34話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は虚言霊の行動なんかよめない
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。
ヨミ達ははるか向こうに見える【ライタ=ニ=ナロウ】を背にして虚言霊と向かい合う。
ハインリヒがいつになく真剣な目で全員を見回し、口を開く。
「確認だ。これは飽くまであの虚言霊の調査だ。俺の移動床の罠で後退しつつ、攻撃。最悪の場合は転移罠で強制的に何処かに飛ばす。……アレにくわれるよりはマシだろう」
「ラファ殿を見て、大丈夫だろうと思わないでください。気の遠くなるほどの代替わりを経てようやく理知的な姿になれているんです。アレに言霊を埋め込まれればほぼ魔物の如く欲望のままに暴れまわるだけです」
「クエス、お前の言霊で少しでもヤツの情報を手に入れてくれ。どこまで有効かは分からないが、何かあった場合はシジェラかイストを呼べ。シジェラ、イスト可能な限りの手段を試してみてくれ。本当に誰かつけなくていいのか?」
「自分の身を守る位の魔法は使えますよ、聖女ですから」
「ああ……出ていったとはいえ、ライタファザル一の【戦闘】の一族の生まれだ。自分の身位自分で守る。それより、生きて帰れよ全員」
いつものようにシジェラの言葉を茶化す者はおらず、誰もが日常が戻ってくることを祈りながら重々しく頷く。
「各属性で攻撃し、状態を確認し報告。効果的、もしくは何か変化があったものだけでいい。俺は、移動と指揮、防御に集中するから【幻想】はレイ、【戦闘】ラファ、【歴史】アティファ、【恐怖】と【混沌】はエシル」
「あの、私で良いのですか? 【恐怖】であれば、スクリム様の方が」
「僕は特殊な魔法だから一般に使えるものじゃないからね。僕は僕で試すよ。それに、義姉さんの護衛もあるからね」
「ヨミ様……よろしいのですか?」
「相手が虚言霊である以上は、私にだって何か出来るかもしれないでしょ」
エシルが意志の強そうな眉を垂れ下げながらヨミを心配する。
「攻撃系の属性以外でもどんどん試してみてくれ。なんせ、大災害……終わった理由も滅亡させたからっていう絶望的な理由しか見当たらないからな」
「すまんのう、発掘した言霊から、もう少し何かわかれば良かったんじゃが……」
「気にするな。今は……目の前に真実があるんだ。あれを解き明かすのが早い。さて……行くぞ! 言霊!『罠踏-TRAP TRIPPER-』! 〈移動床〉! みんな生きて帰ったらご馳走作ってやるからな!」
「「「「お母さんかよ」」」」
くすりと笑うヨミたちの足元に強制的に移動させる移動床が発生し、虚言霊の元へ向かっていく。
近づけば近づくほど大きく見える。いや、実際に巨大化しているのだろう。
黒い靄が包む球体の中に、人の姿や言霊が見える。
「あれは!」
「ヨミ! 無闇に突っ込むな! あの中に入ったら、終わりだぞ!」
「義姉さん! 気持ちは分かるけど落ち着いて!」
「全員! 攻撃!」
結論から言えば、どんな言霊の攻撃を与えても変化はなかった。
いや、変化はあった。
「巨大化しただけ、かよ」
ハインリヒはその美しい顔を歪め、忌々し気に睨みつける。
「巨大化はしました」
「どういうことだ?」
クエスの言葉にハインリヒは苛立たし気に振り返る。
「言霊で攻撃すれば、巨大化する。それには理由があるはずじゃ。少なくとも変化が起きた。そういうことじゃろう」
「ええ……何か、これを活用して……」
「しかし! 向こうも黙ってゆっくり進んでくるだけではなさそうだぞ!」
ラファが叫ぶ。その視線の先で、虚言霊は黒い言霊らしきものを飛ばしてくる。
狙いは、確実にハインリヒ達である。
「……来るぞ! 後退じゃ躱せない、横に避けろ!!」
他に比べて一歩で遅れたヨミはスクリムに引っ張られ鼻の先をかすめるかの距離で躱す。
他の飛び込んできた黒い言霊もハインリヒ達に躱されるが、ひとつだけエシルの使っていた言霊に喰らいつき、そのまま虚言霊に戻っていく。
「ああ!」
「どうやら……ああやって食うことも出来るようじゃのう」
アティファ達が次の黒い言霊に警戒している中で、ヨミは一人、真っ黒い瞳を自分の脳に向けるように深く思考する。
「さっきの……ねえ! スクリム! あの、虚言霊の黒い部分を少しだけ私にくっつけられない」
「はあ!? い、いや……出来るかもしれないけど」
「お願い!」
「いや、でも……」
「ふたりともっ! 周り!」
レイの声が響き渡る!
気付けば、ヨミたちの周りを黒い霧が取り囲んでいる。
「全員、何かしらの防御魔法を使え!」
「意識を強く持つんじゃ!」
「ヨミ様!」
黒い霧が襲い掛かってくるのをほぼ反射で対応する。
何十もの様々な防壁が折り重なる。
そして、ヨミは何かに導かれるように星を贈っていた。
(誰に?)
黒い闇が星の光を呑みこむと、ヨミの目の前に真っ黒な世界が広がっていた。
そして、そこにはちいさな言霊が浮かんでいた。
『あるところにひとりのおんなのこがいました』
『おんなのこはひとつのことだまをうみだしました』
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そして、空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』には他にも様々なジャンルでポイントの大切さを訴えた素敵な作品がありますので、下のリンクから企画内容をお読みいただき、是非他の作品も読んでみて下さい!





