閑話3 キャラ=クタラギは物語をかく
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。
シジェラがヨミのもとに勇者が来たことを伝える少し前。
シジェラは短い黒髪を纏めた少女、キャラに恒例の魔導書講座を行っていた。
「よし、基本的なことは大分淀みなく出来るようになってきたな」
「そうですね。〈検索〉、〔よむ〕、恩恵の使用、〔名刻〕、あ、あと、星をおくる。このあたりはさっと出来るようになったと思います」
「これらが【闇から見る者】の基本だ。ここからは【光を紡ぐ者】についても教えていく」
「はい! よろしくお願いします!」
魔法を使わせてもらう側から、作る側に。
それがキャラの心を高揚させたのは言うまでもない。
「ただ、先に言っておく。」
「はい?」
「仮に、【光を紡ぐ者】の才能がなかったとしても悲観するな」
「はい」
「なんせ、この街にはライタよりも評価されるリイダたちがいるからな」
「ですね」
キャラは、シジェラが【ライタ=ニ=ナロウ】に引っ越すと聞いて、付いていくことにした。
シジェラが悪い人間ではないことは分かっていたし、まだまだ教えてもらいたいことが沢山ある。
そして、やってきた新しい街【ライタ=ニ=ナロウ】でキャラは驚き続けることになる。
一番はやはり魔族の存在だった。
ブクムントの城下町でも魔族は恐れられ忌み嫌われる存在だった。
しかし、このライタ=ニ=ナロウは、恐れるどころか、魔族を非常に頼りにしているのだ。
それもそのはず、魔族の優れた身体能力は勿論のこと、言霊の扱いもとてもうまい。そして、只人がかいた言霊に対し、何の偏見もなく心から賞賛してくれるのだ。勿論、駄作は駄作とはっきり言うが……。
魔族は言霊を作れない【闇から見る者】ばかりだ。
作れない者は国によっては差別の対象となるらしい。
けれど、ここではそんなことはない。
優れた者や頑張る人は評価されるのだ。
魔族たちは、評価され続けていた。
「とはいえ、まあ、やっぱり言霊を作ってみたいという気持ちは分かる。なので、やってみるか」
「はい!」
「じゃあ、まず魔導書の空白の頁を開け。イメージすれば勝手に開かれる。そして、そこに自分の思い浮かべた物語を刻んでいけ」
言われたとおりに、キャラは魔導書を開き、そこに手をかざし自分の思い浮かべた物語を刻もうとする。
しかし、この作業に非常に魔力が消費され、遅々として進まない。
数行の物語を刻んだところでキャラは倒れ込む。
「ぶはーー!! も、もう限界!」
「お疲れ。まあ、最初としては上出来だろう」
「えー、難しいですよ! コツとかないんですか、コツとか!」
「イメージが大事、だと思う。どれだけ具体的に思い浮かべることが出来ているか、過去と未来がちゃんとつながっているかとかな」
「イメージ……」
「まあ、何にせよ。かくことそのものが出来ないわけじゃないんだ。少しずつやっていけばいい」
「はい……なんか、参考になる言霊とかってないんですか」
「まあ、そうなると、神域内の言霊だろうなあ」
「神域?」
「ああ、国ごとに評価とかいろいろ違うが、簡単に言えば、国の中でもトップクラスに評価されているのが神域内の言霊だ。国の定めた基準で神殿が調べて教えてくれる」
「要は、つまり……すごい言霊ってことですね」
「ああ、まあ、そうだな……例えば、ここブクムントでは国の評価と星の量で決まる。大体が、まあ、この配分が違う位だな。……まあ、国の一方的な評価のみで決まるような国もあるけどな」
シジェラは眉を寄せながら吐き捨てるようにつぶやく。
「シジェラさん……」
「ちなみに、ここ【ライタ=ニ=ナロウ】はブクムントとは独立した神域評価を設けている」
「え? そうなんですか?」
「ああ、だから、ここ以外で神域を見ると全然違うことがあるからな。ここは、100パーセント星の量で決まっている。実験的なものではあるがな」
「じゃあ、人々の評価だけで決まるんですか!?」
「まあ、そういうことだ。場合によっては、いきなり入ることだって出来るからな。それに、神域に入ることが出来れば、国から支援を貰えたり、大商人と契約を結べたりと人生一気に変わることだってある」
「そうなんですか!?」
