32話 ★星《ポイント》を与えることに興味がない王子は己をかく
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります
それは黒い言霊が現れる数時間前のこと。
レイを向かわせたにも関わらずヨミが拒否した、という知らせが覆面からグラトに届く。
「あの、女……! こちらはわざわざ勇者まで送ったというのに! 自分の立場を理解していないのか」
『どうします?』
〔念話〕の魔道具から覆面の声が聞こえる。
「力づくで構わん。というか、レイがそうする。アレはそういう風に出来ている」
グラトは冷たい目で答える。
グラトは【光の学校】について詳しい話を父である王と敵対する貴族から詳しく聞かされたのだ。
そして、それはグラトを王の座に着かせるための剣だったのだと。
『もし、勇者が負けたら?』
「ありえん。が、万が一が起きたのならお前らがなんとかしろ」
『はいはい、ほいじゃ、また連絡します』
〔念話〕の魔道具が沈黙する。
「ふう……ってうっとおしい!」
グラトの周りを飛び回る粗悪言霊を振り払う。
何故か粗悪言霊はグラトの周りを好んで飛び回る為、グラトはずっと苛立っていた。
そして、そのグラトの苛立ちを更に駆り立てるのが
「グラト様よお! ちょっと用足してくるわ!」
グラトの今の側近である。
グラトは王から見放されており、それは城内の者も知っている。
その為、誰もかれもがグラトを侮蔑の眼で見てくるのだ。
それに耐えられず、グラトは手飼いの悪党達を数人護衛も兼ね雇い入れた。
しかし、どうにも彼らは粗野で、ひとつひとつの行動がグラトには気になった。
「勝手に行ってこい!」
「あれ!? グラト様は何処に行くですかい!?」
「私は、私でちょっと出てくる! すぐ戻る! 一々デカい声で叫ぶな!」
グラトは早歩きで廊下を進み、壁を殴りつける。
「くそ! 今の私はなんだ!? これでは只の盗賊の類ではないか……私は王になるはずだったんだ! どれもこれもあの女のせいだ! くそ! ヨミ=フェアリテイル!!!」
怒りに燃える眼の端をちりと黒い靄のようなものがはしった気がした。
その方向を向くと、そこは王家の【開かずの間】。
王しか入ることが許されない部屋。
その扉の前にオマージェがいる。
扉に手を当ててぼーっとしているようだ。
「オマージェ、何をしている?」
「……! グラト、さま……?」
振り返ったオマージェはお世辞にも美しいとは言い難かった。
肌は荒れ、目は腫らし、真っ赤だ。
妖艶な肉体はかれ果てたというべきか瑞々しさを失っていた。
「何をしている?」
「話を……」
「話?」
「いえ……失礼します」
「待て! オマージェ!」
オマージェはこちらを振り返らず歩いていく。
(何故だ!? お前も裏切るのか!)
グラトは再び拳を振り下ろす。
どん、と扉が揺れる。
そして、俯いていたグラトの足元に影が近寄る。
「誰だ?」
「グラト様……いや、グラト。その命もらい受ける!」
「な!?」
二人組の男が長剣を振り上げている。
恰好は王国兵。いや、間違いなく王国兵で見たこともある。
「き、貴様ら! どういうつもりだ!」
「この国は限界だ。お前の愚行のせいで、王はお前を庇い奔走してらっしゃるが、その必要があるのか俺には疑問だ。お前の首を差し出せば民は納得する。ヨミ様ももどってきてくれるだろう。だから……この国の為にしね!」
「はひゃあああああ!」
振り下ろされた長剣をギリギリのところで這いずり回って逃げる。
今までの疲労と恐怖で美しい顔は見る影もない。
(いやだいやだいやだ! 何故私が! 私は王になるべき男なんだ! 何故それがわからない! この馬鹿どもが!)
通路は後方の男が抜かせまいと見張っている。
それになにより前方の男には隙がない。
戦闘経験が皆無に近いグラトには荷が重すぎる相手である。
地を這うグラトを長剣が襲う。
「やびゃああああああ!」
グラトは奇声をあげながら何故か開いていた開かずの間に飛び込む。
『開かずの間がもし開いていても入ってはならない。入ったならば何も見ず聞かず来た道を戻れ』
王の言葉が脳裏に浮かぶが、
(そんな事すれば死ぬだけじゃないか! 父上は私を殺すつもりなのだ! なんと恐ろしい!)
混乱した頭で、父への恨み言を重ねるグラト。
「下らない! なんて理不尽な世の中なんだ!」
怒りの限界かグラトはたまらず叫ぶ。
「わざわざ位置を教えてくれてありがとう、愚かな王子よ」
背後で王国兵が長剣を大上段に構え、グラトを見据えている。
「しねええええええええええ!」
「いやだあああああああああ!」
その瞬間、グラトの背後に現れた魔導書が開き、
静寂。
「へ?」
グラトは何が起きたのか分からず周りを見渡す。
「ひゃあ!」
背後に浮かぶ黒い魔導書。
魔力が溢れ、凄まじい力を感じる。
「これが、開かずの間に隠されていたもの……? 魔導書……あハ、そウか……これは、王ノ魔導書だ……これを使って、この国を、ほロぼ……治めるノだ。あは! あはハはハはハハハッハア!」
足音が聞こえる。
もう一人の裏切者の王国兵だろう。
「グラト! お前! アイツをどこにやった?!」
「頭が高いな。これが見えないのか、コれは王の魔導書だゾ」
グラトが魔導書を掲げる。
すると、
「な……! なんだ、そのスペ……!」
男は消えてしまった。
「消す消スけすケす。星をくれないヤツラなんテ、リイダなンて……リイダ? ああ、そうだ……リイダなど消してやる……!」
グラトの懐にある〔念話〕の魔道具が光る。
「どうした?」
『勇者が負けました』
「ころせ」
『……わかりました』
「ああ、もし許しを請うのなら、軽く痛めつける程度で許してやろう。私は偉大なライタの王だからな」
黒い魔導書がくすりと笑った。
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