29話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢はキラキラよむ
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。
先程、『聖女の魔導書』から戻って以降、ヨミの目には不思議なものが見えていた。
それは、言霊の一部が金色に光っているのだ。
レイの使っている言霊にも、クエス、エシル、イストの言霊もだ。
ただ、レイの『勇者の魔導書』から呼び出された言霊だけは輝いていなかった。
これが何を意味するのかヨミには分かっていた。いや、分かるようになっていた。
クエスの『机上のムロン』で輝いているのは、最新の話だ。
今まで、起きた事件事故や問題を解決してきたムロンが、最悪の犯罪者と呼ばれる人物と対峙することになった。そして、ムロンは何をするつもりなのかを推理し、事が起きる前に解決してみせる。そこには件の女性との軽快な会話劇も入りながらの知的でそれでいて爽快な解決だった。
ヨミはそれをよんで、星四つだったクエスの『机上のムロン』にもうひとつ星を、五つ星をつけることにしたのだ。
その部分が強く金色に、キラキラと輝いている。
そして、その輝きを自分なら使いこなせると確信していた。
ヨミはその輝きを愛おしそうに撫でると、その指を今度は広げ、掌を言霊にかざす。
そして、光を一気に注ぎ込む。
(分かる……星を贈る要領と同じだ)
すると、言霊は強い輝きを放ちながら変化し始める。
「言霊『机上のムロン』あなたに導きの輝きを」
言霊は金色の輝きを放ちながら小さく圧縮され、ヨミの右目に宿る。
すると、ヨミには金色に輝く道筋が見えたのだ。
(これを辿るのね)
金色の輝く道筋とは別に高いところから見下ろすような画も浮かび上がってくる。
それぞれがレイの攻撃に対応しようと行動し始めている。
しかし、そのだれもが弱弱しい輝きを見せている。
「みんな、いいから。こっちに」
ヨミは全ての行動をやめさせ、ゆっくりと駆けだす。
空気の塊は操作する為には、ほんの少しだけタイムラグが発生する。
そうヨミは何故か理解していた。
駆け出しながらちょっとだけ方向や速度を変える。
右スレスレを空気の塊が落ちていく。
遅れて、左前方ギリギリを。
一瞬後に最後尾のクエスの後ろに。
そして、一瞬早くヨミの目の前を落ちていく。
何事もなかったかのように出来たばかりの窪みを踏んでいく。
あとは、逃げ場を無くすための四発だったので気にする必要がない。
そして、光の道筋の到達点に立ち、ヨミはレイを見上げる。
「なんで……なんで無事なんだよぉおおおおおおおお!?」
レイが叫んでいる。黒い光は増すばかりだ。
アレはよくない。
アレには輝きが一切ない。
レイの中にある輝きさえも食ってしまおうとしているように見える。
「勇者を、レイを止めるわ。……エシル、あなたにお願いしたいけど」
「はい、おまかせください」
ヨミの一連の行動に何か感じるものがあったのか、他の二人があんぐりと口をあけている中、いち早くエシルは態勢を整えていた。
ヨミは魔導書から言霊を呼び出す。
それは、青い言霊だった。
「それは……! ボクの……!」
『小さな羽は空を舞う』
今、レイが呼び出し、黒く変色させながら魔法を行使している言霊と全く同じものを呼び出す。
「馬鹿にしてるの!? それはボクのモノだ! ボク以上にうまくつかえるわけがない!」
「いいえ、この言霊はあなただけのものじゃない。よむ者達のものでもあるのよ。そして、あなたの知らない物語だって……ある!」
ヨミは巨大に膨れ上がっているその言霊から金色の輝きを見つける。
そして、その部分に星の光を注ぎ込む!
それは……少年が初めて自由に空を舞った瞬間だった。
理不尽に、虐げられ、押さえつけられ、許されなかった少年が初めて自由に。
空は広く、少年は何処までも飛び続けた。
少年にとって無限は絶望ではなく希望。
自由とは可能性だった。
それがヨミにはキラキラに見えたのだ。
その光は、エシルの身体を伝わり、背中に金色の翼を作り出した。
「これは……!」
「エシル、あなたはもう自由なのよ。好きにやんなさい」
「……はい!」
エシルはまるで自分が飛べることを知っていたかのように、空を翔け上がる!
