31話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は隣国馬鹿王子なんてよんでない
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。
アティファの次の言葉を待っているその時、風が揺らめく。
そして、気付けば覆面とマントで顔を隠した集団に取り囲まれていた。
「お主らは……!」
「アティファ様、魔導書から手を放してください」
「何? なんなの!? アイツら」
ヨミがアティファに問いかけると、アティファは苦々しい表情を浮かべながら答える。
「ライタファザルの、悪党どもじゃ。恐らく、グラトの手飼いじゃろ」
「アティファ様、魔導書から手を放してください。でなければ、この方の命はありませんよ」
頭らしき男が手を挙げ指示を出すと、他の者が男の首筋に刃を当てながら現れる。
「ゴッツアン、お主か……」
「ご、ごっつあんです……」
ライタファザルの元三賢人、未来を見通すクエス、過去の膨大な知識を持つアティファ、そして、食の探究者ゴッツアン。
一般の人に比べ相当ふくよかなその男の首には刃が当てられ、驚くほどの汗が垂れ流されていた。
「まさか、こんな丁度いい人質が街の周りをうろうろしてくれているとは思いませんでした。元三賢人の中でも一番下とはいえ、彼を見捨てるわけにはいかないでしょう?」
「はあ~……何が目的じゃ」
「ヨミ=フェアリテイルを連れて帰る事」
「断る」
アティファが間髪入れずに拒否の姿勢を示す。
「まあ落ち着いてください。ひとまず、グラト様の話だけでも聞いてもらえませんか」
「グラトの?」
覆面の男はそう告げると、再び他の者達に指示を出す。
数人の者達が魔導書を開き、同じ言霊を呼び出す。
(あれは……確か、映し身の……)
言霊の中央に巨大な鏡が現れ、そこには……金色の美しい髪、整った容貌、豪華に着飾った男、グラトが現れた。
『久しぶりだな、ヨミ=フェアリテイル』
「ども」
『ぐ……相変わらずの態度。ふん、追放もお前にとっては何の薬にもならなかったようだ』
いや、そんなつもりで追放してないだろう。
ヨミはその言葉を必死で飲み込んでプルプルと顔を震わせながらなんとか笑顔を作ってみる。
『さて、時間も惜しい。本題に……ええい、うっとおしい!』
グラトが何かを言おうとするが、粗悪言霊が目の前を通り過ぎる悪戯を繰り返し、慌てて振り払う。
『はあっはあ……本題に入る! ヨミ=フェ』
『グラト様! 王がお呼びです! また随分とお怒りでしたよ!』
『ええい! いいところで……って、お、怒っていらっしゃるのか? す、すぐに行くと伝えろ! 本題に、(バリイイン!) ぎゃあ! なんだ、また襲撃か!?』
『いえ! どっかの野郎が悪戯で石を放ってきたんじゃないかと!』
『いや! 城の中に石を放り投げるだなんて警備は何をやっているのだ!』
『警備の兵たちは辞めちまいやしたでしょう! で、代わりに俺達が』
『わかった! 分かったから近寄るな! では、なんとかしろ! こっちは忙しい! ……おほん! ヨミ=フェアリテイル! 私は寛大な心を持って、お前を許すことにする! お前がライタファザルに戻ってくることを許可しよう!』
「いや、結構です」
『なにー!!?』
「いや、だって、普通に荒れ果ててるじゃないですか。粗悪言霊が飛び回ってるし、王様怒ってるみたいだし、城に警備が足りてないとか、もう滅亡寸前じゃないですか、戻りたくないですよ」
『ぐぬ……!』
「それに……こっちの生活、最高なんで。言霊の女神と呼ばれる以外は」
『ぐぬぬぬぬ……!』
「だから、言ったでしょう。普通に説得しても無理だって」
覆面の男が少し笑いながら、グラトに話しかけている
『確かに。仕方あるまい。この手は使いたくなかったが……』
グラトがイヤらしい笑顔を浮かべている。
『お前の今いる国ブクムントが滅ぼされたくなければ、さっさと戻って来い』
「な……! そんなこと出来るとお思いですか?」
「まあ、そこまではグラト様の願望だ。ただ、罪もない民たちが殺されることはありそうだよなあ」
ヨミが戻らなければ、ブクムントの人々が殺されていく。
そう、男は脅迫してきたのだ。
「そんな……やめなさい!」
