚言霊を見つめる。
その時。
ヨミの目の前に、橙というにはあまりに濁った肌の男が現れる。
金色の瞳もまた黒く塗りつぶされ微かな輝きしかない。
突然のことに誰も動けなかった。
「なぜ……なぜ、虚言霊達がこっちに向かっているんだぁああああ!」
ハインリヒが叫ぶ。
それは、怒り、恐怖、焦り、全てをごちゃまぜにした感情の爆発。
彼の絶望が、希望を奪う絶望が、目の前に現れようとしていた。
「……グラト?」
ヨミの呟きはハインリヒの叫びによってかき消されたが、目の前の半言霊人間には届いたようで頭を抱え苦しみだす。
その様を見てヨミは震えを激しくする。
「わたし、わたしのせいなの……?」
グラトの姿、急に虚言霊がこっちに向かい始めた事実、そもそも、この事態に陥ったのは自分がブクムントに来たから、追放されたから、婚約破棄されたから、【光を紡ぐ者】の才能がなかったから、星を贈ることしか出来ない無能だったから―
ヨミは立っていられないほどの震えに崩れ落ちる。
その動きが呼び水になったのか再び半言霊人間が再びヨミに襲い掛かろうとする。
「ヨミィ……! ヨミ=フェアリテイルゥウウ!!!!」
(移動床では逃げられないか! ヨミ! 無事でいてくれ!)
「罠魔法! 〈転移〉!!!!」
ハインリヒが言霊の恩恵を使い、震えながらも何か手を差し出そうとしていたヨミの身体を魔法が包み、そして、消えた。
残った小さな光を半言霊人間となったグラトが握りつぶす。
顔を醜悪に歪め、ハインリヒ達を見ることなく、方向を変える。
恐らく、ヨミが狙われている。
理由は、
「星の、輝き……」
ハインリヒが声の主を見ると、クエスが弱弱しくもはっきりとした光を瞳に浮かべこちらを見ている。
「恐らく、彼女も其処にいるはずです」
方向を変えた半言霊人間や、もう町一つを呑みこんでもおかしくない程に膨れ上がった虚言霊が向かう先には、【ライタ=ニ=ナロウ】、彼女の、そして、彼らが作り上げた街があった。
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