27話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は勇者の顔色とかよまない
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
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ゆうしゃがおむかえにきた。
(さーて、どうしたもんかなあ)
レイ=リバブル。
ヨミたちが元々いた国の有名な【光を紡ぐ者】であり、神域の常連、そして、国によって選ばれた勇者である。
その勇者がヨミの目の前にいる。
応対しているのは、ヨミ、クエスの二人である。
イストは聖女であるが為に話がこじれる可能性もあるので、別室で待機してもらうことにした。
エシルもまた、魔族であった為、席を外させた。
勇者とは元々魔族を殲滅する為に選ばれた戦士の事であった。
魔族の領域は年々小さくなっているのは勇者のおかげだ。
その中でも今代の勇者は最強と呼ばれている。
初めて神域に入って以来、落ちることがなく今日まで居続けている。
その最強の勇者がこんなに可愛らしい空色髪の勇者だったとは。
ヨミは、基本言霊をよむ生活だったので、世の事には興味がなく、言霊をよむための教養程度にしか知ろうとしていなかった。
「改めて! ヨミ=フェアリテイル! あなたを迎えに来ました!」
「お断りします」
「えー!? なんで!?」
レイは顎が外れるんじゃないかというくらい口を大きく広げ驚いている。
「なんでってなんでです?」
「え?」
「私は追放された身。戻る理由がありません」
「で、でも、グラト様が戻って来いって」
「グラト様は私が今いるこの国の王子ではありません。従う理由はないはずです」
「でも、王族の命令だよ! 逆らうの!?」
ヨミは小さく溜息を吐く。
レイの噂でよく聞いていたのは『歴代最強の勇者であり、正義に燃える真っ直ぐな勇者』。
(真っ直ぐすぎる)
例えば、聖女であるイストは、人の闇や欲望を分かっているように見えた。その上で、人の善性を信じているのだろう。
けれど、彼女は違う。
(『正義』を信じている。彼女に与えられた正義を)
優しさは必ず誰かの為になるし、努力は必ず報われるし、正義は必ず勝つ。
そんな印象だ。
どうしたものかと言いよどんでいると、クエスが会話に入ってくる。
「今、ヨミはこの国の民です。まずは、ブクムントの王族に挨拶を……」
「裏切者は黙って」
レイが射貫くような目でクエスを睨みつける。
これだ。
これが面倒だ。
ヨミは心の中でジタバタする。
裏切者は全て悪なのだ。
ヨミは、恐らく追放された人間だから良いのだろう。
裏切ったわけではないから悪とはならない。
「王族の命令は絶対です。逆らうなら容赦はしません」
「どうするつもりです?」
「貴女の罪を償うために連れて帰ります」
「罪?」
「何故、魔族が平然と暮らしているんです?」
レイの目が一層鋭くなっていく。
魔族を倒すための勇者である以上、避けては通れない話題だとクエスも理解していた。
しかし、レイの頭の固さはクエスの想像以上、いや、以前あった時よりも格段に固くなっているように見える。
クエスが何を言っても聞く耳をもたないだろう。
であれば、ヨミがこの局面を乗り切るしかない。
「え? それの何がいけないんです?」
ヨミは濡羽色の髪を垂らして首を傾ける。
クエスは最初のレイ以上に口を開いて驚き、一方の、レイは信じられないものを見たかのように小さく目を見開く。
「何がって……魔族ですよ!」
「魔族ですね」
「滅びるべき存在です!」
「何故です?」
「何故って、彼らはボクたちに非道な振舞を」
「え? 今日、何かされました?」
「されてはいません。が、必ずいつか裏切られます!」
「何を根拠に?」
「魔族の歴史を見ればわかるでしょう!」
「只人の歴史の方が明らかにひどいですけど? 裏切り、殺人、戦争、窃盗……追放。何故魔族だけなんです?」
舌戦になるのならば、魔族を庇うのは難しいとクエスは考えていた。
魔族の情報があまりにも偏っており、悪としての側面ばかりが見られるからだ。
けれど、レイはそこまで詳しくはなかったのか、二の句を継げずにいる。
「魔族は……魔族は、悪なんだ! だから、神に愛されず言霊が生み出せない」
「生み出せれば正義なのですか? ならば、生み出す才能のない【闇から見る者】は悪ですか?」
「リイダは弱きものだ。強いライタが守ってあげるべきだ」
「傲慢ですね。アナタはそれが出来ると信じているのね」
ヨミの目も段々と鋭くなってくる。
場の緊張感が高まり、一触即発の空気が張り詰め続ける。
「できます。僕の神域の言霊なら! ボクの『小さな羽は空を舞う』なら! みんなを正しい道に導くことが……」
「あ、ちなみに。私、その言霊星二個です」
「は……? が!?」
クエスの顎が外れる。
「空を舞うしか出来ない少年が成長して、最初の空を翔け抜けて闘うシーンあたりからずっと面白かったんで星五つつけてたんですけど、四章くらいから『腹立つ敵に散々せめさせといて、その後宙に浮いて笑いながら魔法攻撃』っていうパターンで全部倒し始めてからは、個人的にはビミョーで星減らしました」
「な……! ……ああ、そうですか。なら、証明してみせますよ! ボクとこの言霊の凄さを! そして、魔族の本性もね!!!」
レイが魔導書から言霊を呼び出して構える。
「え? なんでキレてるの?」
「ふがふがふがー!」
ヨミは再び首を傾け、クエスはふがふがしていた。
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