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30話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は勇者の書をよむ

この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。


他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。


あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。

勇者レイとの戦いが終わった。

レイは敗れ魔力も使い果たし満身創痍であったが、ヨミたちも魔力の消費含めかなりの疲労で動くことが出来なかった。


「ねえ、レイ。あなたはこれからどうするの?」

「戻るよ。ボクの力不足で連れ戻すことは出来ませんでしたって伝える」

「でも……」

「もしかしたら、勇者の称号は剥奪されるかもね。でもね、それでもいいと思うんだ。というより、むしろ、なんでボクはこんなに勇者であろうとしたのか今では凄く不思議なんだ」

「それは、恐らくこれの仕業じゃろうな」


声の方を全員が振り向くと、アティファがイストの近くであの『勇者の魔導書』を持っていた。


「アティファ!? いつの間に!」

「何を言っておる。あんな激しい音が聞こえたら流石に気づくわ。のう、ラファ」

「ええ……久しいな、勇者よ」

「魔王、キミも此処にいたのか」

「ああ、まさかお前のそんな姿を見ることが出来るなんてな」

「ボクもまさかキミとゆっくり話が出来るなんて思っていなかっ」

「ちょおっと待ったーーー!!」


ヨミが大声で割って入る。


「な、なんじゃ! ヨミ大声を出して、ま、まさか、どちらかに愛の告白を!? ならんならんぞ! わしの眼が黒いうちはわしにしか愛の告白をしてはならんぞ!」

「色々ツッコミたいけど、今はいい! それより! え!? ラファって魔王なの!?」

「言っただろう? 魔族のリイダはラファだと、リイダは魔族の言葉で長だ、つまり、」


確かに、言っていた気がする。けれど、それは魔族の言葉の使用例ではなかっただろうか。

そんな出かけた言葉を飲み込んで周りを見渡す。


エシルは勿論知っていたのだろう。

クエスは知らなかったんですかという表情で苦笑いしている。

イストは、


「私も知っていましたよ。この前、男のぶつかり合いを語りあった時に教えてもらいました!」


ニコニコと微笑みながら握りこぶしをぐっと見せる聖女。

いや、誰とでも語り合ってて大丈夫か、とヨミは思ったがその言葉も飲み込んだ。


「理解できたようじゃな。ではそれはそれとして、この魔導書、も含めてじゃが、勇者レイよ、お前は、【光の学校】の出じゃな」

「う、うん」


光の学校、それはヨミたちの通っていた貴族の学園とは別に、平民達からも優れた【光を紡ぐ者(ライタ)】の才能を見つけ出すための古く由緒ある学校である。


「ボクは元々貧民だったんだけど、魔力が異常にあったらしくて、学校に入れられたんだ」

「その学校で教えられるために使われた魔本は、この勇者の魔導書と似たものではなかったか?」

「うん、そうだよ。」

「そう、か……」


アティファが目を閉じる。ラファも何か分かったように目を伏せる。


「何々!? なんなのよ!」


状況ののみ込めないヨミが叫ぶ。

すると、アティファが意を決したように話し始める


「以前、わしが魔族の凶暴化を抑える為に、只人と魔族の共存を童話の言霊(スペルスピリ)にして、その魔本をラファ達にやった話はしたじゃろう」

「うん……まさか!」

「あの国は、魔族を滅ぼすために、魔本、つまり、言霊(スペルスピリ)を使って、子供たちを、魔族を滅ぼすための兵士に作り上げようとしていたんじゃろう」


言霊(スペルスピリ)による思想の操作。

アティファのように道徳的な観念を言霊(スペルスピリ)を使って教えている国は少なくない。しかし、魔本による魔族への差別意識の操作は度を越えている。


「ヨミ、お主は気づいてなかったんじゃろうが、貴族の学園でもいくつかこのような言霊(スペルスピリ)はあったんじゃよ。ただし、標的は魔族ではなく、【闇から見る者(リイダ)】じゃがな」