星のように輝く翼はエシルの思いに応え続ける。
縦横無尽に空を舞い、レイを圧倒し始めた。
「な、なんで! なんでそんな風に動けるんだよ!」
レイには出来なかった。
いや、思い起こせば勇者になった頃は出来ていたはずだった。
出来なくなったのだ。
いつしか、空を飛ぶのは、敵を見下ろす為であり、理不尽に滅ぼす為となっていた。
もう、レイの翼は自由を忘れていたのだ。
そのレイの心の揺らぎが、勇者の魔導書の黒い光を弱めた。
その隙を見逃さず、クエスが叫ぶ。
「エシル、今です!」
エシルは、急降下しレイの黒い魔導書を狙う。
レイは腐っても勇者。その動きに気付き紙一重で躱す。
しかし、エシルは今自分でも笑えるくらい全身が思い通りに動いていた。
得意の言霊でレイと同じように空気を集め、踏み台を作り、そこに着陸する。
そして、急激な方向転換で、レイの隙を突き、魔導書に手をかける。
奪えなかったものの指にあたった魔導書は、レイがしっかりと持てていなかったのか手から離れ地面に落ちていく。
イストが小さく聖域を発生させ落ちてくる魔導書を閉じ込める。
それを確認し、レイに向き直るエシルが見たのは、
レイの悲しそうな安堵、そして、一瞬で強引に作り替えられたような怒りの表情だった。
「うわ、うわあ、うわあああああああああああ!」
レイは怒りに任せ風をまき散らした。
ごうごうと巻き起こる風、いや、風ではない黒い光が何かを叫んでいるように聞こえる。その音に遮られ、クエスがエシルに何かを叫んでいるが聞こえない。
その戸惑いの瞬間に、エシルは突風に攫われ吹っ飛んでいく。
クエス・イストは慌ててエシルを助けに向かう。
そして、ヨミは紫の言霊を撫でていた。
「お願いね。言霊『音喰』あなたに導きの輝きを」
紫の言霊は金色の光を放ちながらゆっくりと姿を変えていく。
(音喰……闇の中で戦い続け狂い続ける男が、求め続けたのは、彼の妹の声。彼女の声御を聞くためだけに抗い続けた男は、出会った見ず知らずの少女がくれた『ありがとう』の為に、一言の為に、化け物に挑み、少女に穏やかな静寂を与えた)
金色の文字が奔り、その言霊は大きな耳と口を持つ何かになった。
そして、大きく口を開いたかと思うと、一気に息を吸い込んだ。
すると、この一帯から音が消えた。
レイを包み込む黒い光から常に響き続けていた呪詛のような言葉が聞こえなくなる。
はっとレイがこちらの方を向く。
ヨミは小さな小さな声でつぶやいた。
その声は言霊を通して、小さな小さな光となり、レイの元へゆっくりと進みだした、かと思ったその瞬間、一瞬の瞬きの間に、光はレイを貫いていた。
そして、その光は言葉となり、レイの胸で解放される。
「あなたが本当に刻みたかったのは何なの?」
その言葉が胸で弾け、レイはゆっくりと落ちていった。
レイは思い出していた。
ある日のことを。
それは必死にもがいてもがいてそれでも神域に入れず苦悩していた日の事。
レイの言霊に星を贈ってくれている黒髪の美しい女性。
真っ黒な瞳をせわしなく動かし、キラキラと輝かせていた。
そして、その人がくれた星は同じようにキラキラ輝いて見え、レイはどこまでも上を目指せる気がした、あの日。
その日、レイは初めて神域入った。
その日の空は―
どさり、とレイは地面に落ち、そのまま仰向けに倒れ込んだ。
(ボクが本当に……あ、空だ)
空には青空が広がっていた。
どこまでも広く美しく静かで自由な空と小さく輝き始める星と、自分を見つめる美しい黒髪の女神がそこにはあった。
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