3話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は隣国王子の腹が読めない
空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
【恋愛】の言霊『十と一生、君を愛し続けると誓う』
☆5つ。【ルーヴェ】と名乗る【光を紡ぐ者】が描いた恋愛の言霊。1000年以上に渡って赤い糸で結ばれ続けた二人を描いた作品。転生を繰り返しながらも愛し続ける二人。十回目の死の直前に二人が永遠の別れを望んだ後の十一回目の人生、そして、その結末が涙なしには語れない。読む人に恋の魔法を、運命の人はいるんだと信じさせてくれるような名作。Byヨミ
通称、『イレブンス』と呼ばれるこの言霊は恋愛の恩恵を与え、その人にとってふさわしい相手を教えてくれた。
そして、王族もまた、この恩恵に預かり、繁栄を続けており、今回も、イレブンスの恩恵によって選ばれたグラトの相手がヨミであった。元々は平民であったヨミだったが、婚約の為に貴族の地位を与えられ、貴族たちの通う学園に入れられた。
しかし、王子グラトにとって、生意気なヨミは自分の相手としてふさわしくない、そう考えていたのである。
そして、学園の卒業パーティーを最後のチャンスと定め、婚約破棄を宣言した。
この宣言を聞きつけた生徒たちによって、パーティー会場は大騒ぎになっていたが、当事者であるヨミは興味なさげに、グラトを見ていた。
「とにかく! お前のような生意気な女ではうまくいくものもうまくいかぬ! 私にはもっとふさわしい女性がいるのだ! オマージェ!」
オマージェと呼ばれた金髪の緩やかなウェーブがかかり、ヨミに比べてかなり女性らしい体型の女が現れる。
といっても、彼女は学園内でも有名な女性であったため、知らない者はいなかった。
隣に並んだオマージェを自慢するように周りを見回し、グラトは再び高らかに宣言した。
「彼女、オマージェこそが私にふさわしい、妃になるべき者である! 皆も知っての通り、彼女は【光を紡ぐ者】としての才があり、そこにいるヨミとは格が違うのだ!」
「ヨミ様、この度の婚約破棄。大変残念に思います。ですが、ご安心を。私がヨミ様に代わって、この国の妃の務めを立派に果たして見せますわ」
(よりによって、あの女か)
ヨミは心の中で毒づいた。正直ヨミにとって妃になることは、いくら自分が大好きな言霊の導きであったとしても億劫でしかなかった。渡りに船とばかりにおもったら、その船が泥船だったようなものである。
「グラト様、失礼ながら、オマージェさんは言霊を多く作り出しておられますが、どこかオリジナリティに欠けるものがあります。それも理解してのことでいらっしゃいますか」
言霊は本来、人々の力となる存在である。
しかし、描かれた物語に悪意や歪んだもの、未熟すぎるものが入り込めば、人々を脅かすこともありうる。
ヨミはそのことを暗に伝えようとしたのだが、グラトの怒りを買うだけとなってしまった。
「うるさい! 言うに事欠いて、無能がオマージェを侮辱するとは何事か! 彼女は未来の妃であるぞ! もういい! 婚約者となったから取り立ててやっていたが、ここまでの無礼な振舞い、流石に度し難い! 財産及び家は没収とする! 今までのことを悔い続けながら這いつくばって生きるがいい!」
これには流石のヨミも真っ青になった。
家も財産も失うのは構わない。
ヨミは言霊の物語が読めれば満足なのだから。
しかし、ヨミの母親になんと言い訳をすればいいのか。稀代の魔女である彼女が怒れば最悪、この国は亡ぶ。
「そ、それはやめてください!」
「なんだ? 今までの無礼を認めるのか」
「いや、別に」
「はあ!?」
「そもそも、それは王子としてのあるべき振舞や考え方が出来ていないグラト様に問題があるのだと何度も申し上げているでしょう!」
「貴様!」
「それより、先程の言葉を取り消してください!」
「断る!」
「この国を滅ぼしたいのですか!?」
「お前にそれが出来るのか?」
「私じゃねーわ! この馬鹿王子! ……あ」
先程迄の騒ぎがなんだったのかというくらい静まりかえり、誰かが小さく吹き出す音だけが聞こえ、口を閉ざした全員の視線は真っ赤になったグラトに注がれた。
「つ、追放だ! この国から出ていけ!」
グラトの絶叫ともいえる声が響き渡る。
そして、追放を告げられたヨミの言葉を皆が待っていると、
「では、ヨミ=フェアリテイルは、ウチの国で預かろう」
先程、吹き出した音の方向から、すらりとした黒髪の青年が現れる。目は金色に爛々と輝き、歩く姿は自信にみちあふれている。
「ち……ハインリヒ=ファンタジアか」
グラトが忌々し気に呟く。
ハインリヒ=ファンタジア。隣国ブクムントの第一王子であり、留学生としてこの国にやってきて主席を搔っ攫ったグラトにとって目の上のたんこぶのような男であった。
「勿論、かまわないよなあ。既に、ヨミは平民なんだろう。平民はいいな。面倒な手続きがいらなくて」
ハインリヒは挑発的にグラトを見つめ、片頬をあげ笑っている。
悪党のような立ち振る舞いをしていながら、女子生徒たちが見惚れてしまうのは、ハインリヒの美しさと溢れる魔力故だろう。
「ちょ……! 何を勝手、に」
ヨミが二人のにらみ合いに割って入ろうとしたその瞬間、ハインリヒは振り返り、ヨミの身体に腕を回し、大声で喜びの声をあげた。
「ああ! ヨミ=フェアリテイル! 君が俺の国に来てくれるなんて嬉しいよ!」
女子生徒の悲鳴にも似た叫び声が上がり、男子生徒は耳を塞ぐ。
その時のハインリヒとヨミは強く抱きしめあっていた。ように見えたが、実際は、
「……おい、こら、どういうつもりだ。性悪王子」
「ウチで保護してやる。よかったな。その代わり、俺の言霊をよんだ感想を聞かせろ。勿論、全部の、な」
「ふざけんな。お前の大長編にいちいち感想言ってたら、他のがよめないだろが」
「えー、じゃあ、このまま、放浪の旅をするー? あの魔女になんていいわけするー?」
「てめえ……! このまま、しめころしてやろうか」
「はははは。文武両道才色兼備のハインリヒ様を舐めるなよ」
「舐めて堪るか、あんたみたいな真っ黒野郎。腹を壊すわ」
誰にも聞こえないような小声で会話を交わしながら、笑顔のまま首を絞めようとしているヨミとそれをなんなく止めるハインリヒ。
ふわふわと浮かぶ言霊が楽しそうに祝福しているようにも見えたと誰かが呟いた。