ヨミは、元居た国がそこまでのことをする国だとは思っていなかった。

しかし、結論が分かれば、あとはよみ終えている頁から推察できるようにあの国の筋書きがおぼろげに見えてくる。

そして、腹の底から溢れかえる怒りでヨミはもどしそうになる。


「う……!」

「ヨミ! 大丈夫か!?」


アティファが慌てて近づく。

ヨミが大丈夫だと手の平をアティファに向けると、アティファの持つ『勇者の魔導書』が黒い輝きを強く放ち始める。




ヨミの目の前には、黒い魔導書を持ったアティファではなく、黒い魔導書を持った男と、女が立っていた。

女は高貴な立場なのだろうか幾重にも重ねられた布で作られた服を着て、ぶつぶつと何事かを呟いている。

男は戦士だろう、剣を腰に差している。


「これでリイダの天下は終わる。お前の望んだ世界だ」


男の声が背中越しに聞こえる。


「後は私たちに任せるといい。あんな星をおくる事しか出来ない連中ではなく、我々が世界を動かすのだ」


男は魔導書に語り掛ける。そして、新しい言霊スペルスピリを生み出している。



「ライタの為の世界が始まるのだ」


ヨミは何故だかその男の姿を見てると無性に腹が立った。

目の前の金色の美しい髪、整った容貌、豪華に着飾った男に苛立った。


「なあ、愚かなるリイダよ」


そう呟きながら、男が振り返る。

その振り返る瞬間、その男の表情が、見下すような表情があの男を重なった。


「グラト!!!」


ヨミの叫びに顔を歪める。


「話を聞け。星をおくることしか出来ない無能が……大方、【光を導く者】などと大層な名を付けられて調子に乗っているんだろうが、すぐにそんな時代は終わる。これからは我々ライタの時代がやってくる! この言霊(スペルスピリ)を生み出せる我々こそが頂点だ!」


男は高らかに叫ぶ。自分こそが正義と言わんばかりの自信満々の笑顔で。


「ねえ、」


声が聞こえた。

男の隣にいる女の声だ。

ヨミにかけられたようだ。

物語の登場人物のはずなのに。

この物語はあの男の物語のはずなのに。

この女は―何故。


「あなたも(ポイント)をくれないのでしょ? リイダはきらいよ。星をくれないのだもの」

「……私、あなたの物語をよんだことないもの。なんて名前?」

「よおく覚えておいてね。私の物語は……『闇の夢』、全てを真っ黒に染め上げるとっても面白いお話よ」



ヨミの目の前に真っ黒な瞳が広がり、いや、真っ黒な、黒ずんだという生易しいものではなく、本当に真っ黒な言霊(スペルスピリ)が、ヨミを飲み込もうとする。

今度こそ逃がすまいと。


ヨミは本能的に、星を贈るように光を生み出し、その真っ黒な言霊(スペルスピリ)を退けようとする。


「あは、ははははは! 星! 星! 星! 凄い星の輝き! いつか頂戴ね……その輝き」


その瞬間、ヨミの目の前には黒い『勇者の魔導書』が現れた。


「ヨミ! 大丈夫か!? 今の光は!」


アティファが心配そうにのぞき込む。

ヨミは薄く笑って、話の続きを促す。

早く続きを聞きたい。

答え合わせを。


「……かの国、ライタファザル王国。古代語で、【光を紡ぐ者の父】……奴らは言霊(スペルスピリ)を使って、魔族、そして、【闇から見る者(リイダ)】の滅亡を望んでいる。その為に彼らは歴史さえも黒く塗りつぶした」

お読みくださりありがとうございます。


少しでも楽しんでいただければ何よりです。


また、☆評価やブックマークをしていただけるとありがたいです。


よければ、今後ともお付き合いください。


そして、空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』には他にも様々なジャンルでポイントの大切さを訴えた素敵な作品がありますので、下のリンクから企画内容をお読みいただき、是非他の作品も読んでみて下さい!

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