26話 星《ポイント》を与えることしか出来ない令嬢は聖女の書をよむ
この作品は空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』参加作品です。
他にも多数素敵な企画参加作品がありますのでよければお読みください。
あとがき下に空野様の活動報告へとべるリンクがあります。
気付けば、ヨミは【ライタ=ニ=ナロウ】に一人で立っていた。
エシルもイストもいない【ライタ=ニ=ナロウ】。
それは、遥か昔の【ライタ=ニ=ナロウ】だった。
なぜなら、ヨミ様饅頭やヨミ様タペストリーが売ってないし、人々は何かに怯え逃げ惑っていた。
ヨミは見えていないようだった。
だれもがヨミをすり抜けていく。
(ゴーストのようなものか)
ヨミは人々が逃げてきた方向に振り返る。
そこには、真っ黒な光があった。
それは、いつか古代の言霊に潜った時のあの光だった。
転んで逃げ遅れた人が黒い光に飲み込まれそうになる。
ヨミは慌てて駆け寄り手を伸ばそうとするが、
「おやめなさい」
その声はヨミにかけられた言葉だった。
そして、声の主はヨミの手を取り黒い光から離れていく。
「ちょっと! なんで……」
「この物語はもう完結した物語。終わった物語を変えることが出来ないわ」
声の主は女だった。
女は、やせ細っていたが金色の目は強い意志を感じさせた。
「あなたは……?」
「多くは語れない。だから、聞いて。あの『闇の夢』はよんではいけない」
「闇の夢?」
「『闇の夢』は人の闇。決して消えることはないわ。けれど、よんではいけない。みせられてはいけない。どんなに刺激的で魅力的であったとしても触れてはいけない光があるわ」
「分かる、気がする。どうすればいい?」
「知って。そして、学んで。そして、伝えて。それが人の力よ」
ヨミの手を握った女の手はやせ細っているはずなのに柔らかかった。
「進んで。前に。今のあなたなら出来るわ」
とん、と。
ヨミは背中を押された。そして、振り返った瞬間背後から黒い光が覆いかぶさる。
女は魔導書を抱えながら何かを叫んでいた。
魔導書は強い光を放ち、闇に飲まれた。
ああ、そうか。きっとこれはあの女の物語だ。
そして、この物語は―
ヨミは再び振り返り前へ進んだ。
前かどうかも分からないが、女が押してくれた方向へ進み続けた。
真っ黒な闇が暴れ続けている。
虫のような大量の黒い何かがごうごうと音を立てて暴れている。
ふと気づく……これは。
その瞬間、闇が通り過ぎ、ヨミは闇の向こう側にいた。
そこには、男と女が立っていた。
女は高貴な立場なのだろうか幾重にも重ねられた布で作られた服を着て、ぶつぶつと何事かを呟いている。
男は戦士だろう、剣を腰に差している。
そして、二人とも魔導書を手にしていた。
『これでりいだのてんかはおわる。おまえののぞんだせかいだ』
乾いた文字が男から浮かぶ。
『あとはわたしたちにまかせるといい。あんなほしをおくることしかできないれんちゅうではなく、われわれがせかいをうごかすのだ』
男は魔導書に語り掛ける。そして、新しい言霊を生み出している。
『らいたのためのせかいがはじまるのだ』
ヨミは何故だかその男の顔を見てると無性に腹が立った。
目の前の金色の美しい髪、整った容貌、豪華に着飾った男に苛立った。
「ねえ、」
声が聞こえた。
ヨミにかけられたようだ。
この物語はあの女の物語のはずなのに。
「あなたも星をくれないの」
もう一人の女はこちらを見ていた。
真っ黒な瞳が広がりヨミを飲み込もうとする。
そこで、
「ヨミ様!!!!!!!!!!」
ヨミの目の前にはエシルがいた。
魔族特有の只人とは違う色の瞳。
エシルは、【混沌】の言霊を先祖に持つため、紫に赤い丸、強い意志を感じさせる目をしていた。
「ヨミ様……何がありましたか?」
エシルの隣で真剣な目でイストが尋ねてくる。
イストの『聖女の魔導書』を触って光が溢れたのだ。当然だろう。
金色の美しい瞳に見つめられる。
その瞳に吸い寄せられるように口を開こうとしたその瞬間、
「ヨミ! 大変だ!」
赤髪のシジェラが慌てて駆け込んでくる。
「アイツらがお前を連れ戻すために勇者を送ってきやがった!」
ヨミは、小さく溜息を吐き、口を開く。
「ちょっと今、忙しいからあとにしてって伝えて」
「出来ねえよ!」
お読みくださりありがとうございます。
少しでも楽しんでいただければ何よりです。
また、☆評価やブックマークをしていただけるとありがたいです。
よければ、今後ともお付き合いください。
そして、空野奏多様の企画『ブルジョワポイント評価企画』には他にも様々なジャンルでポイントの大切さを訴えた素敵な作品がありますので、下のリンクから企画内容をお読みいただき、是非他の作品も読んでみて下さい!