正気を取り戻したレイにとって許されざる蛮行だったのだろう、止めようと声をかけるが、
「勇者レイ。いや、ただのレイ。任務に失敗したあんたは用済みだってさ。兵器としてよく活躍してくれたと貴族のおっさんが言ってたぜ」
「そんな……!」
先程の話からして想像は出来ていたものの事実となるとやはり心に迫るものがあるのだろう。
レイは俯いて何も言えなくなる。
「さあ、どうする? 手始めに、そこの食の賢人様を殺して見せようか」
と、覆面の男は意味ありげにゴッツアンへと視線を動かす。
「もぐもぐ……ごっつあんです?」
ゴッツアンは、赤い木の実を口の周りべたべたにしながら食べていた。
「なんか食ってるーーー!? お、おい! 何を自由にさせているんだ」
「全くだ。お前ら遊び過ぎだ」
「そうだよなあ、ってその声は!?」
覆面の男が逆方向に振り返ると、あぐらをかいたこの国の第一王子が崖の上から見下ろしていた。
「ハインリヒ=ファンタジア……!」
「もう、こいつらの敵対の意思は聞いた。ならば、こいつらは敵だ。ブクムントはお前らを徹底的に……潰す」
黒髪の王子はニヤリと金色の眼を細めながら、笑う。
「は! 言っとくが数じゃあ、こっちが上だ! もっと兵を連れてくるべきだったな、ハインリヒ王子さんよお!」
「いや、それがな。この街には十分いるんだよ」
その瞬間轟音が鳴り響き、数人の覆面の者たちが宙を舞う。
「すげえ強い化け物たちがな」
覆面の頭が視線を向けると魔族や只人の集団の内先頭の数人が覆面の者達を殴り飛ばしたようだ。拳を掲げている。
「うおおおおおおおおお! 敵襲だ! みんなこの街を、われらの最高の街【ライタ=ニ=ナロウ】を守るんだあ!」
「ブクムント最高! ライタ=ニ=ナロウ最高! ヨミ様最高!!!!」
あふれ出る魔力からって只者ではない。
そう感じた覆面の頭は動揺を隠せないものの構えをとる。
「く……兵を隠していたのか!?」
「いや、そいつら一般人」
「いっぱぁんじぃん?!」
「この街で言霊の使い方を覚えた一般人。彼らの一部は、この街の技術を自分の村や町に持ち帰る予定だから、まあ、今後どこもこんな感じになる」
「どこもぉお!?」
驚く覆面の男の近くにいた部下たちが突如苦しみだして崩れ落ちる。
「義姉さんを連れて行こうとするやつは全員、敵だ」
灰色髪の騎士スクリムが紫の言霊を漂わせながら現れる。
「ちい! 元副騎士団長スクリムか!」
そして、後方で控えている部下たちが騒ぎ始め何かと交戦し始める。
「なんだ!? 何が起きている!?」
「そ、それがとんでもなく強い泥人形が現れて……!」
「言霊『戦士たちの歴史』」
覆面の頭が、方々に気を囚われているうちにアティファが魔導書を開き、魔法を行使する。
【歴史】の恩恵の内でも最も高度な〈降臨〉である。
歴史上の人物の技術や能力を泥人形に下ろし戦わせる魔法であり、泥人形が行動不能になるまでは戦い続ける強力な魔法に、いとも簡単に倒されていく。
そして、その中には
「はっはっは! 弱い弱い! この魔王が此処に居るのだ! またとない機会だぞ! さあ、かかってこい!」
ラファも混じり、赤子の手をひねるように、文字通り指一本で粉砕している。
「お、おい! お前ら! 治してはやるけど、見てると辛いからあんま怪我するなよ!」
赤髪の治療師シジェラが叫びながら、レイを含んだヨミたち五人の傷を一瞬で直していく。
「く、くそ! いいんだな! おい! 人質を……!」
「ごっつあんです!」
ゴッツアンが腹を叩く。
すると、爆風が吹き荒れ周りにいた兵たちが吹き飛んでいく。
「へ?」
「言っておくが、その男伊達に三賢人ではないぞ。美味い食べ物だけでなく、身体にいいもの、魔力に関わるもの、毒、あらゆるものを口にし、最強の身体と胃袋を手に入れた男じゃからな」
「ごっつあんです!」
少し呆れながら呟くアティファと、満足そうに笑うゴッツアン。
それに対し、覆面の男はただただ震えていた。
「て、撤退、撤退だ……!」
「させるかよ」
ハインリヒの低く通る声が響き渡る。
そして、気付けば足元には大きな魔法陣が浮かんでいる。
「き、貴様! いいのか!? 仲間も巻き込むことに……」
「俺の言霊もどっかの星を贈るだけの無能とか言われていた令嬢のおかげでな、進化してるんだよ。自動識別式罠魔法だ、喰らえ」