「ああ、あとは、勇者とか剣聖とか賢者とかそういう称号を貰えたりな」
「あ、そういうのはいらないです、現物主義なんで」
「そ、そうか……まあ、精々頑張ってみるといいさ」
「はい! がんばります! あの、ちなみにこんなのどうですか?」
キャラが自信ありげにシジェラに伝えてくる。
シジェラは、冷めた目をして、
「お前、一旦それ数行でいいから刻んでみろ。状況説明だけでもいいから」
「え? はい」
そして、少しばかりの時間をかけて、キャラが簡単な言霊を作り上げる。
「出来ました!」
「じゃあ、今からその言霊を使って何かしら俺に攻撃してみろ」
「え? でも……」
「一発でも当てることが出来たら、なんでも飯をおごってやろ」
「やらせていただきます!」
食い気味に迫るキャラは魔導書を開き、言霊に指示を出し始める。
「言霊!『異世界に連れてこられた超絶カワイイ女の子は、ガキに興味はねえと鼻で笑われたが、実はすごいつよくてかわいい最強の魔法使いだったので帰ってきてと言ってももうおそ』」
「遅い」
いつの間にかシジェラが目の前に迫り、持っている魔導書でキャラの頭を叩く。
「きゅう~……な、何するんですか!」
「こういうことだ。名前が長い言霊は具体的だからこそ作りやすいが、まずよんでみるのに時間が掛かる。あと、名前で大体恩恵の想像がつく。どうせ魔法系の恩恵だろう」
「ぎく」
「よほど、中身を工夫しないと速攻見切られて終わってしまう。まあ、発想は悪くないし、とりかかるやすいものではあるからやってみりゃいいとは思う」
「……はあ、こういうのがウケてたからいけると思ったのに」
「まあ、あと……なんか、凄く心がこもっていたからそれは重要だからいいと思います」
「何故敬語? というか、心がこもってるって大事ですか?」
「勿論だ。表現力はより精密な恩恵を可能にする。工夫や技術は相手の裏をかいたり、特有のスキルを得られたりする。そして、心がこもっているものは、共鳴しやすくなる」
「共鳴?」
「魔導書の恩恵ってのは、イメージ通り100パーセントを得られるわけじゃない。普通よくて50パーセントくらいだな。ただ、魔導書を深く理解することや共感できる部分を見つけることでより完全に近い恩恵を得られることが出来るんだ。んで、完全に近づけば近づくほど何故か音が鳴る。これを共鳴と呼ぶ」
「えーと、つまり、言霊の刻まれた物語をよみこんで共感できる部分が多ければ、より良い恩恵が得られて、良くなればよくなるほど音が鳴り始めるってことです?」
「まあ、そういうことだな」
キャラは自身の『異世界に~(以下略)』に手をかざす。
「鳴りませんけど?」
「かいた本人では共鳴しないんだよ」
「なんで?」
「知らねえよ」
「赤髪のくせに」
「関係ないだろ! 赤髪!」
「赤髪はすごいんですよ!」
「どこの話だ!?」
「異世界です!」
「異世界好きだなあお前!」
「すみません」
「「ああ!?」」
言い争うシジェラとキャラの前に一人の少女が立っていた。
空色の髪が短く綺麗に切りそろえられ、瞳も髪と同じく吸い込まれるような空色。
身長は一六〇センチくらいだろうか。
軽鎧で重要な部分だけ守り、機動力重視の装備をしている。
腰には、魔導書と、ショートソード。
「す、すみません!」
赤と黒の強い瞳に見つめられ、空色の少女は怯えを見せる。
「あ、ああ! すまねえ! ちょっとこの黒いのと揉めてたもんで」
「誰が黒いのですか、赤髪もどき」
「もどきって言うな!」
「それより、何か御用ですか?」
「あ、あの……この国で女神と呼ばれている……ヨミ=フェアリテイルに会いたいんです」
「ヨミ様に? 何の用で?」
「あの、連れ戻さなければならないのです」
「へ……? ねえ、シジェ……わぷ!」
シジェラが慌てて、キャラの口を塞ぐ。
キャラがむーむー何かを叫びながらじたばたするのを無視してシジェラが問いかける。
「あ、あんた……名前は?」
「失礼しました。レイ=リバブルと申します」
シジェラは、ごくりと喉を鳴らす。
レイ=リバブル。
シジェラがいて、ヨミが追放された国の『勇者』であり、『神域の言霊』を持つ者である。
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