魔法陣の中にいる覆面の男たちの足元から稲妻が奔り、焼け焦げ崩れ落ちていく。
そして、少し遅れて拘束の罠が発動する。
一瞬の事だった。
ヨミは笑っていた。
彼らにはキラキラ輝く光が溢れていた。
「おい、何を笑ってるんだ」
呆れたようにハインリヒが口を開く。
「いえ、みんな凄いなと」
「はあ……言っただろう、俺達が凄いのはどっかの星を贈るだけの無能な令嬢が、どっかの王子の言霊に媚びを売らずに正しく星を贈ったり」
「天才だと思い込んで周りを馬鹿にしていた少年にその愚かさを伝える為に星を少なく与えたり」
「……自分のキラキラ、好きなものがなんなのか星を贈ることで気づかせてくれたり」
「歴史という大きな壁に挫折しかけたエルフに星を贈ることで救ってくれたり!」
「誰も分かってもらえないだろう変な物語の少ない理解者であることを、星を贈ることで伝えてくれたり」
「ふふ……見た目で判断せず、しっかりと見つめ星を贈ってくれる存在を教えてくれたり」
「ら、神域に入ることの出来る『あと一歩』の星の後押しをくれたり!」
「全ての人間が、助け合い、感謝しあい、思いあうことのすばらしさを魔王や魔族、そして、只人に教えてくれたり」
「そんな風に導いてくれたからですよ。ヨミ様!」
ああ、そうか。
私はただ、私の好きなものを守りたかったんだ。
私が星を贈ることで、元気になれたり、前向きになれたり、踏ん張れたり、輝いてくれると信じていたから。
私が、私の好きなものに、キラキラな物語と一緒に居たかったから。
私は私の持てるキラキラを、星を贈り続けていたんだ。
私は、守る。私の為に。
「私は、私のキラキラなものを、好きなものを奪わせない」
「そして、俺達は、ヨミ=フェアリテイルを、星贈る言霊の女神を、奪わせない。グラトよ、これ以上、俺達の物語に介入するな。これは、警告だ」
ヨミを囲むように、ハインリヒ達が、そして、その後ろには【ライト=ヲ=ヨモウ】の職員や【ライタ=ニ=ナロウ】の住人たちが揃っている。
彼らの間にはキラキラ輝くものが見えていた。
『どいつもこいつも……腹立たしい……これだから、リイダは……!』
鏡の向こうでグラトが呻くようにつぶやく。
『もういい! 下らない! 下らない! 下らないこんな物語は終わらせる!』
グラトは、手に持っていた魔導書を掲げる。
それは、漆黒の魔導書。
勇者の魔導書とは比にならない、この世の絵具では表せない黒、吸い込まれるような黒い魔導書。
「それは……! それだけは触るなとわしが忠告したじゃろう! 手紙をよんでいないのか!?」
アティファが血相を変えて叫んでいる。
「ね、ねえ……アティファあれって……」
ヨミの中で警鐘がけたたましく鳴り響く。
そして、鏡の中、グラトの後方で、二人の人物が飛び込んでくる。
『グラト! 貴様、それだけは! それだけはならんぞ!』
王様だ。やつれて骨と皮だけのようになっている。
『お前の考えが父上に、お前の祖父に似ていると感じた時点で止めておくべきだった』
『グラト様! おやめください!』
オマージェもやってきている。
肌荒れが酷く、泣いていたのか目が腫れている。
『ええい! うるさい! 開かずの間に隠された伝説の魔導書だ! これさえあれば、私はすべて従えることが出来るはずなのだ! さあ、魔導書よ! 恩恵を我に!』
グラトが魔導書を開く。
現れたのは、小さな黒い言霊
『な、なんだこの小さい言霊は!?』
「ハインリヒよ……いや、聖女に頼むべきか。出来るだけ早くライタファザル王国から出来るだけ離れるよう『大陸中に』伝えてくれ」
「え? それはどういう?」
「あの言霊が満足するまで、全てが闇に包まれる!!! 早く!!!!」
『あ……あああああああああああああ!?』
小さな黒い言霊は、周りを飛んでいた粗悪言霊や机や椅子、そして、グラトを、呑み込んだ。
そして、大きく膨れ上がる。
「アレの名は『闇の夢』……! 塗りつぶされた歴史の原因、只人を魔族に変えた言霊、最強最悪の大災害じゃ! 全てを飲み込み黒く塗りつぶす最悪の言霊!!!!」
鏡が割れる音だけが【ライタ=ニ=ナロウ】に鳴り響いた。
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